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富士見交通タクシー乗務員懲戒解雇控訴事件(パワハラ)

事件の分類
解雇
事件名
富士見交通タクシー乗務員懲戒解雇控訴事件(パワハラ)
事件番号
東京高裁 - 平成12年(ネ)第3247号
当事者
控訴人 富士見交通株式会社
被控訴人 個人1名
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年09月12日
判決決定区分
原判決取消(控訴認容)(上告)
事件の概要
 被控訴人(第1審原告)は、昭和58年12月27日付けで旅客運送業を営むことを目的とする控訴人(第1審被告)に雇用され、乗務員として勤務していた。被控訴人は平成元年9月、労働組合平塚支部の副支部長に就任し、その後も同副支部長に選任されていた。

 被控訴人は、平成7年12月頃、控訴人が乗務員に対し労働基準法違反等の違法行為を行っているとして、支部委員長Aとともに労働基準監督署及び陸運局にこれを告発した。被控訴人は、非就労届を提出して、平成8年2月27日正午から平塚営業所建物内で開催された支部執行委員会に参加し、同日午後5時頃話合いが終了した後、執行委員会を欠席したAら数名とともに市内のスナックに行き、同日午後7時過ぎから午後12時頃まで飲食し、同年3月2日、職場放棄をしたとしてAとともに懲戒解雇された。

 これに対し被控訴人は、本件懲戒解雇は解雇権の濫用に当たること、不当労働行為に当たることを主張し、解雇無効による雇用契約上の地位の確認と、解雇された日以降の賃金の支払いを請求した。
 第1審では、本件懲戒解雇は懲戒解雇事由なくなされたものであり、不当労働行為にも該当するとして無効と判断したことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。
主文
原判決を取り消す。

被控訴人の請求を取り消す。
訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
判決要旨
1 本件懲戒解雇の理由とされた非違行為とは何か

 使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないが、懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それがたとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、告知された非違行為と実施的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができると解するのが相当である。これを本件についてみるに、控訴人は本件懲戒解雇の際、被控訴人の非違行為のうち本件懲戒解雇前に行われたもの全てについて認識し、かつこれを懲戒解雇事由とする意思であったが、これが多岐にわたるため、本件懲戒解雇を最終的に決定する契機となった理由、すなわち平成8年2月27日の職場離脱のみを本件通告書に記載したに過ぎず、懲戒解雇事由をこれに限定する趣旨ではなかったものと認めることができる。

 控訴人は、タクシー乗務員の職場離脱、メーターの不正操作、営業車両の違法駐車、飲酒運転が多いことを重視して警告を繰り返し、平成元年頃には、被控訴人ら組合役員が就業時間中の職場内において控訴人に対する中傷等を行い正常な業務運営が妨げられているとして、組合本部に警告書を発するなどしていたこと、特に被控訴人及びAについては、勤務成績が悪く、営業車両の違法駐車、遅刻、無届けの職場離脱行為のほか、会社職制や職員に対する暴言、威迫行為が目立つとして、組合本部の役員らに対しその是正指導方を要請したが一向に是正されなかったことから、組合委員長に対しこのままでは被控訴人の解雇もやむを得ないと警告していたこと、同委員長はその都度解雇を避けるよう要請するとともに、被控訴人及びAに繰り返し忠告していたが、被控訴人らの態度が改まらなかったこと、このため社長は、平成7年4月15日、組合委員長に対し、被控訴人の解雇に踏み切らざるを得ないとの通告を行ったこと、これに対し同委員長が「もう1年だけ待って欲しい」と頼んだので、もう1度だけ猶予を与えることになったこと、同委員長は被控訴人及びAに対し強く注意したが、結局本件解雇に至ったこと、以上の事実が認められる。

 このような経緯も総合して考えると、被控訴人の平成8年2月27日の職場離脱及び飲酒の上での営業車両の運転行為は、他の非違行為ともども、被控訴人の勤務態度の劣悪さを示すものであるとともに、被控訴人が組合委員長からこれを改めるよう忠告を受けていたものであって、一体として密接な関連性を有するものとみることができる。したがって、本件通告書に記載された平成8年2月27日の職場離脱のみならず、それ以外の被控訴人の非違行為もまた、本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることができるというべきである。

2 本件懲戒解雇の懲戒解雇事由の存否

(1)職場離脱

 被控訴人が平成8年2月27日午後7時30分頃から午後12時頃までスナックで飲食しながら過ごし、その後も終業時刻である午前2時までの間乗務しなかった行為は、違法な職場離脱と認めるのが相当である。その間、一部組合活動に関する話がされたとしても、飲酒の上でカラオケやダンスに興じる者がいたことに照らし、違法な職場離脱に当たるとの判断を左右するに足りない。また、職場離脱が多いとして被控訴人から名指しのあった3名と比較して、その頻度及び程度においてこの3名を上回っていることなどに鑑みると、平成7年1月18日から平成8年2月29日までの間に、被控訴人において相当回数の違法な職場離脱があったと認めることができる。

(2)メーターの不正操作

 被控訴人には明らかに不合理なメーター操作が認められ、他の乗務員と比較して不自然なメーター使用方法が「迎車」絡みの場合に集中して記録されていることに照らすと、平成7年2月21日から平成8年1月12日までの間に、被控訴人による相当回数のメーターの不正操作があったものと認めることができる。確かに乗務員が無意識的な操作ミスを犯す可能性は否定できないとしても、タクシー会社にとって、料金管理及び労務管理上適正なメーター操作が不可欠であって、メーターの恣意的操作が行われた場合には、会社の存立にもかかわる事態に結び付くおそれがあることを併せ考えると、メーターの恣意的操作が許されないことは明らかである。

(3)営業車両の飲酒運転

 被控訴人は、平成8年2月27日、スナックにおいてブランデーのウーロン茶割りを何杯か飲み、かつ就業時間中にもかかわらず、他の従業員を乗せて営業車両を運転して営業所に戻ったのであるから、被控訴人が就業時間中に営業車両を飲酒運転をしたことは明らかである。かかる営業車両の飲酒運転行為が到底許されるものでないことは、敢えて多言を要しないというべきである。

(4)粗暴な言動等による職場秩序の侵害、業務阻害

 被控訴人の粗暴な言動及び他の従業員らに対する威迫行為は、その内容、態様に照らし、正当な行為としての限度を超えたものというべきであり、それにより控訴人の職場秩序が乱されるとともに、控訴人の業務が阻害されたことが認められる。

(5)営業車両の違法駐車

 被控訴人は、平成6年1月22日及び平成8年2月10日、公共の場に営業車両を違法駐車したほか、他にも同様の違法駐車を繰り返していたことが認められるところ、かかる行為はタクシー乗務員としての自覚を著しく欠く行為であるとともに、控訴人の信用を傷つける行為と認めるのが相当である。

(6)以上のとおりであるから、上記(1)ないし(5)の事実が存在し、これらは就業規則42条第2号(他人に対し暴行、脅迫を加え又は教唆扇動し業務を阻害したとき)、第3号(職務上の指示命令に従わず粗暴な言動をし、職場の秩序を乱したとき)、第5号(会社の名誉、信用を傷つけたとき)、第11号(料金メーターの不正行為が重なり悔悛の見込みがないとき)及び第12号(その他前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき)に該当するということができる。

3 本件懲戒解雇は解雇権の濫用に当たるか

 控訴人は、被控訴人の度重なる非違行為にもかかわらず、被控訴人の更正を期待し、組合本部とも連絡をとりながら、懲戒解雇の発動を見送ってきたのであり、本件懲戒解雇処分に至るまでに被控訴人に更正、弁明の機会を十分与えたものということができ、被控訴人の非違行為の内容、態様、程度等を併せ考えると、本件懲戒解雇は正当であり、解雇権の濫用には当たらない。

4 本件懲戒解雇は不当労働行為に当たるか
 被控訴人及びAに対する本件懲戒解雇は、被控訴人らが運行管理体制を是正する目的で本件告発をした後約3ヶ月後に行われたこと、被控訴人は本件懲戒解雇後、組合本部から退職届と支部執行委員を辞任する旨の誓約書の提出を求められたがこれを拒否したのに対し、Aは退職届を出して任意退職扱いに変更されて再雇用され、その後組合活動の第一線から退いたことが認められる。しかしながら、いわゆる「公出」等による乗務員の長時間労働は、控訴人と組合との間で締結された協定に基づいて行われていたものであること、このため本件運行管理体制を告発することは多くの組合員の意に反することでもあり、被控訴人らが執行委員の一部の意見を聞かず、かつ組合の機関決定を経ることなく本件告発を行ったことに対する組合員の反発が強かったことから、組合本部は被控訴人に対して本件告発を取り下げるよう指導したが、両名がこれに従わなかったため、組合本部役員がこれを取り下げたこと、被控訴人は委員長から就業態度の改善是正を促されていたにもかかわらず、これに応じようとせず、非違行為を重ねた上、本件懲戒解雇の直接の契機となった職場離脱及び営業車両の飲酒運転という重大な非違行為に及んだばかりでなく、その後もこれに反省する態度が窺われなかったこと、本件懲戒解雇後、平塚支部及び茅ヶ崎支部は、それぞれ被控訴人の本件懲戒解雇問題に関する支援をしないことを決定するとともに、平塚支部は被控訴人の組合員としての権利を停止する処分をしたことなどの事実が認められるのであって、これらの事実を併せ考えると、本件懲戒解雇は、被控訴人の就業態度の不良を理由として行われたと認めるのが相当である。労働組合の役員であった被控訴人の組合活動を嫌忌し被控訴人を排除する意図で行われたと認めることはできない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
[収録文献(出展)]
その他特記事項
本件は上告された。