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派遣会社待機社員解雇事件(派遣)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 派遣会社待機社員解雇事件(派遣)
- 事件番号
- 横浜地裁 - 平成21年(ワ)第3504号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年01月25日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、労働者派遣法に基づく派遣事業等を目的とする株式会社であり、平成18年、Gエンジニアリングと合併し、持株会社であるGグループ株式会社の完全子会社となった。Gグループの中核であったG社は、平成20年1月11日、東京労働局から労働者派遣事業停止命令及び労働者派遣事業改善命令を受け、職業安定法違反幇助により罰金刑が適用されたことなどから、同年7月31日、一般労働者派遣事業及び有料職業紹介事業を廃止した。一方原告は、平成8年に被告との間で派遣労働者(技術社員)として雇用契約を締結し、平成17年までH製作所戸塚工場に派遣されて就労し、その後F電工平塚工場に派遣替えとなり、平成21年3月31日まで同所で勤務していた。
平成20年9月以降、米国の金融危機に端を発した経済不況により、派遣先企業において派遣等の需要が減退し、被告を含めたGグループの経営環境は一層厳しくなった。被告は平成20年度における待機社員の増加並びに経常利益及び経常利益率の低下を受けて、経営再建を図るようになり、被告及びGグループの3社において平成21年4月15日を退職予定日として待機社員4000名の人員削減を計画し、被告においては、多数の派遣先から同年3月末日に期間満了を迎える労働者派遣契約を更新しない旨の通知を受け、同月末日の待機社員数が494名との見込みとなったため、各支店で説明会を開催した上、待機社員中、同年4月に新規配属された者及び同年3月末から4月末日までに自己都合退職した3者を除く351名に対し解雇を通告した(本件解雇)。
これに対し原告は、整理解雇においては整理解雇の4要件を満たすべきところ、本件解雇はその要件を満たしておらず無効であるとして、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金の支払いを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、平成21年6月15日から本判決確定の日まで、毎月15日限り、29万5500円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 本判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 本件解雇は、整理解雇に該当するところ、整理解雇は使用者の経営上の理由による解雇であって、その有効性については厳格に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇の回避努力、人選の合理性及び手続きの相当性という4要素を考慮するのが相当である。
1 人員削減の必要性
平成20年度における被告の売上げ及び売上総利益が平成19年度より減少していたこと、平成21年3月末までに派遣契約解消のため待機社員となる技術社員が494名、同年4月の待機社員が420名(待機率17.1%)にのぼっていたことが認められ、こうした待機社員の増加が、派遣事業を目的とする被告の経営に影響を及ぼすことは否定できない。またRグループの中核会社であったG社が労働者派遣事業停止命令等を受けたことを経て労働者派遣事業を廃止するに至ったこと及びRホールディングスの業績悪化は被告の信用力等に一定の影響を与えたと推認される。
しかしながら、被告は平成20年5月度に経常利益が赤字に陥った以外、本件解雇以前の少なくとも過去数年間は一貫して黒字であり、本件整理解雇に当たって人員削減の目標を定めていたか否かも明らかでない。また被告は、本件解雇予告通知日から約10ヶ月後の平成22年1月から求人を行うととともに、退職者に声をかけて復職させている。そして被告は、平成20年度決算で22億円を超える貸倒引当金を計上したと主張するが、貸倒引当金の裏付けとなる貸借対照表及び損益計算書等の客観的な経営資料を提出していないため、かかる事実を認めることはできない。加えて、被告は平成20年4月頃までにRホールディングスに対して20億6500万円を貸し付け、未払利息も含め20億8841万円余もの債権放棄をする一方で、前記貸付金と相殺することもなく、平成20年度当初から指導料として毎月約5000万円もの支払を続けていたのであって、この点も被告における人員削減の必要性を考えるに当たって消極的に判断すべき要素というべきである。そして、これらの事情を総合すれば、被告の経営状態は好ましくない方向に推移していたものと認められるものの、被告に切迫した人員削減の必要性があったとまでは認めるに足りない。
2 解雇回避努力
被告は、平成20年7月以降、支店・本社の部署を統廃合等して賃料及び人件費を削減したこと、役員報酬及び間接社員の給与の減額をしたこと、平成21年入社予定の新卒採用を中止したこと、間接社員を対象として希望退職者の募集を実施して合計121名が退職したこと、待機期間45日ないし120日以上の技術社員に対して退職勧奨を行って合計393名が退職したこと、待機社員4名をRグループ内の他社へ転職させたこと、一部の待機社員の一時帰休を実施したことがそれぞれ認められ、解雇を回避するために一定の措置を講じたといえる。しかし、被告が本件整理解雇当時に人員削減目標を定めていたかも明らかではなく、また被告は技術社員に対する希望退職者募集を一切行わないまま、平成21年3月末時点での待機社員の人数が494名に上るとの予測を受けて、直ちに待機社員351名にも及ぶ本件整理解雇の通知を行っている。こうした事情によれば、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避するための努力を十分に尽くしたとは認められない。
3 人選の合理性
被告は、平成21年3月末時点で待機状態にあり、同年4月に新規配属されない若しくは自己都合退職しないというだけで、これまでの就業状況を一切考慮せず待機社員351名を本件整理解雇の対象としているため、本件整理解雇の人選基準が一般的に合理性を有するとは認め難い。そして、原告が被告と雇用契約を締結してから13年間にわたり継続的に派遣先で勤務し、平成21年3月末に初めて待機社員となった原告の就業状況等を顧みることなく直ちに同年4月末に本件解雇の対象としたことに合理性を見出すことは困難というほかない。以上のとおり、本件整理解雇については、その人選基準それ自体に合理性がない上、本件解雇に至るまでの原告の稼働状況に照らしても、原告を本件整理解雇の対象とすることには合理性がない。
4 手続きの相当性
Rグループが平成21年2月25日、分会に対してリストラの実施を申し入れ、同年3月17日までに団体交渉及び事務折衝を継続し、同日人員削減の条件等について合意に達したこと、被告が同年3月9日、原告を含む解雇の対象者に対し、人員削減についての説明会を開催し、質問事項については後日従業員に対し回答書をメールで送付し説明したこと、原告が平成21年4月3日に加入したJMIU(全日本金属情報機器労働組合)との間においても2度の団体交渉を開催したことが認められる。このように被告が一定の説明及び協議を行っていること並びに分会との交渉及び合意に至った経緯も総合すれば、被告の対応が明らかに相当性を欠くとまではいえない。
5 結論
以上の諸事情を総合的に勘案すると、本件整理解雇の時点で被告に切迫した人員削減の必要性があったとまでは認められない上、被告において、本件整理解雇に先立ち、解雇回避努力を尽くしたとはいい難く、本件整理解雇の対象者の人選についても合理性を認めることができないから、従業員及び労働組合との協議・説明については明らかに相当性を欠くとはいえないことを考慮しても、本件解雇は就業規則の「経営上やむを得ない事由のあるとき」に該当するとは認められず、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められない。したがって本件解雇は無効であって、原告は被告に対して、労働契約上の権利を有する地位にあると認められる。 - 適用法規・条文
- 労働契約法16条
- 収録文献(出典)
- [収録文献(出展)]
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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