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M社転勤拒否解雇事件(パワハラ)

事件の分類
配置転換
事件名
M社転勤拒否解雇事件(パワハラ)
事件番号
京都地裁 - 平成10年(ワ)第1780号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2000年04月18日
判決決定区分
認容
事件の概要
 被告は、コンピューター等の販売、リース、保守サービス等を目的とする株式会社であり、原告(昭和29年生)は昭和59年8月に被告に雇用され、当初京都支社に勤務した後、昭和60年9月に大阪支社に転勤となり、平成5年4月から京都支社に戻った後は平成9年4月から同支社会計新規営業主事補となり、顧客の新規開拓の営業に従事してきた。

 原告は、京都支社に戻った頃のS支社長と考えが合わず、平成6年4月、Sから年間24の新規会計事務所の開拓のノルマを命じられた外、同年5月に有給休暇の申請をしたとき、Sから結果を出してから休めと言われて申請を却下された。原告は同年7月4日、有給休暇の申請の際にSに暴言を吐いたとして、同月14日まで自宅待機を命じられた。

 原告は、同年11月13日、体調を崩しメニエール病と診断されて休業し、平成7年1月17日に職場に復帰したが、メニエール病のめまい発作を防ぐため、残業はせずに体調に気を配り無理をしないようにしていたが、その後もめまい発作が起こった。平成9年4月にSの後任として赴任したN支店長は、原告の担当していた飛び込みによる会計事務所の新規開拓による売上はごく僅かであり、原告の売上が伸びないのは労働意欲や営業努力が欠如しているからであって、原告には他の従業員との協調性もないと判断し、原告の大阪支社への転勤を本社に申請し、平成10年4月1日付けで、原告に大阪支社への転勤と主任からの降格の発令を行ったところ、原告は辞令の受取りを拒否し、その後も京都支社に出勤し、大阪支社には出勤しなかった。そこで被告は、同年5月22日、東京本社総務部長より原告に対し即時解雇を通告するとともに、解雇予告手当を提供したが、原告がこれを拒否したため、同月27日、書面により、業務命令違反、無断欠勤を理由とする解雇通知(本件解雇)をした。

 これに対し原告は、採用面接の際、勤務地を京都に限定する条件で採用されたこと、メニエール病により大阪支社までの1時間40分の通勤は無理であることから、本件転勤命令は無効であり、その転勤命令拒否を理由とする本件解雇は、解雇権の濫用として無効であるとして、雇用契約上の地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告が被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、原告に対し、22万5296円及び平成10年6月から本判決確定の日まで毎月25日限り1ヶ月35万0614円の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 労働契約には勤務地を京都に限定する旨の合意が含まれていたか

 原告は、入社に際し、被告の就業規則を遵守し、業務上の指示命令に従うなどと記載された誓約書を被告に差し入れたこと、被告は従業員を採用するに当たって勤務地を限定したことはなく、新聞等による従業員の募集広告に勤務地として支社名を記載したのは勤務地を限定する趣旨ではなく、最初の勤務地を示したに過ぎないものであること、また被告の就業規則には「業務上必要があるときは、従業員に対し転勤、配置換え、出向を命ずることがある。この場合、従業員は正当な理由なくこれを拒むことができない」と規定されていること、京都支社長Nは、昭和60年9月上旬、原告に大阪支社への転勤を内示した際、原告から勤務地が京都に限定されている旨の主張をされたことはなく、2、3年後に原告を京都に戻すと約束したこともないこと、またNは、昭和61年12月から平成元年3月まで大阪支社長を兼務しており、原告の上司であったが、その間に原告から京都に戻して欲しいと希望されたことはなかったことなどの事実を認めることができ、これらの事実を基に判断すると、原告と被告との間の労働契約において勤務地を京都に限定する旨の合意が含まれていたということはできない。

2 本件転勤命令は、被告の転勤命令権の濫用であって許されないか

 認定事実等を勘案すると、原告は、被告から法的根拠がないのに自宅待機命令を受け、その間にメニエール病に罹患したため、自宅待機命令が解除されて職場復帰した後は、睡眠不足等によりめまい発作が起こらないよう注意しながら生活していたこと、原告は、メニエール病に罹患していることを京都支社長であったS及びNはもちろん、京都支社の他の従業員にも知らせていたのであり、メニエール病のため仕事等に支障が生じるかも知れないことは周知されていたこと、被告は、原告につき、他の従業員とは異なり、飛び込みによる会計事務所の新規開拓の仕事に専任させており、この仕事による売上はもともと僅かしか期待できないものであったこと、原告が自宅から大阪支社に通勤するには1時間40分以上を要するが、メニエール病のため、このような長時間の通勤に堪えられるかどうかは疑問であることを指摘することができ、これらの諸点を勘案すると、本件転勤命令は、被告の転勤命令権の濫用であって、許されないというべきである。

 原告は、本件転勤命令に従わず、右命令後も京都支社に出勤し、大阪支社には出勤しなかったのであるが、右命令が被告の転勤命令権の濫用で許されないものである以上、原告が右命令に違反し無断欠勤したということはできないから、これを理由とする本件解雇も権利の濫用として無効になるというべきである。
適用法規・条文
収録文献(出典)
その他特記事項