判例データベース

N社仙台営業所退職勧奨・配転降格事件(パワハラ)

事件の分類
配置転換
事件名
N社仙台営業所退職勧奨・配転降格事件(パワハラ)
事件番号
仙台地裁 - 平成14年(ヨ)第160号
当事者
債権者 個人1名
債務者 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2002年11月14日
判決決定区分
一部認容・一部却下
事件の概要
 債務者は、医薬品、医薬部外品及び医療用具の製造、輸入及び売買等を目的とする会社であり、債権者は平成11年3月以降債務者に営業職員として仙台営業所に勤務する44歳の者である。

 被告は、アメリカ本社との間で平成13年の総売上目標額の大枠を決定し、その後症例数と営業所の配置人数を基準に、各営業所毎及び各営業職員毎の売上目標額を設定したところ、債権者の平成12年の売上目標達成率は87.7%、同13年の達成率は57.5%であって、同年における債務者の全国営業所のP職員15名中、目標達成率で14位、売上実績では最下位であった。債権者の平成13年1月から8月までの合計売上実績は1億円余であり、月毎の売上目標達成率は46.5%から62%の範囲であった。こうした中、債務者のH営業部長は、平成13年8月29日、債権者に対し転職を勧め、少なくとも年間2億5000万円、最大限譲歩しても2億円の売上があれば考え直すと言って、目標額達成の計画を立てるよう要求した。債権者は同年9月から12月までの売上目標額を7717万円として提出したが、課長Eは債権者に対し1億円の達成を要求し、同年11月30日、H及びEは債権者に対し、1億円に全然届きそうもないとして退職を迫った。債権者は同年12月7日から平成14年1月中旬まで入院し、同年2月20日、退院後初めて仙台営業所に出勤したところ、H及びEから、退職金の上乗せなどを条件に再度退職を勧奨され、これを受け入れない場合は解雇する旨通告された。Eは同月23日、仙台事務所の全職員に対し、債権者に対して営業に関する情報、資料を提供しないよう注意するメールを送信した。

 債権者は、同月28日、法務部長、人事部長及びEから退職勧奨を受け、債権者が退職を拒否したところ、単純作業の部署に変更する旨通告された。債権者は同年3月1日、人事部長から、1月1日に遡ってセールスサポートの仕事をするよう申し渡され、同月5日本件配転命令が発せられた。これにより債権者は、PからPに降格となり、賃金も約半額に減額された。債権者は、本件配転命令発令後、日常的な仕事は特に与えられず、同年9月18日、Eから、担当業務として、電話対応、宅配便の発送・受入、エクセル入力、廃棄物処理、冷蔵庫管理、営業部員依頼資料作成等を指示されたが、出勤時に宅急便荷物の受渡し、1日1度程度の電話対応、僅かなゴミ捨て程度の仕事があるのみであった。

 債権者は、就業規則に配転に関する条項がなく、本件配転命令は法的根拠を欠くこと、自分は営業職として採用されたこと、本件は移転命令は賃金の減額を伴っているところ、債権者の合意を欠くこと、本件配転命令の動機目的は、債権者を退職に追い込む手段としたもので、動機目的も不当であることから本件配転命令は違法無効であることを主張し、債務者に対し、労働契約上営業職の地位にあることを仮に定め、配転前の賃金を仮に支払うことを求めて仮処分の申立を行った。
主文
1 債権者は、債務者に対し、労働契約上営業職としての地位を有することを仮に定める。
2 債務者は、債権者に対し、平成14年3月から本案判決確定に至るまで、毎月25日限り金61万9950円を仮に支払え。
判決要旨
1 本件配転命令の法的性格について

 本件配転命令は、債権者が営業職のうちの高位の給与等級であるPに属していたことから、営業事務職に配転されることによってPとなった結果、賃金の決定基準である等級についての降格という側面を有している。

 配転命令の側面についてみると、使用者は、労働者と労働契約を締結したことの効果として、労働者をいかなる職種に就かせるかを決定する権限(人事権)を有していると解されるから、人事権の行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用にわたるものでない限り、使用者の裁量の範囲内のものとして、その効力が否定されるものではないと解される。他方、賃金の決定基準である給与等級の降格の側面についてみると、賃金は労働契約の最も重要な労働条件であるから、単なる配転の場合とは異なって使用者の経営上の裁量判断に属する事項とはいえず、降格の客観的合理性を厳格に問うべきものと解される。


2 本件配転命令の客観的合理性について
(1)債権者の営業成績について
 要するに、債権者の営業成績の数値が低迷している原因は、債権者の営業能力に起因する部分があるとしても、売上目標達成率との関係では売上目標の設定自体に問題なしとしない上、売上実績の関係では担当症例数が少ないことや担当病院の多さ及び広大な担当地域も影響しているといわざるを得ず、債権者の営業成績をもって従前の賃金と比較して約半分とする本件配転命令の根拠とするには足りないというべきである。
(2)本件配転命令の動機目的について
(3)本件配転命令の客観的合理性についての結論

3 保全の必要性 (略)
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例842号56頁
その他特記事項