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郵便事業(期間雇用社員)雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
郵便事業(期間雇用社員)雇止事件
事件番号
岡山地裁 - 平成20年(ワ)第782号
当事者
原告 個人1名
被告 郵便事業株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年02月26日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 原告は、大学在学中の平成15年5月17日、日本郵政公社(岡山郵便局)に非常勤職員として任命され、平成16年5月31日まで、1日4時間勤務で、雇用期間約1ヶ月ないし3ヶ月程度で、1〜2日の中断期間を置いて雇用契約を更新してきた。その後、平成16年6月1日から平成17年3月31日まで1日4時間勤務、同年4月1日から平成18年4月1日まで1日4時間勤務、同年4月1日から9月30日まで1日4時間勤務、同年10月2日から大学を卒業する平成19年3月31日まで、公社の業務、権利義務関係を承継した被告との間で、1日4時間勤務(同年2月24日から原告の希望により1日8時間勤務)、同年4月2日から9月30日まで1日8時間勤務を続け、更に平成20年3月31日までの雇用契約(本件契約)を締結した。

 原告は、平成16年11月18日に縁石への乗上げと停止車輌への追突(第1事故)、平成17年5月21日にタクシーへの追突(第2事故)、平成18年8月11日に自転車との衝突(第3事故)、平成19年10月23日に並走車両への接触(第4事故)、平成20年2月19日に停止車両への衝突(第5事故)を起こした。被告は、これらの事故はいずれも原告の一方的な過失によるものであり、就業規則10条1項の「業務の性質」、「勤務態度」、「業務遂行能力」に密接に関係するもので、原告がバイクを運転するに当たっての適性を欠いていると判断し、同年2月27日、原告に対し、雇用期間を平成20年3月31日までとする「雇止予告通知書」を送付し、同日付けで原告との雇用契約を終了させた。
 これに対し原告は、被告の前身である公社時代から通算して4年4ヶ月にわたり雇用契約を反復・継続している上、原告の従事する業務は基幹的・恒常的業務であることからすると、本件雇用契約は期間の定めのないものに転化しているか、雇用継続への期待には合理性があるから本件雇止めには解雇権濫用法理が類推適用されるところ、本件雇止めには合理性がないとして、被告に対し、雇用契約上の権利を有することの確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるか

 原告と公社との間の雇用関係は、勤務関係の根幹をなす試験、任用、分限、懲戒、服務等について国家公務員法及びそれに基づく人事院規則による公法的規制が適用される公法上の任用関係であって、このような公法上の任用関係においては、国家公務員法及びそれに基づく人事院規則によって、その任用形態の特例及び勤務条件が細部にわたって法定されており、当事者間の個別的事情や恣意的解釈によってこれらが変更される余地はないというべきである。

 原告は、非常勤職員の勤務実態等に照らすと、原告と公社との間の雇用契約は期間の定めのないものに転化していたから、解雇権濫用法理が類推適用されると主張する。確かに原告は、公社の時代に10回にわたって更新を繰り返し、公社の業務にとって必要不可欠の存在であったということができる。しかしながら、公社の非常勤職員としての地位は、その任用期間が満了すれば更新されない限り当然に終了するほかないのであり、公法上の任用関係である期限付任用関係が実質的に期限の定めのない雇用関係に変化することはあり得ない。また、退職した職員を再任用するか否かは新たな任用行為であって、任命権者の裁量に委ねられている。しかるに、原告と公社との間の任用関係について解雇権濫用法理の類推適用があると解することは、法に何ら規定がないにもかかわらず、非常勤職員に行政処分としての任用行為を要求する権利を付与することとなるのみならず、任用行為が存在しないのに実質的に雇用期間の定めのない非常勤職員を生み出す結果をもたらすこととなり、このような事態は国家公務員法の趣旨に反するものといえる。

 これに対し、本件雇用契約は私法上の雇用契約であるから、雇止めの場合に解雇権濫用法理を類推適用する余地がある。しかしながら、本件雇用契約は平成19年10月1日から平成20年3月31日までの6ヶ月間で終了し、一度も更新されていないのであって、雇用継続に対する期待に合理性があるとはいえず、解雇権濫用法理が類推適用される前提となる事実関係を欠くというべきである。

 原告は、本件雇用契約は、公社の時代と連続的・一体的に評価すべきである旨主張する。確かに、本件雇用契約が締結された平成19年10月1日以降、原告の業務内容や勤務状態に概ね変化はなく、賃金や勤務評価、休暇日数の関係も概ね引き継がれたことが認められるが、郵政の民営・分割化により公社は解散し、原告は新たに設立された被告との間で改めて雇用契約を締結したのである。このように、郵政の民営・分割化の前後では、雇用主が異なるほか、雇用関係に関する法的性質も全く異なるのであるから、両者の連続性・一体性をたやすく認めることはできない。

2 本件雇止めの有効性

 本件雇用契約は、それが反覆更新されて期間の定めのない雇用契約と実質的に異ならない状態になったとはいえず、また、雇用継続に対する期待に合理性があるともいえないから、本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用される余地はない。

 原告は、平成16年から平成20年までの5年間に合計5回にわたる交通事故を起こし、公社に対して合計17万4655円、被告に対して合計33万9150円の損害を与えていること、その間、度々上司から注意・指導を受けてきたこと、これらの交通事故は比較的軽微な物損事故であるが、前方不注意、車間距離不保持など運転者にとって基本的な注意義務違反により生じたものであり、本件各事故のうち3件は原告の一方的過失に基づくものであること、被告岡山支店管内で集配に従事する社員数は約600人であるところ、同管内での平成19年4月からの1年間の交通事故の件数は67件であって、原告はかなり頻繁に交通事故を起こしている等の事情が認められる。

 原告は、勤務が過重・過酷であったことが各事故の背景的原因であり、被告の管理体制に問題があった旨主張する。確かに原告は、飛び地を担当したり、午前4時間、夜間4時間の変則勤務に従事したり、時間外勤務に従事するなどしており、それなりの肉体的・精神的な負荷があったことが認められる。しかし、原告の担当地区は遠隔地とはいえ片道15分程度であり、また原告の変則勤務が始まると同時に1週間当たりの勤務日数は6日から5日に減少しており、休憩時間を十分確保できたはずである。また、毎年12月と1月は被告にとって最繁忙期であって、時間外勤務は原告に限ったことではない。
 以上のとおり、原告は運転者としての基本的な注意義務違反による交通事故を度々起こしており、その頻度は他の社員に比べてかなり高く、その原因として被告の管理体制を強調することが妥当でないことからすれば、原告のバイク運転適性には問題があるといわざるを得ず、原告がバイクの運転適性を欠くと被告が判断したことは、客観的な合理性を有するものである。そして、原告を引き続き郵便配達業務に従事させればいずれ重大な人身事故を引き起こされる可能性を否定できないこと、被告は原告に対して本件雇止めの前に内部事務への転換を勧めた経緯もあることからすると、被告が就業規則に基づき、原告の「勤務成績、勤務態度、業務遂行能力、健康状態等を勘案して検討し、更新が不適当」と判断したのは相当であったというべきである。
適用法規・条文
労働契約法16条、17条
収録文献(出典)
[収録文献(出展)]
その他特記事項
本件は控訴された。