判例データベース

S社解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
S社解雇事件
事件番号
東京地裁 - 平成4年(ワ)第10012号
当事者
原告 個人1名
被告 有限会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1993年02月19日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告はスリッパの製造販売を業とする会社であり、原告は平成4年2月4日、公共職業安定所の紹介で被告との間で雇用契約を締結し、柏配送センターにおいて、スリッパの値札付け及び結束、荷物の搬入及び搬出の作業を行っていた。

 原告は、採用時被告に提出した履歴書に記載されていない就業先を相手方として不当解雇を理由に訴訟を提起しており、そのため同年2月に3日間、裁判所出頭を理由に欠勤した。また、原告の履歴書には健康状態が良好と記載されていたにもかかわらず、糖尿病の持病があり、インシュリンを注射していることが判明した。更に原告は危険な作業の仕方をする外、仕事の能率が悪く、上司に反抗的で同僚に非協力的であることから、他の従業員から苦情が出ており、同年2月27日、午前7時に早出出勤すべきところ、午前10時に出勤し、注意されても反省の色を見せなかった。こうしたことから、被告は同年3月6日、原告に対し同年4月10日限り解雇する旨通告し、原告は同年3月16日以降出勤しなくなった。

 これに対し原告は、本件解雇は解雇理由のない違法なものであり、これによって精神的損害を受けたとして、被告に対し慰謝料100万円を請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
判決要旨
 入社してから僅か1ヶ月余の間の原告の勤務成績は、全体的にみれば不良というほかなく、解雇規定である就業規則16条1項3号所定の「勤務成績又は能率が不良で就業に適しないと認められたとき」に該当するというべきである。

 なお、裁判所出頭を理由に1ヶ月余の間に3日間欠勤した事実については、訴訟を提起追行することは原告の正当な権利であるとしても、被告は、原告から右事実を告知されないまま原告を採用したこと、今後もこのような状況が継続することが予想されることからすれば、原告の訴訟に何ら関わりを持たない被告が右状況を受忍しなければならない理由はないから、勤務成績の評価に当たって、裁判所出頭を理由とする欠勤を原告の不利益に考慮することも許されるというべきである。また、原告の勤務成績の不良が糖尿病に起因するものであったとしても、原告が履歴書の健康状態欄に「良好」とのみ記載し、採用時に糖尿病の事実を秘匿したことは、肉体労働が要求される配送センター業務に対する原告の適性についての被告の判断を誤らせたものであって、雇用契約上の誠実義務に反するものであるから、このことは前記判断を左右するものではない。そして、認定した事実に照らせば、本件解雇が社会通念上不合理であるということもできない。

 したがって、本件解雇は有効であり、適法な解雇と認めるのが相当であるから、本件解雇が解雇理由のない違法なものであるとの原告の主張は理由がない。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
その他特記事項