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F社タクシー乗務員懲戒解雇事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- F社タクシー乗務員懲戒解雇事件(パワハラ)
- 事件番号
- 横浜地裁小田原支部 - 平成8年(ワ)第550号乗務員懲戒解雇事件(パワハラ)
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年06月06日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、旅客運送業を営むことを目的とする株式会社であり、原告は昭和51年にD交通に乗務員として入社したが、その後同社が被告に買収されたのを契機に、昭和58年12月27日付けで被告に雇用され、乗務員として勤務していた。原告は平成元年9月、労働組合平塚支部の副支部長に就任し、その後も同副支部長に選任されていた。
原告及び平塚支部委員長のAは、平成7年12月頃、被告が乗務員に対し労働基準法に違反する長時間労働を行わせるとともに、女性アルバイト乗務員を使って営業していたことを隠すために、退職従業員の名前を本人に無断で使用し、従業員記録を書き換えていた違法があるとして、労働基準監督署及び陸運局にこれを告発した。ただ、この「公出」といわれる長時間労働は、被告と組合の間の協定に基づいて行われており、本件告発については組合員の反発が強く、組合本部も原告らに取下げを指導するなどした。
原告は、平成8年2月27日正午から平塚営業所建物内で開催された支部執行委員会に非就労届を提出して参加した。原告は同日午後5時頃話合いが終了した後、執行委員会を欠席したAら数名とともに市内のスナックに行き、同日午後7時過ぎから午後12時頃まで飲食して営業車両を運転して営業所に戻り、終業時刻である午前2時まで乗車しなかったところ、被告は、同年3月2日、職場放棄をしたとして原告及びAを懲戒解雇した。
同月中に、組合本部役員と被告との間で本件懲戒解雇に関する交渉が持たれ、原告は組合本部から退職届と支部執行委員を辞任する旨の誓約書を求められたが、その提出を拒否し組合の支援を断ったため、組合本部は本件懲戒解雇に関する交渉を打ち切った。一方Aは、退職届を提出したところ、被告はAの懲戒解雇を任意退職に変更した上で再雇用した。
原告は、平成5年12月に3時間の賃金カットを受けて以来本件懲戒解雇に至るまでの間、賃金カット、職場離脱を理由とする始末書の提出、減給、乗務停止、出勤停止等の懲戒処分を受けたことはなかった。被告は、原告に対し、本件懲戒解雇以前に営業メーターの不正操作を繰り返し注意してきたこと、飲酒運転をしたことがあったこと、何回か粗暴な言動で他の従業員を威迫したり、職場秩序を乱すなどの行為があったこと、特に平成8年2月10日には、同僚が平塚駅周辺での違法駐車の現場を写真撮影していることに激昂し、「会社の犬」、「バカ野郎」などと罵倒した外、課長に対しても大声で怒鳴りつけることなどの行為があったことを主張した。
原告は、本件懲戒解雇は解雇権の濫用に当たること、原告の組合活動を嫌悪したもので不当労働行為に当たることを主張し、解雇無効による雇用契約上の地位の確認と、解雇された日以降の賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告が被告会社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する
2 被告会社は原告に対し、金902万3201円及び平成12年2月25日以降、毎月25日限り金19万1983円を支払え。
3 訴訟費用は被告会社の負担とする。
4 この判決は、第2、第3項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件懲戒解雇の理由とされた非違行為は何か
被告の就業規則上職場離脱を懲戒解雇事由とする明示的規定が存在しないのに対し、営業車両メーターの不正操作については懲戒解雇事由としてこれと密接に関連する規定があり、また営業車両の飲酒運転は重大な非違行為であることは明らかであるから、仮に被告が原告の営業車両メーターの不正操作や飲酒運転を認識し、本件懲戒解雇の理由になっていたのであれば、本件懲戒解雇通告書にこれらを解雇事由として掲げていないのは極めて不自然である。
また、T課長が平成8年2月29日に原告から事情聴取を行った際や、同年3月2日に同課長が原告に解雇通告を行った際に原告に告知したのは、執行委員会終了後の職場離脱の事実だけであって、被告が本件懲戒解雇の理由として主張する営業メーターの不正操作、粗暴な言動、脅迫・虚偽申告による業務妨害、違法駐車及び飲酒運転については告知や事情聴取が全く行われなかったことは、それらが本件懲戒解雇の理由とされていなかったことを強く窺わせる。更に被告が、原告の粗暴な言動による職場秩序侵害行為、脅迫・虚偽申告による業務妨害行為及び違法駐車として主張する事実は、平成8年2月10日の事実を除けばいずれも本件懲戒解雇の半年から2年も前の事実であり、しかもその当時被告がこれらの事実につき何らかの懲戒処分を検討したと認め得る明確な証拠もなく、平成8年2月10日の粗暴な言動による職場秩序侵害行為と違法駐車の事実は、本件懲戒解雇に当たり、原告に告知されることも、懲戒解雇通知に記載されることもなかったものである。
以上によれば、被告が本件懲戒解雇の理由とした非違行為は、平成8年2月27日午後5時以降の職場離脱行為と、これと一連の行為で密接に関連する過去及びその直後の職場離脱行為のみであるというべきであり、被告の主張するその余の非違行為は、本件懲戒解雇当時、被告が認識していなかったか、認識していたとしても懲戒解雇に該当する事由としては考慮していなかったものと認められ、本件懲戒解雇の理由とされたものではないというべきである。
2 本件懲戒解雇事由の存否
平成8年2月27日、平塚営業所で執行委員会が開催され、同日正午から午後5時までの間非就労届を提出していたところ、同委員会は午後5時に終了したといわざるを得ず、同委員会に欠席したAに会議の内容を報告する必要があったとしても、スナックにおいて飲食を伴いながら行われた報告は執行委員会の延長とみることはできない。そうであるならば、原告としては、執行委員会が終了したからには、夕食を摂った後直ちに乗務に就かなければならなかったにもかかわらず、スナックで過ごした上、翌28日午前0時過ぎ頃平塚営業所に戻り、その後終業時刻である午前2時まで乗務をしなかったのであるから、同月午後7時から翌28日午前2時までは、無届けの職場離脱に当たるというべきである。
被告は、本件懲戒解雇前約1年間の原告が、平日で40分、休日で60分を営業車両を停車していた時間帯等は「客待ち」に非ざる停車時間であり、その合計時間が食事、休憩等のため認められている3時間30分を超える場合は、その超過時間は職場離脱時間とみなすことができる旨主張するが、平日で40分、休日で60分を超える停車時間を一律に客待ちでないとみなすことは合理性を欠き許されないから、右各時間を超えて営業車両を停車していた時間、午前8時以降営業車両を発車するまでの時間及び午前2時まで継続して停車していた時間の合計時間から3時間30分を引いた時間を職場離脱とみなすことはできない。そうとすれば、原告の職場離脱は、平成8年2月27日午後7時から翌28日午前2時までのみということになる。
原告が就業時間中に同僚とともに営業車両でスナックに赴き、約5時間を過ごしたことは、職場の秩序を乱したというべきではある。ところで就業規則は「職務上の指示命令に従わず粗暴な言動をし職場の秩序を乱したとき」と規定していることから明らかなように、懲戒解雇事由に該当するためには、職務上の指示命令に従わない粗暴な言動という手段を用いて職場の秩序を乱したことが必要であって、本件職場離脱によって職場秩序が乱されたとしても、これには該当しないといわざるを得ない。また被告では、職場離脱と同様に職場秩序を乱す無断欠勤については、無断欠勤が引き続き3日を超えたときや正当な理由なく遅刻又は欠勤が重なるときであっても譴責事由に留まり、正当な理由なく無断欠勤5日以上に及ぶときですら、業務停止、乗務停止、出勤停止、減給、降職の事由とされているにすぎず、従業員を懲戒解雇するには、正当な理由のない無断欠勤が14日以上に及ぶことが必要とされていることに鑑みれば、約5時間程度の本件職場離脱は、他の懲戒解雇事由に「準ずる程度の不都合な行為をしたとき」に該当しないといわざるを得ない。
以上によれば、本件懲戒解雇は、被告の就業規則に定める懲戒解雇事由に該当する事実が存在しないのになされたもので無効といわなければならない。
3 本件懲戒解雇は不当労働行為に当たるか
1)原告とAが行った本件告発は、被告が監督官庁から本件運行管理体制の是正を迫られたり、将来的な運賃値上げの申請が認可されない事態を招きかねないものであったこと、2)社長は本件告発を知るや、組合支部の執行委員や本部の副委員長との間で協議を行っていたこと、3)本件告発から3ヶ月も経たないうちに原告とAに対する懲戒解雇が行われたこと、4)原告は組合本部から退職届と支部執行委員を辞任する旨の誓約書を求められたがこれを拒否したのに対し、原告と同時に職場離脱を理由に懲戒解雇されたAは、解雇後退職届を提出し、再雇用された後は組合活動の第一線から退いたこと、5)原告は本件懲戒解雇当時副支部長であり、Aは支部長であったこと、6)原告は本件懲戒解雇以前にも、執行委員会終了後に食事をしながら組合活動等の話合いをしたことがあったが、被告が職場離脱を理由に懲戒処分を行ったことはなかったこと、7)被告は他の乗務員には適用したことがない不合理な職場離脱時間計算方法を原告にのみ適用したことなどのほか、本件懲戒解雇にはその理由が存しないことなどの諸点に照らせば、本件懲戒解雇は、被告が労働組合の役員であった原告の組合活動を嫌忌し、会社から排除する意図でなしたものであることを推認することができる。そうとすれば、本件懲戒解雇は、原告が労働組合の正当な行為をなしたことを理由になされた不当労働行為であって、無効といわざるを得ない。 - 適用法規・条文
- 労働組合法7条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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横浜地裁小田原支部-平成8年(ワ)第550号 | 認容(控訴) | 2000年06月06日 |
東京高裁 - 平成12年(ネ)第3247号 | 原判決取消(控訴認容)(上告) | 2001年09月12日 |