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N社合意退職控訴事件(パワハラ)

事件の分類
解雇
事件名
N社合意退職控訴事件(パワハラ)
事件番号
東京高裁 - 平成13年(ネ)第2115号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年09月12日
判決決定区分
控訴棄却(上告)
事件の概要
 控訴人(第1審原告)は昭和40年にF社に雇用された後、同社が被控訴人(第1審被告)に買収されたことにより被控訴人に直接雇用され、昭和60年以降被控訴人霞ヶ浦工場において勤務していた。

 控訴人は、平成5年10月に発生したT暴力事件に関わったとして平成8年3月に告訴されたが不起訴になった。その後平成12年5月17日、工場長は原告に対し、本社がT暴力事件に関して処分を検討している旨伝え、処分前に身を処すことをアドバイスするなどしたところ、控訴人は自ら退職届を作成し署名押印した上で、同工場長に提出した。

 翌18日、控訴人が弁護士に事情を説明したところ、一刻も早く退職届を撤回するよう指示があったため、控訴人は直ちに本件退職届を撤回する旨の書面を被控訴人に提出するとともに、工場長らの面談は退職強要であるとして被控訴人に抗議した。

 控訴人は、被控訴人が処分を長期間放置し、不起訴処分が確定した後になって6年前の事象を理由に懲戒処分を告知しているところ、これは労働契約上の信義則違反に当たり、工場長らの言動は、本人と家族の生活基盤の喪失という危険を告知することによって恐怖に陥らせるものであって、強迫に該当するとして取消しを主張した外、予備的主張として、本件退職の意思表示には法律行為の錯誤があって無効であるとして、労働契約上の地位にあることの確認を請求した。

 第1審では、控訴人の退職の意思表示は強迫や錯誤によるものではないとして、控訴人の労働契約上の地位を求める訴えを棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。
主文
1 本件控訴を棄却する。

2 訴訟費用は、控訴人の負担とする。
判決要旨
 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないので棄却すべきものと判断する。

 控訴人は、終始冷静に判断して行動しており、自宅において一晩過ごした後にも、なお自己都合による退職をする意思に何ら変わりがなかったものと推認されるのであって、控訴人が、工場長らの発言により、畏怖し、絶望的な心理的状態に陥って正常な判断能力を失い、本件退職願を提出するに至ったものとは到底認められない。

 1)被控訴人は、T暴力事件に関し、控訴人の処分をいたずらに長期間放置していたとはいえないこと、2)控訴人がTに対して行った暴行の態様は必ずしも明らかではないものの、控訴人自身、Tのベルトや襟首を20ないし30秒掴んだ事実は認めており、Tが負傷した事実を併せ考慮すると、控訴人がTに対して暴行を加えた疑いは否定できないこと、3)控訴人自身が認めている行為自体、就業時間中に自己の所属部署を離れ、管理職に対し有形力を行使するというものであり、企業内秩序を乱す行為として懲戒処分の対象になり得る行為と解されることを考慮すると、被控訴人が平成12年5月時点で控訴人に対する懲戒処分を検討したことが不当とはいえない。したがって、工場長らが、控訴人に対し、被控訴人において控訴人の懲戒処分が検討されている旨の発言をしたことが労働契約上の信義則違反、権利濫用に当たるとは認められない。
適用法規・条文
民法95条、96条
収録文献(出典)
[収録文献(出展)]
その他特記事項
本件は上告されたが、不受理とされた。