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K市民政局配転拒否停職事件(パワハラ)

事件の分類
配置転換
事件名
K市民政局配転拒否停職事件(パワハラ)
事件番号
福岡地裁 - 昭和42年(行ウ)第21号
当事者
原告 個人1名
被告 市長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1981年10月28日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は、被告市Y区収税課に勤務する地方公務員であり、市職員労働組合(市職労)職員支部収税課職場委員長の地位にあった者である。

 被告市においては、昭和42年(以下同じ)4月に福祉事務所の機構改革が行われ、Y西福祉事務所が分割されてY南福祉事務所が設置され、これに伴い4月17日付けで人事異動が行われ、原告は収税課からY南福祉事務所保護課への配転が発令されたところ、原告は辞令交付の呼び出しに応じなかった。同月19日、Y南福祉事務所長が原告宅に辞令を持参したが原告が組合の切り崩しであるなどの理由で受領を拒否したことから、翌20日、区次長は市職労八幡職員支部執行委員長に対し、原告があくまで辞令の受領を拒否すれば懲戒処分に付される旨伝え、結局原告は区長から辞令を受けた。その際原告は、28日までに赴任する約束をしたが、同日になっても配転先に赴任しなかった。その後、被告市は5月8日まで赴任を待つこと、9日以降も赴任しない場合は処分をすることを原告に通告した。この間、収税課長は、原告が収税課に必要な人材であること、原告が職場委員長であることを伝えなかったのは重大なミスであって、早急に収税課に帰すよう配慮を求める旨の要望書を区次長宛提出したが、区次長はこれを取り上げない旨同課長に回答した。原告は5月8日、副委員長らとともに区次長に会い、収税課長の要望書を握りつぶしたとして激しく抗議したが、一方区次長は処分を覚悟するよう通告した。

 5月9日に原告の出勤簿がY南福祉事務所保護課に移されたが原告は出勤せず、翌10日になっても出勤しないことから、課長が原告に対し電話で出勤を促した。その後市職労の役員らが、原告の身柄を預かっているので大目に見るよう申し入れたが、課長は了解せず、5月13日以降原告は赴任先に出勤したものの仕事はしなかった。こうしたことから、被告市は、原告を5月27日付けで停職1ヶ月の懲戒処分に付した。

 これに対し原告は、本件配転命令は原告の組合活動を嫌悪したことによるもので、地公法56条に違反すること、仮に同条に違反しないとしても、本件配転命令は人事権の濫用として違法であるとして、その取消を請求した。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 原告は、4月17日をもって被告市八幡区収税課勤務から同市民生局八幡南福祉事務所保護課勤務を命ぜられたにもかかわらず、その配転命令を拒否し、その後右命令の撤回を求めて所属長らに連日のように抗議を行い、再三にわたる上司の就労命令を無視してこれに応ぜず、5月27日まで右保護課の職務に従事しなかったものということができ、右行為は、地公法30条、32条、35条に違反し、同法29条1項1号、2号の懲戒事由に該当する。

 原告は、集約出張徴収、主任制度、共済会の忘年会への支出についてそれぞれ反対したものであるが、これらは必ずしも原告の組合活動としての行為とは認め難く、後任補充の要求、職場要求は、職員としての当然の要求と考えられ、このことによって課長が原告の活動を嫌悪するとか、報復的感情を抱くとかは通常考えられない。また原告は、特殊滞納整理班に配置されたことをもって、課長による不利益取扱い又は報復的措置であると主張するが、課長は係長、主任らと相談し、原告が収税事務に精通している点を考慮して原告を特殊滞納整理班に充てたことが認められるから、原告の主張は理由がない。

 以上のとおりであるばかりか、本件人事異動の基準については、同一職場に5年以上在籍の大学卒業者、7年以上在籍の短大卒業者、9年以上在籍の高校卒業者をその対象とするとの客観的基準に依ったものであり、原告は高校卒業後11年間収税課に在籍し、右基準に該当していたと認められること、課長が本件人事異動の内容を左右し得る地位にあったとは認め難いこと、課長が本件配転命令後、区次長に対し、原告を早急に収税課に帰すよう要望書を提出したこと、その他の事情を勘案すれば、本件配転命令をもって課長が原告の組合活動を嫌悪して職場から排除するためになされたもの、あるいはその個人的感情から報復的な意図をもってなされたものということはできない。従って、被告の本件配転命令の地公法56条違反、人事権濫用の主張は失当である。

 地方公務員につき、地公法に定められた懲戒事由があう場合に、懲戒処分を行うかどうか、これを行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されており、その裁量が恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。

 本件についてこれをみるに、原告は本件人事異動に反対していた異動対象者が組合の指示に基づき全て新勤務に就いた4月25日以降も、自己が職場委員長になって間もないことなどを理由として、長期間にわたり新勤務に就くことを拒否したものであるが、その理由とするところをもって本件配転命令の拒否を正当化し得るものとはいえず、原告の配転拒否により配転先である八幡南福祉事務所保護課の業務及び市民生活に与えた影響も軽視することができない。以上、原告に対する本件処分が社会観念上著しく妥当を欠いたものということはできず、原告の懲戒権濫用の主張は理由がない。
適用法規・条文
地方公務員法29条1項、30条、32条、35条、56条
収録文献(出典)
労働判例377号61頁
その他特記事項