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F社パワハラ社員諭旨解雇仮処分申立事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- F社パワハラ社員諭旨解雇仮処分申立事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成21年(ヨ)第21167号
- 当事者
- 債権者 個人1名
債務者 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2010年02月26日
- 判決決定区分
- 申立却下(抗告後和解)
- 事件の概要
- 債務者は、たばこの販売促進等を目的とする株式会社であり、債権者(昭和47年生)は、平成12年、合併前のB社に入社して、合併後債務者の正社員となり、たばこのルート営業(コンビニ等に対するたばこの陳列等の営業)等に従事していた。債権者は、その当時、厚木ユニットのユニットマネージャーの地位にあり、同ユニットに在籍する7人のテリトリーセールスマネージャー(I、N、M、Y等)の管理監督をしていた。
Yは、平成21年6月25日、債務者に対し、体調を崩したのに債権者が十分な療養の期間を与えず、深夜にわたる業務を強要し、年休の取得を認めなかったとの報告をした。Nは、同月29日、債務者に対し、債権者がNらに対し所定のコンビニ以外での使用を禁止されているパックレール(陳列用プラスチックケース)を使うよう指示し、その責任をNに負わせようとしたという報告をした。また債権者は、翌30日、Iに対し、「Iは人事評価が低いからいずれクビになる」などと虚偽の報告をさせようとし、RやSについて、「Nに報復をした」とか「SがNに暴力を振るった」などと虚偽の報告をするよう働きかけたりしたため、これを受けたNは債権者を恐れて、7月1日債務者に対し、債権者がRとSについて虚偽の報告をするよう求めたという報告をした。この報告を受けた債務者は、7月2日、IやNの身辺の安全確保が必要と判断して、債権者に対し自宅待機命令と他の社員との連絡を禁じる旨の命令を発した。一方、同日、債権者は債務者に対し、RとSにハラスメントと差別を受け、これを報告した後、Gから報復されたという報告をし、自宅待機命令を発令されていたにもかかわらず、NやIやMに電話をかけた。
債務者は、上記の報告に基づき、コンプライアンス委員会において審議した上、債権者を諭旨退職とする意思決定をし、同月24日、債権者に対し諭旨退職の通告をした。債権者は同日、債務者に対し退職届を提出したが、同月29日、退職の意思表示は人事部長により「今退職届を書かなければ懲戒解雇する」などと強制されたものであるとして、その取消を通知した。
債権者は、上記退職届は、人事部長の脅迫により強制されたものであるからこれを取り消し、または債権者の錯誤により誤って表示されたものであるから無効であるとして、債務者の従業員としての地位の保全と賃金の支払いを求めて仮処分の申立をした。 - 主文
- 1 本件申立をいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。 - 判決要旨
- 1 諭旨退職事由の有無について
債権者は営業成績を上げるために、部下に対し、禁じられているにもかかわらずパックレールの使用を指示しただけでなく、債務者の調査において自己の関与を認めず、その責任を部下に負わせようとした。また債権者は、この件に関してコンプライアンス調査を受けた際、その内容を部下に漏らした挙げ句に、部下に対し、上司が暴力を振るった等の虚偽の報告をするよう求めた。更に債権者は、自宅待機中、他の社員との連絡を禁じる旨の命令に違反して、部下に何度も電話をかけた。
このような事実によれば、債権者は、自己の保身のために、部下に対し上司について虚偽の報告をするよう求め、更に自らも虚偽の報告をして、会計諸規程・方針に違反したものということができる。特に債権者は、債務者の奨励する「スピークアップ」(コンプライアンス違反を報告する義務)を悪用して債務者のコンプライアンス調査を誤らせようとしたと考えられるのであり、その違反の程度は重大というべきである。また債権者は、債務者の命令に違反して部下に電話をかけており、これによって業務命令に従わなかったことが明らかである。したがって、債権者には「業務上の命令に従わない」と「会社諸規程・方針に重大な違反を行った」の諭旨解雇事由が認められる。
債権者は、パックレールの使用は他の社員間にも横行しており、交通事故のようなものであるとか、Nの行状には問題があり、その報告等をそのまま信用した債務者の判断は根拠薄弱であるなどと主張している。しかし、コンプライアンスやインテグリティ(高潔さ、廉直さ)を重視する債務者において、ユニットマネージャーである債権者が、部下に対しパックレールの使用を指示しておきながら関与を認めず、更にこれを交通事故のようなものというのは、債務者の方針等に合わない無責任な態度といわざるを得ない。また債務者は、Nの報告を受けて、同人だけでなく、IやMからも事情聴取を行っているのであり、Nの報告等だけによって債権者を諭旨解雇にするという判断をしたわけでもないから、債権者の上記主張は失当というべきである。
2 人事部長の強迫又は債権者の錯誤の有無について
債権者は、人事部長の退職願の速やかな提出の説得に対して、その場で妻に電話をかけて退職の連絡をした上、人事部長から受け取った用紙に一身上の都合により退職するという退職願を作成して提出したこと、債権者はこれに引き続き、健康保険の継続等、退職に伴う諸手続きをしたことなどに照らして、本件退職の意思表示が、人事部長の強迫により強制されたものであるとか、債権者の錯誤により誤って表示されたものとは認められない。そうだとすると、債権者の退職の意思表示は、諭旨退職事由の存在を踏まえて、その自由意思に基づき有効にされたものと認められる。したがって、本件において被保全権利の存在を認めることはできない。 - 適用法規・条文
- 民法95条、96条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
- 本件は抗告後和解した。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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