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学校法人配転拒否解雇事件(パワハラ)

事件の分類
解雇
事件名
学校法人配転拒否解雇事件(パワハラ)
事件番号
岡山地裁 - 平成19年(ワ)第2025号
当事者
原告 個人1名
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2011年01月21日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 原告は、昭和63年3月に大学を卒業した後、平成3年4月に被告の設置するA中学校及びB高等学校に寮監職として採用され、平成6年4月からC高校の教諭になり、剣道と社会科を担当した後、再度の配転により、平成14年4月からA中学校勤務となり、主として寮監職を務め、剣道の講師をしていた。

 被告は、平成19年2月23日、当時のA中学校・B高校のF校長を通じて原告に対し、同年4月1日付けで寮監職から教諭職に配置換えし、B高校で社会科教諭として勤務するよう伝えたところ、原告は、長期間教職を離れていたこともあり、6ヶ月ないし1年程度の準備期間が欲しいと回答した。原告は同年3月下旬になって、不眠症を理由に同月31日から同年4月20日までの年休の届出を出して受理され、同年4月月3日、「不眠症、適応障害の疑いで4月20日まで休養加療を要するとの本件診断書1を被告に郵送して、同年5月18日まで入院した。そして、原告は入院中である同年4月5日、本件仲裁センターへの和解あっせん申立をした。

 被告は、原告が社会科教諭の勤務に就かなかったのは職場放棄に近いとして、同年4月16日、就業規則に基づき、無期限の休職処分(本件休職処分)を行った。更に被告は、原告には、1)生徒に対する暴力行為があり、保護者とのトラブルがあったこと、2)喫茶店において料理長として兼務したこと、3)B高校の生徒が原告の自動車に落書きし、4)生徒が原告の自動車を蹴って壊したことで、生徒及び保護者と紛争となったこと、5)生徒がダンベルを持ち帰ったため、保護者と問題を起こしたこと、6)原告が本件仲裁センターへ和解あっせんの申立をしたこと、7)本件診断書には入院を要するとは記載されていないのに入院したこと、8)女性議員との不倫関係が判明したことを挙げて、原告に対し、同年6月15日に解雇予告をした上で、同年7月20日をもって解雇する旨の意思表示をした。

 これに対し原告は、本件休職処分及び本件解雇処分はいずれも合理的理由がないから無効であるとして、本件休職処分の無効確認、本件解雇処分の無効による地位の確認を求めると共に、時間外労働に対する未払賃金の支払い、変型労働時間制の無効の確認、付加金の支払い、慰謝料500万円の支払を請求した。
主文
1 原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告の原告に対する平成19年4月16日付け休職処分が無効であることを確認する。

3 被告は、原告に対し、22万0350円及びこれに対する平成19年4月21日から支払済みまで、平成19年5月20日以降本判決確定に至るまで、毎月20日限り44万0700円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで、それぞれ年5分の割合による金員を支払え。

4(1)被告は、原告に対し、平成19年7月21日以降本判決確定に至るまで、毎年6月15日限り52万4433円、毎年12月15日限り89万6824円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)被告は、原告に対し、平成19年7月21日以降本判決確定に至るまで、毎年6月15日限り24万6792円、毎年12月15日限り31万5100円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5(1)被告は、原告に対し、738万1554円及びこれに対する平成20年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)被告は、原告に対し、516万7087円及びこれに対する本判決確定日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成20年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

8 訴訟費用はこれを10分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

9 この判決は、第3項ないし第5項(1)及び第6項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件休職処分の有効性について

 被告は、平成19年4月23日付けで、就業規則を根拠として、辞令交付を受けた日から3日以内に赴任する義務があるとし、原告がこれに応じなかったことから、職場放棄に近い行為があったとして本件休職処分を行った旨回答している。しかしながら、配置換えについて辞令が交付された事実がないことは被告がその後認めているところであるから、就業規則を根拠として本件休職処分を理由付けることはできない。もっとも被告は、その後、辞令交付はなかったとしても、学校教育法に基づく校長の監督権の行使をしたものであり、辞令は必要ないと主張するが、配置換えは労働契約の内容に関わる重要事項であるから、同法に定められている校長の監督権から、直ちに口頭による配置換えを根拠付けることは困難というほかない。また被告は、原告が申請した年次有給休暇取得を適正なものとして受理しているのであるから、その間に原告が入院したことや本件診断書1を作成した医師の属する病院(G病院)とは別の病院に入院したことは、特段の義務違反を構成するとは解されない。以上、本件休職処分には合理的な理由が見出し難いことに加えて、原告の本件仲裁センターへの和解あっせん申立を嫌悪して行ったものと認定するのが相当であり、そうすると正当事由を欠くものとして無効というほかない。

2 本件解雇処分の有効性について

 被告は、平成9年頃、1)C高校に勤務していた原告が、生徒に対し度重なる暴力行為をしたことにより、生徒の保護者から告訴するといわれたことがある旨主張するが、これを認めるに足りる確たる証拠はない。仮にこの事実が存在したとしても、被告は当時賞罰委員会を開いた上で原告を謹慎処分にしたのであるから、相応の処分がされたというべきであり、かつ本件解雇処分から10年も前のことであることからすれば、これをもって原告が教職員としての資質に欠ける事由とすることは相当性を欠くというべきである。2)については、原告が非番の日に両親が共同経営者となっている喫茶店を手伝っていたに過ぎないから、これをもって私生活上の非行に該当するとはいえない。仮にこれが二重就職と評価されるとしても、被告の職場秩序に影響せず、かつ被告に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度ないし態様のものであれば禁止の対象とはいえないと解するのが相当であるところ、本件において原告の関与の程度が明確ではないから、これを本件解雇処分の理由とすることは相当とはいえない。3)は平成18年5月頃にB高校の生徒が原告所有の自動車に落書きし、4)は平成19年3月頃生徒が原告所有の自動車を蹴って壊したことから、保護者と損害賠償問題を起こしたものであるが、これらをもって直ちに原告に非があると判断することは困難であり、4)については保護者との間で既に示談が成立していることからすれば、これの事由を原告が教職員としての資質に欠ける事由とすることは相当性を欠くというべきである。5)生徒が学校の備品を私物化することが許されないのは当然であるから、原告が、生徒が無断でダンベルを持ち帰ったことにつき、寮監として注意指導することは原則として許容されていると解され、それが通常想定される程度を著しく逸脱していない限り、問題とされることはないというべきところ、本件において、原告の指導がその範囲を逸脱していたことを認めるに足りるものはない。よって、この事実をもって、原告が教職員としての資質に欠ける事由とすることは、相当性を欠くといわざるを得ない。6)労働者が、労働条件の改善を求めて各種の法的手続きを執ることは、特段の事情がない限り、違法ないし不当ということはできず、これをもって当該労働者に不利な取扱いをすることは相当とはいえない。また、同申立てにおいて原告は教員職への配転後、少なくとも1年間は教材その他の職務を担当させるよう配慮する旨希望をしているところ、被告はこれをもって原告が1年間の就業を忌避する意思表示であると解されるというが、この点は和解手続きにおいて協議すれば良いことであり、過去においてC高校で8年間社会科教諭として教壇に立った経験があるとしても、5年間の中断があることを考慮すると、原告が一定の準備期間を希望することは必ずしも不当とはいえないと思われる。したがって、原告が本件仲裁センターへの和解あっせんを申し立てたことをもって職場放棄と認定することはできないから、本事由も教職員としての資質に欠けることを示す事由としては相当とはいえない。7)被告は、原告からの年次有給休暇取得届出を適正に受理したのであるから、届出手続きには何ら問題はないと思われる。そして、年次有給休暇は自由に使用することができるのであるから、この間原告が入院したからといって、このこと自体を問題にすることはできない。したがって、この事実も原告が教職員としての資質に欠ける事由となるものではないというべきである。8)原告は相当の期間、K議員と男女関係にあったことが窺われ、K議員とは結婚を約束していたと主張するが、これを裏付ける確たる証拠はない。そうすると、一般的には、生徒の指導に当たる教職員が有夫の女性と親しい関係に入ることは社会的にも評価できることではないというべきである上、特に多数の発行部数を持つ週刊誌においてそのような内容を発表されることは、被告にとっても決して名誉なことではなく、まして原告自身が進んで取材に応じていることからすれば、このことは原告自身の教職員としての適格性に大きく影響する事由であると思われる。しかしながら、被告は本件解雇処分の事由として特に重大なものは、平成19年4月5日の本件仲裁センターへの和解あっせんを申し立てたことである旨明確に答えており、このことからすれば、本解雇事由は、社会的には許されない可能性が高いとしても、本件解雇処分においてはそれほど重要視されていなかったというべきであるから、これのみをもって原告が教職員としての資質に欠けると結論づけるのは相当ではない。

以上の検討によれば、被告の主張する解雇事由は、いずれも原告が教職員としての資質に欠けることの根拠たり得ないとうことになる。そして被告自身、平成17年12月12日、剣道において優れた技能を持つ原告を表彰していることを勘案すると、本件解雇処分は合理的な理由に基づくものとは認められず、社会的に相当性を欠くものとして無効といわざるを得ない。

3 本件各処分が無効とされた場合に原告が受領すべき月額給料等の額

 本件休職処分及び本件解雇処分はいずれも無効であるから、被告は原告に対し、平成19年4月16日以降の基本給月額並びに期末手当及び勤勉手当の支払義務を免れない。

4 被告主張の変型労働時間制の有効性について

 被告の主張する変形労働時間制は1ヶ月単位のものであるところ、労基法32条の2に定める1ヶ月単位の変形労働時間制が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則等において特定されていることが必要である。そして被告は常時10人以上を雇用する事業場であるから、就業規則において、変形期間内の毎労働日の労働時間を始業・終業時刻とともに特定しなければならない。しかし、業務の実態上、就業規則による特定が困難な場合には、変形労働時間制の基本事項を就業規則で定めた上、各人の各日の労働時間を具体的な期間ごとに勤務割当表によって特定することも認められるが、就業規則上は変形労働時間制の基本的内容と勤務割りの作業手続きを定めるだけで、使用者が労働時間を任意に決定できるような制度は違法と解される。被告においては、就業規則に「寮監の勤務時間については変形労働時間制とし、個別に定める」と規定されているのみであり、変型の期間や上限、勤務のパターン及び各日の始業時刻や終業時刻の定めなどは全く規定されておらず、36協定も締結されていない。したがって、被告の主張する変形労働時間制を有効と認めることはできない。

5 寮監の仮眠時間の労働時間該当性及び手当について

 1)所定労働時間外に労働者が使用者の業務の範囲に属する労務に従事した場合に、それに要した時間が労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができる否かにより客観的に決まるものであり、2)実作業に従事していない不活動時間が労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれているものと評価し得るか否かにより客観的に定まるというべきである。本件においては、1)被告は原告に対し、仮眠時間を含めた時間帯を宿直勤務として命じていること、2)宿泊勤務として23:00〜09:30、拘束時間10時間(実働5時間、仮眠5時間)と記載されていること、3)仮眠時間も外出や外泊等は許されていないこと、4)飲酒などは禁止されていること、5)寮内の消灯・点灯、生徒数の確認、戸締まりの確認、各部屋の巡回等が業務として定められていることなどからすれば、仮眠時間も使用者の指揮命令下にあると認めるのが相当である。

6 時間外勤務手当等の額について

 泊まり明けの勤務終了時刻である午前9時30分からタイムカードに打刻された時間までの時間(合計70時間)については、これら時間帯も被告の指揮命令下にあったと認められ、原告が勝手に帰宅時間をずらした事実を認めることはできないから、これらについても原告の労働時間から除外する必要はない。

7 付加金(労基法114条)の支払の可否及び額について

 被告は原告に対し、時間外勤務手当等として738万1554円の支払義務を負っていると認められる。しかしながら、裁判所が使用者に対し、付加金の支払いを命ずることが相当でないと認められるような特段の事情がある場合には、裁判所はその支払いを命じないこともできると解され、またその範囲内で適宜減額することも許されると解するのが相当である。原告が本訴で請求している時間外手当等においては仮眠時間が相当の時間数を占めているところ、これらについては適正な手続きをとっていれば、時間外勤務手当などの支払を免れる可能性があるものであり、これらのことを勘案すれば、少なくとも仮眠時間に係る時間外勤務手当等については、被告に対し付加金の支払いを命じることは相当とは思われない。

8 慰謝料の額について

 本件休職処分及び本件懲戒解雇処分により、原告は一定の精神的苦痛を被ったと認められる。原告はその精神的苦痛に対し金銭的賠償を求めているところ、これは前記金銭支払いにより、相当程度回復するものと思われる。以上のことから、原告の慰謝料として100万円が相当である。
適用法規・条文
労働基準法32条の2、36条、37条、114条、民法709条
収録文献(出典)
その他特記事項
本件は控訴された。