判例データベース
M社転勤拒否解雇控訴事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- M社転勤拒否解雇控訴事件(パワハラ)
- 事件番号
- 大阪高裁 - 平成12年(ネ)第2021号
- 当事者
- 控訴人 株式会社ミクロ情報サービス
被控訴人 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年11月29日
- 判決決定区分
- 控訴棄却
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審原告)は昭和59年8月にコンピューター等の販売、リース、保守サービス等を目的とする控訴人(第1審被告)に雇用され、平成5年4月、大阪支社から再度京都支社勤務となり、顧客の新規開拓の営業に従事してきた。
被控訴人はS支社長と考えが合わず、平成6年4月、Sから年間24の新規会計事務所の開拓のノルマを命じられた外、同年5月に有給休暇の申請をしたとき、Sからこの申請を却下され、同年7月4日、有給休暇の申請の際にSに暴言を吐いたとして、同月14日まで自宅待機を命じられた。
被控訴人はメニエール病と診断されて休業し、職場に復帰したものの、メニエール病のめまい発作を防ぐため、残業はせずに体調に気を配り無理をしないようにしていた。しかしその後もめまい発作が起こり、平成9年4月にSの後任として赴任したN支社長にも病状を説明したが、Nは、被控訴人の売上が伸びないのは労働意欲や営業努力が欠如しているからであって、被控訴人には他の従業員との協調性もないと判断し、平成10年4月1日付けで、被控訴人に大阪支社への転勤と主任からの降格の発令を行った。しかし、控訴人は辞令の受取りを拒否し、その後も大阪支社には出勤しなかったため、控訴人は、同年5月22日、被控訴人に対し即時解雇を通告するとともに、解雇予告手当を提供したが、被控訴人がこれを拒否したことから、同月27日、書面により、業務命令違反、無断欠勤を理由とする解雇通知(本件解雇)をした。
これに対し被控訴人は、採用面接の際、勤務地を京都に限定する条件で採用されたこと、メニエール病により大阪支社までの通勤は無理であることから、本件転勤命令は無効であり、その転勤命令拒否を理由とする本件解雇は解雇権の濫用として無効であるとして、控訴人に対し雇用契約上の地位の確認と賃金の支払いを請求した。
第1審では、本件解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるとして、被控訴人が雇用契約上の権利を有する地位にあることを認めたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 被控訴人には、めまいというメニエール病に特徴的な症状が認められ、自宅待機中に症状が発症した点でストレスという要因も否定できず、年齢や内科医のメニエール病を肯定する診断書が2通発行されていることも考慮すると、メニエール病と疑うには一応根拠があると言うことができる。しかしながら、被控訴人には聴覚異常がさして見られず、厚生省の診断基準でもメニエール病とは確定できないし、実際に耳鼻咽喉科医は、聴力検査も実施した上で否定的に診断している上、被控訴人は定期的に診察、治療を受けておらず、生活上の節制もさほど行っていないのであるから、メニエール病と断定するには疑問があり、仮にメニエール病であったとしても、比較的軽症のものであったと言わざるを得ない。
使用者は、労働契約等により、勤務地の限定がない場合は、業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えるから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合は、当該転勤命令は権利の濫用となって無効であり、上記業務の必要性については、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められれば足りる。
これを本件についてみるに、被控訴人は、もともと大阪支社では社長や副社長から表彰を受ける等の業績を上げた優秀な営業職であったにもかかわらず、京都支社に戻った後、支社長のSと意見が合わなかったことから、Sから、もともと業績を上げにくく、かつ控訴人においては全くの異例である新規会計事務所開拓を専属で行う担当にされ、係長であるのに、他の係長と異なり、部下が1名も配属されないとの処遇を受け、達成が極めて困難な目標を提案された他、理由のない有給休暇申請の却下や、根拠のない自宅待機を約半年間にわたって強いられ、その解除後も、上記担当を変えられず、業績が上がらないとして降職もされ、結局合計4年間も上記担当に留め置かれたという一連の経緯をみると、控訴人としては、被控訴人の能力の積極的な開発や活用を目指していたとは到底評価することはできない。
もっとも、被控訴人には、自宅待機中にめまいも症状を感じ、職場復帰後、メニエール病と診断されたこともあり、仕事上車の運転を控え、体調に気を配り、歓送迎会等にも参加しないなどの姿勢であったところ、こうした姿勢は、確かに控訴人の主張のとおり、支社長や他の営業職からすれば、被控訴人が業績等に熱意を示さず、周囲との協調性がないように見えたのも無理からぬところがある。しかしながら、控訴人が被控訴人の能力の積極的な開発や活用を目指していたとは到底評価できず、その期間が4年にも及んでいたのであるし、被控訴人の上記のような問題性も、そもそも控訴人の対応の誤りから生じたともいえるのであるから、控訴人としては、まず被控訴人の能力の積極的な開発や活用、例えば、他の営業職と同じく、担当の会計事務所を持たせ、同等の条件で業績の競争ができる配置を工夫するなどの方策を取るべきであるし、しかもそうした方策を採る余地は十分にあったと考えられる。ところが控訴人は、それらの工夫をせず、あくまでも前記担当を継続させ、挙句には、専ら被控訴人を京都支社から排除することのみを考え、本件転勤命令を発するに至ったものと言わざるを得ない。控訴人の主張する業務上の必要性としての京都支社の事情及び大阪支社に勤務させる理由については、これらを認めることは困難であり、本件転勤命令が企業の合理的運営に寄与するとは評価できないから、結局、業務上の必要性はないというべきである。加えて、控訴人の被控訴人に対する一連の処遇・仕打ちや、控訴人は、被控訴人がそれまでも拒否していた転勤にこだわっていること、本件転勤命令の内示では、被控訴人は降職の上、かつての部下の下で働くことになるなど被控訴人にとって屈辱的な配置を予定したものであったこと、同内示を被控訴人が拒絶した後、控訴人は早期退職優遇制度の関係用紙を手交したことなどからすると、控訴人は、被控訴人が場合により退職することを念頭に置いて、これを期待しつつ、本件転勤命令を発したということができるから、不当な目的、動機も併せ持っていたと認めざるを得ない。
以上よりすると、本件転勤命令は、業務上の必要性がなく、不当な動機・目的を併せ持ってなされたものであり、降職による不利益性も認められるから、勤務地が変わることによる不利益性については、メニエール病の有無・程度、京都から大阪までの距離及び通勤時間(約1時間40分)等を考えれば、必ずしも不利益性が大きいとまでは言えないことを考慮しても、特段の事情が存する場合に当たり、権利の濫用であって無効と言わざるを得ない。そして、被控訴人は、本件転勤命令に従わず、同命令後も京都支社に出勤し、大阪支社には出勤しなかったのであるが、同命令が控訴人の転勤命令権の濫用であって許されない以上、被控訴人が同命令違反に違反して無断欠勤したということはできないから、これを理由とする本件解雇も権利の濫用として無効になるというべきである。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- [収録文献(出展)]
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
京都地裁 - 平成10年(ワ)第1780号 | 認容 | 2000年04月18日 |
大阪高裁-平成12年(ネ)第2021号 | 控訴棄却 | 2001年11月29日 |