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H社バス運転手事件

事件の分類
解雇
事件名
H社バス運転手事件
事件番号
札幌地裁 - 昭和53年(ワ)第252号
当事者
原告 個人1名
被告 バス株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1981年05月08日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は。昭和23年に被告に採用され運転手として勤務し、昭和42年3月頃から被告の赤平ターミナルに車輌整備管理者として勤務していた。原告は昭和48年2月に高血圧症と診断され、通院加療し、昭和49年3月6日には定期診断で要加療の診断を受けた。

 同年10月19日、滝川営業所長(所長)は原告に対し滝川営業所の整備管理者として転勤するよう内示した。これに対し原告は体調不良を理由に留任の要望を述べたが、所長は遅くとも10月末までに赴任するよう申し渡した。原告は同月21日早朝、車の点検等の仕事を終え、社宅で朝食を食べ終えた後昏倒し、医師から血圧が高く(210〜110)、一過性脳挙欠発作、顔面神経不全麻痺と診断され、翌22日から昭和50年4月21日まで入院治療を受けた。原告の初診時には右上下肢に軽度のしびれ感があり、特に運動障害、運動制限は認められず、昭和51年1月28日には脳梗塞の症状は固定したとの診断を受けた。しかし原告はこれに納得せず、他の病院に通院し始め、脳卒中後遺症があるとの診断を受け、血圧降下剤を飲みながら自宅で機能訓練をした。

 原告がこのまま出勤しないことから、被告は昭和52年9月12日、原告に対し、同年10月21日付けで休職期間満了により解雇する旨通報し、同月24日、被告副部長らが原告宅を訪れ、原告に対し現金で慰労金等を手渡し、原告はこれを受領した。しかし原告は、慰労金を受領したのは押し付けであり、退職を了解したことはないこと、本件解雇は労働基準法19条1項の解雇制限に違反するもので、権利濫用として無効であることを主張し、労働契約に基づく権利を有することの確認を求めるとともに、休業損害、逸失利益等合計1650万円の支払を請求した。なお、滝川労働基準監督署長は、昭和50年3月頃原告の右傷害に対し業務起因性を認めて労災認定をし、障害補償年院の支給を決定した。
主文
1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 被告の責任

 赤平ターミナルでの原告の勤務の内容は、昭和49年6月2日に整備員1名が転勤したため、原告は朝5時半頃からの早番勤務を連日繰り返し1人で車輌の点検や修理を行わざるを得なくなってその点で苦しくなったことは認められるけれども、自動車の重要保安部分等の分解整備や車輌台帳の記録等の業務が滝川営業所野に移管され、原告は仕業点検や小修理を主とする勤務に軽減されている上、車輌の仕業点検事態は簡単で、バス停留所の清掃も用務員が補充されていること、また休暇は月5回以上取っていることを考えると、原告の障害前の業務は必ずしも激務であったとは認められない。従って、所長らが原告の激務を知っていながらこれを放置した違法があるとすることもできない。

 原告の赤平ターミナルでの勤務年数は約7年半で長い上、転勤先の滝川にも病院はあり、滝川営業所には原告と同様の整備管理者が4名いて早番のみではなく中番、遅番があり、病院へ行く余裕も認められるから、右配転命令自体に特に不合理な点はないと解するのが相当である。従って、所長らが原告の意に沿わない転勤命令に従うよう説得したとしても、その故をもって右所長らに労務担当者として何らかの管理義務違反に当たる違法があるとすることはできない。

 原告は、所長らが長期間高血圧症で通院を要する原告の病状を知っていたにも拘わらず原告の勤務改善に努めなかった旨主張する。被告には作業員が高血圧症の場合に当該従業員を配置転換するとかその作業を軽減するとかの会社としての基準はなく、医師の診断によって営業所長が取締役と相談して決定していた。また年1回の定期健康診断を行っており、医師は原告に対する配置転換等の必要性について被告に意見を出したことはなく、また所長は昭和48年秋の健康診断の結果、原告が高血圧症で要加療であることを知り、医師に病状を尋ねたところ、通院治療すれば作業には差し支えないとの返答を得た。残業不可の基準は最高血圧160以上であるところ、特に原告において残業を否とされたことはなく、また残業不可にも拘わらず原告を残業させたことはなかった。そうすると、原告に対する被告の健康管理の状況には何ら落度があったとはいえず、かえって原告は治療を受ければ業務に支障のない程度に血圧が下がるため断続的に通院していたことが窺われる上、昭和49年10月5日以降通院せず、同月15日頃身体がふらふらっとしたにも拘わらずなお病院には行かず、その旨を所長らに伝えた事実も認められない。従って、所長らに通院するよう原告に注意を与える以上に原告の業務を軽減する措置をとるべき注意義務違反の違法があると認めることはできないから、この点に関する原告の主張も理由がない。

2 解雇及び解雇事由

 空知事業部労務担当次長は、昭和52年9月12日、電話で原告に対し、同年10月21日付で休職期間満了により自然解雇となる旨通告した事実が認められる。被告は、就業規則により、昭和49年10月21日業務上の傷病により原告は療養のため欠勤し、以後9ヶ月を経過しなお休務加療を必要とするときと認め、昭和50年7月22日原告を休職としたこと及び原告が昭和52年5月1日から傷病補償年金を受けていたことを総合すれば、被告主張の解雇事由が認められる。従って、就業規則の休職期間完了に基づく原告に対する解雇は正当であるということができる。
適用法規・条文
民法709条、労働基準法19条1項
収録文献(出典)
その他特記事項