判例データベース
O社解雇事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- O社解雇事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成13年(ワ)第17072号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年08月09日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、韓国所在のサムスングループに属し、平成12年9月に設立された会社であり、インターネットに関するサービスを提供する事業、韓国のベンチャー企業の日本進出を支援する事業(ブリッジ業務)、韓国ベンチャー企業の製品(ソリューション等)の日本企業への販売事業を行っており、原告(昭和31年生)は、平成12年12月1日付けで事業開発部長として被告に採用された者である。原告は同年11月27日、被告に対し誓約書を提出したが、それには社員としての遵守事項が記載されていた外、「試用期間中、本人の実務修習状況と素質を勘案して会社が辞退を韓国した場合は、無条件、即時辞退すること」と記載されていた。平成13年1月24日、被告は原告に対し解雇する旨口頭で告知した(本件解約通知)が、その本採用拒否の理由は次のとおりであった。
1 業務遂行の速やかさに欠け、被告の今後の事業運営の方針に適合しないと判断されること、具体的には、1)韓国出張後に韓国企業への挨拶状の送付などの対応が遅れ、韓国企業から不信を招いていること、2)O社のセールスに関し、平成13年1月24日現在で僅か6社しか訪問していないこと、3)同月に月間販売目標4社について全く見通しが立っていないこと。
2 被告代表者の業務上の指揮命令に従わないこと、具体的には、1)日本経済新聞の購読を再三にわたり指示されたにもかかわらず、これを行っていないこと、2)業務報告書の作成方法に関する改善を再三にわたり指示されたにもかかわらず、これを行っていないこと。
3 提出された経歴書記載の「経験」及び「実績」が、被告の期待する水準に達していないこと。
4 被告の業務運営上必須とされる英語力が被告の期待する水準に達していないこと。
これに対し原告は、被告から試用期間の説明を受けておらず、しかも誓約書には試用期間が3ヶ月である旨記載されていないことから、試用期間の合意は成立していないこと、業務遂行は適切であり、英語能力も十分にあり、職業履歴書の記載にいつわりはなく、一部不十分な点はあったが、これが原告の評価を左右するものではないことなどを主張して、被告との雇用契約上の権利を有することの確認と賃金の支払いを制球した。 - 主文
- 1 原告が被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、1408万3420円及び平成14年4月21日から判決確定の日まで、毎月21日限り月額108万3340円を支払え。
3 原告の請求中、判決確定後の日の翌日以降の賃金の支払いを求める部分に係る訴えを却下する。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、主文2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 試用期間の有無について
原告が、B社長、Cに次ぐ事業開発部長として年俸1300万円で雇用されたこと、B社長が原告の業務遂行状況を見て業務能力及び適性の有無を判断し、これが良好であれば原告を取締役にする予定であったこと、原告が被告に雇用される前に数社を転職しており、その中には試用期間が設けられていたものがあったこと、原告が提出した誓約書には試用期間の存在を前提とした記載がされており、原告がそれに異議を述べなかったことが認められる。これらの事実によれば、原告と被告との間で、原告の事業開発部長としての業務能力を把握し、その適性を判断するための試用期間を定める合意が成立していたものと認められ、この合意は有効というべきである。そして、被告がした本件解約告知は、雇用から2ヶ月経過してされたものであり、原告の業務能力を把握し、その適性を判断するための合理的期間内にされたものといえる。ただし、本件解約告知が有効と認められるためには、上記試用期間の趣旨・目的に照らし、客観的に合理性があり、社会通念上相当として是認されるものであることが必要というべきである。
2 本件解約告知の効力について
(1)業務遂行状況の不良について
原告は、ブリッジ業務について、関係者を訪問する等して関連情報や参考資料を入手するとともに、韓国企業との間で連絡を取り合い、業務の進捗状況を報告する、相手方製品の情報の入手に必要な秘密保持契約を締結する、相手企業の求めに応じて事業計画を提示する等、同業務の遂行に必要な事項を実施しており、これらが不適切であったと認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると、原告による訪問先の韓国企業への対応が不良であったと認めることはできない。
原告が被告に対し、平成13年1月15日、業務進捗表を提出したが、被告から改善を指示され、同月22日に訂正した業務進捗表を提出したが被告から再度改善を指示され、同月29日に内容を詳細にした業務進捗表を提出したことは認められる。しかし、業務進捗表は、週1、2回の定期ミーティングにおいて、各社員が各自の業務遂行状況を説明するための参考資料として作成されたものであり、社員によってはこれを作成しなかったり、作成しても簡単なメモ程度であったことが認められ、これらを併せ考えると、業務進捗表に関する上記事実をもって原告の勤務遂行状況が不良であったと認めることはできない。
原告がO社の製品(ソリューション)販売に従事していたが、販売契約の成立に至った案件はなかった。しかし、原告は入社当初からO社の製品販売に従事することになっていたものの、平成13年1月になって顧客のリストをB社長又はCから入手したことから、その後に同顧客以外の者に営業活動を開始せざるを得なかったこと、原告は企業訪問を10回以上行ったこと、同製品の価格が2700万円である上、顧客層が限られたものであったこと、原告はこれら企業訪問で得た情報をO社に伝え、製品の内容、販売方法を再検討しようとしていたこと、原告の解雇後も同製品を販売することができなかったことが認められ、これらの事実によれば、原告における同製品の販売実績をもって、業務遂行状況が不良であったと認めることはできない。更に被告は、原告が同製品の営業展開方針について提案しなかった旨主張するが、被告がこのような提案をするよう命じ又は指示したことを認めるに足りる証拠はない上、同製品の販売業務について、原告らがそれぞれB社長に報告していたことに照らすと、原告が上記のような提案をしなかったことをもって、直ちにその職務遂行状況が不良であったと認めることはできない。
平成12年12月18日、S社が被告に提示した業務に関する覚書について、原告がS社担当者との間で覚書の重要な部分について度々折衝を行い、その結果従前より被告に有利な内容で覚書の締結に至ったことが認められる。これらの事実によれば、原告はS社の製品の販売に必要な覚書の締結に当たり、契約内容をより有利にするために貢献したものと認められるから、原告の業務遂行状況が不良であったと認めることはできない。
(2)適性の欠如について
原告の業務施行状況に照らすと、仮に原告が事業開発部長として被告主張のような職責を果たすことを期待されていたとしても、原告が解雇されるまでの2ヶ月間にそのような職責を果たすことは困難であったというべきであり、またその後に雇用を継続しても、原告がそのような職責を果たさなかったであろうと認めることはできない。したがって、原告が被告主張のような職責を果たさなかったことをもって、原告の職務遂行能力が不良であったと認めることはできない。
B社長は原告の実務英語力を問題にするが、原告が韓国企業との間で業務上の交渉を英語で支障なく行っていたこと、TOEIC試験において990点満点中760点を得ており、これはビジネスマンが海外駐在員として対応できる程度にあるとされていること、原告が被告の紹介文を英語で作成していること、原告は被告入社前に外国企業と英語で交渉をしていたことが認められる。これらを併せ考えると、B社長の証言は採用できず、原告が事業開発部長として必要な実務英語能力に欠けていたと認めることはできない。
(3)職務経歴書の不実記載及びB社長の証言又は陳述について
原告が平成3年7月から平成9年10月までの間、出向ではあるがK社に在籍していたこと、出向した先がK社の関連会社であることに加え、原告が米国製品を輸入し、日本で販売する業務や新規事業の立上げに従事した経験があることに照らすと、職務経歴書におけるK社の東京本社電子事業部にマネージャーとして所属していた旨の事実と異なる記載は、事業開発部長としての適格性を大きく左右するものと認めることはできない。
B社長は、以上の各事実に加えて、1)韓国出張の際に訪問した13社に対し挨拶状を8社にしか出さなかったこと、2)O社製品を販売するためには同社と被告との間で販権契約を締結する必要があったが、適切な措置を講じなかったこと、3)韓国出張に当たり作成した被告の紹介文が不適切であったこと、4)社内の壁に「電話は3回以内で出ること」と記載した紙を貼ったこと、5)雇用に関する補助金給付を申請するためにハローワークを4回も訪問したこと、6)平成13年1月中頃まで社内電話のピックアップの方法を知らなかったこと、7)旧正月に韓国に帰国予定だったO社の社員に対し、さほど重要でない取引先への訪問を強要し、そのため同社員が帰国できなかったこと、8)日本経済新聞を購読するようにとの指示に従わなかったこと、9)業務遂行がスピード感を欠いたこと、10)B社長への報告・連絡・相談が不適切であったことを証言し、陳述するが、いずれも採用できない。
3 結 論
以上によれば、原告の業務遂行能力又は業務遂行が著しく不良であるとか、原告が事業開発部長として不適格であったと認めることはできず、本件解約告知は、試用期間中の採用拒否として、客観的に合理的な理由があるとか、社会通念上是認することができるということはできない。したがって、本件解約告知は無効である。原告は被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、及び本件解約告知後の賃金として、金員の支払を求めることができる。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- [収録文献(出展)]
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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