判例データベース
M社配転拒否事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- M社配転拒否事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成13年(ワ)第16358号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年09月30日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告は、通信用電機機械器具、工作機械等の製造販売を業とする株式会社で、原告(昭和30年生)は、平成8年4月、総務課管理職として、被告に採用され、3ヶ月の試用期間の後本採用となった者である。
被告は、業績低下を踏まえて、平成10年12月3日の取締役会において、人事異動のほか、能力評価Dの者、夫婦共働きの者を指名解雇する提案を了承したが、その後希望退職募集に変更された。被告は、平成12年10月1日、組織改編及び人事異動を行ったが、この時原告は異動対象とならなかった。被告社長は同年11月27日、取引先の会長の叙勲祝いに原告に調達させたワイン持参して同会長宅を訪問したが、留守であって用を足せなかった。そこで社長は帰社後原告を呼び、多数の従業員の前で会長の在宅確認をしなかったことを叱責し、「これから約束があっていけないから、ワインはてめえが持って行け」と指示したところ、原告は、訪問先の都合の確認まで指示されていなかったこと、ワインを持っていくことは社長の仕事であることを主張してこれを拒否した(ワイン事件)。被告は原告に対し、ワイン事件に関し、職場秩序を乱したとして、同年12月15日付けで始末書の提出を命じ、原告はこれに従って始末書を提出した。更に被告は、ワイン事件に関し、同月27日に原告を譴責処分に付した。
被告は売上高が減少することから営業力を強化することとし、平成13年3月15日、原告に対し営業へ配転する内示をしたが、原告はこれに同意せず、同年4月2日に本件配転命令をしても、原告はこれを受諾しなかった。そこで被告は、原告の本件配転命令違反は就業規則に反するとして、原告を懲戒解雇とした。
これに対し原告は、本件労働契約は職種限定であったこと、本件配転命令には業務上の必要性が存しないこと、本件配転の真の動機・目的は、原告を不慣れで苦手な営業に就かせることにより原告を苛め抜いて自主退職に追いやろうとすることにあること、本件配転命令により原告は人格に対する継続的な侵害行為を甘受するか、労働の場を失うかのいずれかになり、受ける不利益が著しいことをから、本件配転及びこれを拒否したことによりされた本件懲戒解雇処分はいずれも無効であるとして、被告従業員としての地位の確認と賃金の支払いを制球した。 - 主文
- 1 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は原告に対し、458万7140円及び平成14年7月から本案確定に至るまで毎月25日限り36万9400円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを12分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件労働契約は職種限定契約か
原告が中途採用であること、転職雑誌への広告の記載内容、原告の応募態様、面接及び試用期間中の評価態様、入社後の勤務状況からすると、本件労働契約は、原告を総務担当に就けることを目的としてなされたものと認められる。しかしながら、総務管理職は特殊技能を要する専門職とまではいえないこと、被告の就業規則では従業員の配転ができるとされていること、被告の従業員には異種間の配転をした例があることからすると、本件労働契約においても、「総務担当の管理職以外の職種には一切就かせない」という趣旨の職種限定の合意が成立していたとまではいえない。したがって、本件配転命令が本件労働契約に基づく配転の限界を超えて直ちに違法になるということはできない。
2 本件配転命令は人事権の濫用か
もっとも、配転命令は、業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転がほかの不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは当該労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合は、権利の濫用として無効となると解するのが相当である。そして、ここでいう業務上の必要性とは、当該配転先への移動が余人をもって代え難いちった高度の必要性に限定されるものではなく、企業の合理的運営に寄与する点が認められれば足りる。
被告においては、売上高が下降しており、営業力を強化するため組織変更をしたこと自体に合理性がないとはいえないが、被告の主張に一貫性が見られず、しかも本件懲戒解雇の後にも営業課に補充の人員を配置していないなど、平成13年4月の段階で、営業課の増員の必要性は乏しかったものといわざるを得ない。そして、原告はこれまでの経歴や経験を重視されて、総務担当の管理職として中途採用されたのであるから、総務職以外の職種に就かせることは、たとえ本件労働契約で職種の限定がされていなかったにせよ、慎重であるべきであったし、また被告代表者が「自分の言い分は全て正しいといわんばかりに振る舞う人間」「社会性に欠ける点がしばしば見受けられる」と評する原告を営業課に配置することは、営業重視という被告の方針と一貫性を欠いていることからすると、増員の必要のない部門に専門外の原告を配置する必要性ないし合理的根拠は極めて希薄であるといわざるを得ない。
そもそも、これまでの勤務評価がAないしEの5段階評価のうち常に上位のBであった原告を、被告代表者が上記のように評する理由は、ワイン事件での原告の対応が被告代表者の不興をかったことにあると認めるのが自然であることをも踏まえると、本件配転命令が、自らの専門外の職種に強制的に就けさせることで、原告を退職に追い込もうとする意図のもとにされたのではないか、という疑いを払拭することはできない。
これらの事情を総合すると、本件配転命令は、原告を営業課に配置することが被告の合理的経営に寄与するとは必ずしもいえないから、業務上の必要性を欠くものであると認めるのが相当である。したがって本件配転命令は、権利の濫用であり無効であって、これが無効である以上、本件懲戒解雇もその前提を欠き無効である。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1826号3頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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