判例データベース

警備員解雇事件(パワハラ)

事件の分類
解雇
事件名
警備員解雇事件(パワハラ)
事件番号
横浜地裁 - 平成22年(ワ)第17484号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社(A)、株式会社(B)
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2011年01月19日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告Aは、有料老人ホームの経営等を目的とする会社で、本件当時本件施設を経営し、その事務管理業務、施設管理業務等をH社に委託しており、被告Bは、不動産の管理及び建物の清掃等を業とする会社であって、H社から本件施設の警備及び施設管理業務の一部を再委託されていた。一方原告は、被告Bとの間で雇用契約を締結し、本件施設において警備員として稼働していた。

 被告BのI警備部長は、平成21年9月24日頃、本件施設の職員や清掃業務員から、原告は不満が多く、実習を受ける態度も余り良くなく、言葉遣いも高圧的である旨の苦情を聞いた。その後も本件施設の関係者複数名から、原告の言葉遣いや態度に不満が寄せられたため、I部長から報告を受けたJ専務は、同年10月7日、原告に対しこれらを改めるよう指導し、原告は努力する旨答えた。

 I部長は、同月15日、H社のC支配人から、原告による指示違反や、基本的かつ重要な業務の不適正な遂行などの不満の外、居住者に積極的に声を掛けて欲しい、日頃の態度に明朗さがなく、言葉遣いが高圧的だから改善してもらいたいという要望が本件施設の職員等から出ている旨聞いた。

 本件施設に夜間救急車が来る場合、裏門を開けて救急車を誘導し、玄関の鍵を開けて救急隊員を入館させる必要があるところ、その業務は実施要領上も警備員の仕事とされていた。同年10月7日、ケアスタッフDは、原告に電話を架け、救急車が来るから裏門及び裏玄関のドアを開けるよう伝えたが、原告は何をすれば良いかわからないと答えたため、やむを得ずDが裏門を開け、原告に玄関を解錠させた。同月10日には、居室に1人で立ち入らないよう指示を受けていたにもかかわらず、原告はコールを受けて居住者の居室に1人で立ち入り、居住者を立腹させた外、その後も本件施設関係者から、原告の勤務態度に不満が述べられたり、指示違反が続いたりしたことから、J専務は原告について勤務変更をすることとし、同月23日、原告の勤務場所を変更し、出社の指示をした。しかし原告は出勤拒否を続けたことから、同年12月2日、被告Bは原告に対し本採用拒否を通告し、翌3日までの賃金と解雇予告手当を支払った。

 これに対し原告は、入居者に対する対応は十分であり、協調性にも問題なく、ミスもなく、無断欠勤もしておらず、本件解雇は合理的理由なくされた悪質なものであるから不法行為を構成するとして、被告Bに対し、賃金相当額の逸失利益及び慰謝料合計50万円、被告Aに対し、H社の従業員からの苛めに対する慰謝料50万円を請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 解雇の違法性について

 J専務は、C支配人等から、直接又はI警備部長を通して、複数回にわたって原告の勤務態度につき苦情を受け、その都度原告に対し指導したにもかかわらず原告の勤務態度は改まらなかったこと、原告は、入居者の生命や、警備員等に対する信用に関わる重要かつ基本的な業務について不十分な対応をし、かつ反省も十分でなかったことから、原告が本件施設での勤務に適していないと判断し、本件変更を決定したものと認められる。そして、本件施設は老人ホームであり、入居者への丁寧な対応が要求されること、被告BはH社から警備業務を委託されている関係にあり、H社との信頼関係が損なわれると委託契約を解除されるおそれがあることも考慮すると、被告Bが本件変更を決定したことが不合理であり、違法であるとは認められない。以上によると、被告Bが本件変更を決定したことは不法行為に該当しない。

 1)I部長は、J専務の命を受け、平成21年10月26日午前9時に被告B本社に出社するよう指示したが、原告は同日午前10時30分過ぎに出社し、遠くて早く来られないと言ったこと、2)J専務らは、同日原告に対し、翌27日から新たな就業先が決まるまで本社に出社するよう指示したが、原告は同日出社しなかったこと、3)I部長は、同月29日、原告に対し、同年11月4日午前10時に本社に出社するよう指示したが、原告は午前11時15分に出社したこと、4)同日J専務らが原告に対し、本件ビルを新たな就業場所として提示したところ、原告はその異動を拒否し、その後被告Bに連絡することなく出社しなかったこと、5)原告は同年11月9日、東京紛争調整委員会にあっせんを申請し、申請書に、理由もなく突然出社拒否と言われたなどと記載したこと、6)I部長が同月10日、電話で原告に欠勤の理由を尋ねたところ、原告は本件ビルでの勤務は諦めたと述べ、それ以降欠勤を続けたこと、7)J専務は同年12月2日、原告の無断欠勤、遅刻、協調性の欠如、あっせん申請書への虚偽記載を理由として、本件本採用拒否を決定したこと、8)被告Bは原告に対し、同年12月3日まで賃金を支払い、かつ同月9日、30日分の平均賃金を支払ったことが認められる。

 上記認定事実によると、被告Bは、原告がその勤務態度等から、本件施設における勤務に不適当であると判断した後も、即座に原告を解雇することなく、新たな就業場所として、通勤時間の短い本件ビルを提示したが、原告はこれに応じないだけでなく、被告B本社への出社命令にも従わず、無断欠勤を繰り返したことなどから、原告を解雇(本件本採用拒否)するに至ったと認められ、このような原告の勤務態度、事実経過、更に被告Bが本件本採用拒否までの賃金に加え、30日分の平均賃金も支払ったことを併せ考慮すると、上記解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつやむを得ない事由によりされたものと認められ、上記解雇に違法な点は認められない

2 業務指示の違法性について。

 原告は、採用面接の際、I部長から、業務内容について、警備半分、設備半分との説明を受けたこと、本件実施要領によると、フロント業務、新聞の仕分け、その他入居者の部屋の営繕作業等は原告の業務内容であったと認められる。また、風呂の管理は設備の仕事であると認められることからすると、これも原告の業務に含まれるものと解される。原告は、風呂の清掃が原告の業務でなかった根拠として、風呂場の清掃員がいることや、きつい仕事であることを挙げるが、上記各事実をもって原告に風呂の清掃を命じることが著しく不合理であるとは認められない。更に、仮に原告の業務が過多であったとしても、それのみによって被告Bに不法行為が成立するとは認められない。以上によれば、原告の被告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

3 被告Aに対する不法行為に基づく損害賠償請求について

 原告は、1)C支配人が原告に対し、「お前は性格が悪い」、「気にくわない」などと侮辱する発言をし、またD、Fともに原告をいじめたこと、2)C支配人が、原告は本件指示違反をしていないのに、本件指示違反について業務日誌に記載したこと、3)C支配人が、原告と他の従業員がコピー機の取付けに行ったところ、他の従業員に対して優しい言葉で教える一方、原告は無視し、にらみつけて馬鹿にしたこと、4)Dが、本件指示違反について、勘違いして原告をにらみつけて馬鹿にしたことから、精神的苦痛を被った旨主張するが、1)についてはこれを認めるに足りる証拠はない。2)については、原告は平成21年10月7日、Dから裏門を開けるよう連絡を受けたが、これをしなかったことが認められるところ、業務日誌の記載内容に違法な点は認められない。3)及び4)については、これらの事実を認めるに足りる的確な証拠はない上、仮にこれらの事実が認められたとしても、C支配人及びDの各行為のいずれも違法な行為と認めることはできない。よって、原告の被告Aに対する請求は、その余について判断するまでもなく理由がない。
適用法規・条文
民法709条、715錠
収録文献(出典)
[収録文献(出展)]
その他特記事項