判例データベース
S社退職強要事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- S社退職強要事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成22年(ワ)第11349号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 卸・小売業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年12月27日
- 判決決定区分
- 棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告は、医療機関、薬局等との提携を通じて、生活習慣の改善、ダイエットを志向する健康食品の卸・小売販売を目的とする株式会社であり、原告は平成20年10月1日、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、被告東京本社新事業開発部に配属された。
被告は、平成21年2月頃、正社員約250名を150名程度に削減するために、希望退職制度を策定し、これに基づき、同年5月19日〜6月5日の間に希望退職に応じた者については、会社都合による退職金を支給すること、退職金とは別に割増退職金を支給すること、年次有給休暇・代休を買い上げること及び被告の費用により再就職支援を行うこととした。
同年5月19日、原告は上司から希望退職に応じることを勧奨されたが、これを断ったところ、被告人事部長は、原告に対し退職勧奨の面談を行うようになり、同年7月7日まで合計7回、原告と2人で30分ないし1時間15分間面談した。面談の内容は、人事部長が原告に対して、原告に期待される仕事がなく、長野県に異動になったり、降格となる可能性があるから本件制度を受け入れることが賢明であること等を繰り返し説得するものであり、その際人事部長は、退職を直接強要した言辞は用いなかった。原告は、同年7月31日付けで退職となったところ、本件制度に基づく再就職支援プログラムを利用し、再就職支援会社の紹介により、少なくとも数社に応募した外、同年8月31日、退職金、割増退職金及び年次有給休暇買取金等の支給を受けた。
原告は、希望退職に応じない意思を表明していたのに、人事部長は執拗かつ長時間にわたる退職勧奨を行い、このまま被告にいても、長野の物流センターへの異動、降格、末には整理解雇等条件が悪くなるなどと告げ、原告に退職を強要し、原告はこの強要行為により本件退職に至ったとして、本件退職の無効による被告の従業員としての地位の確認、賃金及び賞与の支払いを請求するとともに、人事部長の違法な退職勧奨によって著しい精神的苦痛を受けたとして、慰謝料300万円を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 意思表示の取消原因である強迫が成立するには、害悪が及ぶことを告げて相手方に畏怖を与え、その畏怖によって意思を決定させることが必要であるところ、原告が主張する強迫の要素として、人事部長が原告に対して、頻繁に、かつ長時間の面談により退職勧奨を行ったことを挙げる。しかし、人事部長と原告の面談は、週に1回程度、両者の日程調整をした上で行っているし、その時間も基本的には30分程度であり、しかもその態様は、退職を強要するような言辞を用いる等の違法な態様によるものであるとの根拠はなく、その内容も、原告がこのまま被告に残っていても居場所がなくなるから、本件制度による希望退職に応じた方が良いということを繰り返し説得したという内容のものであって、強迫と評価できるものではない。原告は、人事部長が、他の従業員のいるところで決心がついたかと声を掛けられたことも強迫行為の要素として挙げるが、仮にこの事実が認められたとしても、この行為が原告にとって不本意なものであるものの、強迫行為と評価することは困難であり、この主張は失当なものといわざるを得ない。
以上のとおりであるから、本件退職が強迫によるものであり、違法な退職勧奨がなされたという原告の主張を採用することはできないから、原告の請求はいずれも理由がない。 - 適用法規・条文
- 民法96条1項、709条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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