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M社経費不正請求等懲戒解雇事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- M社経費不正請求等懲戒解雇事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成11年(ワ)第2270号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2000年02月28日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、平成5年、薬局の経営などを行う被告に雇用され、薬局の出店、管理、仕入れ、医療機関との交渉等営業全般の業務に従事していた。
被告では、社員が取引先等を接待する費用に関しては、社員が支払ったものについて領収書等必要な資料を添えて請求し、代表取締役Aが決済する方式を採っていた。平成10年10月、原告は取引先を接待したとする34万円の費用の生産を請求し、Aが内訳の説明を求めたところ、実際には取引先ではなく医師らの接待との説明で、しかもそのような事実もなかったことから、同年11月2日、Aは原告を呼び出し、横領に当たると指摘した上で。実際の相手方と齟齬がないことの立証を求めたが釈明はなかった。このためAは、同月15日に原告を呼び出し、経費請求及び精算に不正があり、懲戒解雇する旨通告し、以後の就労を拒否した。
原告は、これらの交際費等の請求は私利私欲のためではなく、事前に取締役総務部長Bの承諾を得ていたことから、懲戒事由には当たらず、本件解雇はAがBの影響力を排除する目的でなした不当な解雇であると主張して、雇用関係存在確認と賃金の支払いを請求した。なお、本件に先立って原告は地位保全等仮処分の申立てをし、東京地裁は平成11年4月12日に賃金仮払を決定しているが、この仮処分事件と本件訴訟を通じて、前記請求に係る費用が、原告が部下やBとともに飲食した際の経費であったことが判明した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件解雇の理由について
処分時に客観的には存在していたが、処分当時使用者が認識していなかった非違行為については、原則として懲戒処分の対象とされていなかったといわざるを得ず、懲戒処分の対象とされなかった非違行為をもって処分の適法性を根拠付けることはできないと解され、したがって、懲戒処分の適法性を根拠付ける目的で処分当時に処分の対象にしなかった非違行為を訴訟において追加主張することは原則として許されないと解される。
被告は本件解雇までに原告から提出された会議費使用明細書及び交際費使用明細書について飲食した相手方と違っているものが何件かあることを把握していたことから、既に把握している分の外にも同様の経費の処理がされているものがあり得るものと考え、また、更に調査を進めれば、他にも飲食した相手方として記載された者と実際に飲食した相手方とが違っているものが出て来るものと考えた上で、平成10年11月5日の時点において、調査会社による調査の対象とはならなかった同年2月以降の原告による経費の不正請求及び不正精算を既に判明している分はもちろん、未だ判明していない分も含めて本件解雇の対象としたものと解される。そうだとすれば、被告が本件解雇当時には個別具体的に認識していなかった非違行為(原告による経費の不正請求及び不正精算)でも訴訟において追加主張することは許されるものというべきである。本件解雇は、いずれも経費の不正請求又は不正精算を理由にされたものというべきであり、このような経費の不正請求及び不正精算は企業秩序維持の観点から被告としては到底容認することができないと考えられる。
以上の点を総合すれば、被告が企業経営上の観点からもはや原告を雇用し続けることはできないと考えたとしても、それは無理からぬことというべきであって、被告が原告を解雇したことには客観的に合理的な理由があるというべきである。
被告代表者Aは本件解雇当時原告がBの手足となってAを被告から排除することを企てていると考えて、その企てが実現する前に原告を被告から排除する目的で本件解雇に及んだ可能性も考えられないではないが、そうであるからといって、本件解雇の理由が原告による経費の不正請求及び不正精算であることを左右することができないことは明らかであり、被告代表者が本件解雇当時右のような意図で本件解雇に及んだからといって、そのことによって直ちに本件解雇の理由が客観的合理性を失うものではない。
2 本件解雇の本件就業規則の該当性について
原告による経費の不正請求及び不正精算は公然と行われたわけではないから、これによって「職場の秩序を乱した」とは認められない。
本件就業規則43条は、「社員が次の各号の一つに該当するときは、懲戒解雇処分とします。」と規定し、その7号として「その他各号に準ずる行為があった者」を挙げているが、1号から6号まではいずれも社員が行った非違行為を理由に当該社員を懲戒解雇する場合について定めた規定であり、右各号は、要するに、そのような非違行為を行った社員から労務の提供を受けることを目的として当該社員を雇用し続けることは企業秩序維持の観点から到底容認できないことから当該社員を解雇することとした規定と考えられ、そうだとすれば、7号は、そのような非違行為を行った社員から労務の提供を受けることを目的として社員を雇用し続けることが企業秩序維持の観点から到底容認することができない程度及び内容の非違行為を懲戒解雇事由とする定めであると解される。
以上によれば、本件解雇の理由をなす原告により経費の不正請求及び不正精算は本件就業規則43条7号にいう「その他各号に準ずる行為があった者」に該当するというべきである。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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