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N新聞社支局長配転懲戒解雇事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 配置転換
- 事件名
- N新聞社支局長配転懲戒解雇事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京高裁 - 平成14年(ネ)第3575号
- 当事者
- 控訴人 株式会社
被控訴人 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年02月25日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- 被控訴人(昭和21年生・第1審原告)は、昭和46年4月、新聞記者として控訴人(第1審被告)に雇用され、平成3年5月に論説委員付き編集委員、平成4年2月に同論説委員に就任した。その一方、被控訴人は入社以来、ユニオンショップ協定による労組に入って組合活動にも従事したが、論説委員に就任した際、組合を脱退した。
控訴人は、平成5年7月、経営合理化として組織改編を行い、同年11月には組織と要員の抜本的な見直し等を重点項目とする中期経営計画を立てた。控訴人は、平成6年1月、関東総局から千葉支局を分離させて専任の支局長を配置するなどを内容とする組織変更を明らかにし、被控訴人に対して同年2月1日付けで千葉支局長に任命する内示を行ったところ、被控訴人は、同居の実母が高齢で転居できない、通勤時間が2時間30分かかり通勤もできないなどとして転任を拒絶した。被控訴人は同月28日に控訴人社長と会い、内示の撤回を求めたが、同社長はこれに応じなかったため、新しい労働組合(反リストラ労組)を結成し、控訴人に対し団交を求めたが、控訴人は、同年2月1日、被控訴人を千葉支局長とする人事発令を行った。これに対し被控訴人は辞令の受取りを拒否し、反リストラ労組との団交を求めたが、控訴人はこれが適格性のある労組である確認ができないとしてこれに応じなかったため、反リストラ労組は、都労委の資格審査を経て、同月4日、都労委に対し、団交拒否等につき不当労働行為の救済命令の申立を行った。
被控訴人は、同月8日、やむなく千葉支局に赴任したが、引き続き本件配転の撤回を求めることを被告に伝え、反リストラ労組との団交を求めたところ、控訴人は話合いには応ずるとしたものの、結局団交には至らなかった。
被控訴人は、販売開発局長から千葉県の経済事情に関する記事の出稿を再三にわたり求められていたところ、同年3月30日、「出口の見えない千葉経済」と題する原稿を出稿したが、掲載が予定されていた特集記事については執筆しなかった。同年6月3日、被控訴人は支局長会議の報告文書の提出を求められたがこれを提出せず、同会議も欠席した。また、控訴人は同年6月15日から3日間幕張メッセで展示会を開催し、被控訴人にも開会式及び懇親会に出席するよう求めたが、被控訴人は団交で話合いがつかない限り応じないとして、これを欠席した。その後も控訴人は、被控訴人に対し特集記事の執筆、会議への出席、本社への出頭等を指示したが、被控訴人はこれらに応じなかった。
控訴人社長は、被控訴人を注意するため、同年9月8日、特命担当を通じ、被控訴人に対し、支局長としての業務を遂行するよう求めたが、被控訴人はこれを聞き入れず、何らの連絡もないまま千葉支局に出勤しなかったため、販売開発局長は、賞罰委員会に対し被控訴人に対する制裁の付議を申請し同委員会が同年9月19日に開催された。被控訴人は弁明の中で、千葉支局長にしたのは不当配転であること、公式の業務命令を受けたことはなくこれを拒否したこともないこと、賞罰委員会への付議は不当労働行為であることなどを主張した。本件賞罰委員会は、千葉支局長赴任後の被控訴人の振舞いは、就業規則「異動命令その他業務上の必要に基づく会社の命令を拒否したとき」に当たるとして、被控訴人を懲戒解雇に処することを議決し、控訴人はこれを受けて、同日、被控訴に対し、同月22日付けで懲戒解雇処分とすることを通告した。
これに対し被控訴人は、本件配転は違法であること、千葉支局に赴任してから多忙な取材活動に従事し、一方的に決められた介護や展示会に出席することは不可能であったこと、本件賞罰委員会には被控訴人に業務命令をした上司らが加わっていたこと、本件解雇は組合活動を理由とするもので不当労働行為であることなどを挙げて、本件懲戒解雇の無効の確認と損害賠償の支払を請求した。
第1審では、被控訴人の主張を認め、本件懲戒解雇を無効としたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 被控訴人は、控訴人に対し、1628万9356円及びこれに対する平成14年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件解雇と懲戒権の濫用
被控訴人は、千葉支局長として本件解雇に至るまでの半年以上の間、支局長として行うべき管理業務を一貫して行わなかったばかりか、新聞記者としても、80行程度の記事を1回出稿したのみで、その後は記事の出稿要請を拒否し、記者として最低限の取材活動を行った形跡すら窺われず、控訴人が経営立直し策の一環として主催した千葉県内の展示会への参加も拒否した上に、支局長としての業務に従事するよう求められたにもかかわらず、これにも耳を傾けようとしなかったのであるから、こうした被控訴人の姿勢は、従業員として行うべき最低限の業務をも放棄したものというほかなく、被控訴人の一連の振る舞いが就業規則の懲戒解雇事由に該当することは明らかであり、その内容や、新たに発足した千葉支局の業務を半年以上にわたって滞らせた結果も重大であることに鑑みると、被控訴人が以前の取材活動等において控訴人に対する貢献がそれなりにあったことを十分に考慮したとしても、控訴人が被控訴人を懲戒解雇したことは、客観的にみても合理的な理由に基づくものというべきであり、本件解雇は懲戒権を濫用したものということはできない。
控訴人の従業員の中には、かつて新聞記者でありながら記事を出稿しなかった者や、記事を捏造したり、取材不足のため不正確な記事を書いた者がいたものの、本件解雇以前には懲戒解雇された者は存在しなかったことが認められるが、これらの者が上記のような行為に及んだ時期は、入社歴が10年前後のものであったり、その背景に病的な要因の存在が窺われるものであったことが認められ、本件解雇と一概に比較することはできないものである上、被控訴人の千葉支局赴任後の一連の振る舞いに鑑みると、本件解雇が不平等な処分であるということもできない。
被控訴人は、懲戒処分に付するとしても、懲戒解雇は過酷である旨主張する。しかしながら、被控訴人は、本件配転命令によって千葉支局に赴任したものの、半年以上にわたり、従業員としての最低限の業務すら拒否していたというほかないもので、その結果、控訴人に与えた損害も大きかったから、控訴人が被控訴人を懲戒解雇したことが社会的相当性を逸脱したものとは解されず、被控訴人の上記主張は採用することができない。
被控訴人は、賞罰委員会の審議に加わった販売開発局長及び常務は、被控訴人の上司であり、事案の直接の関係者であるから、賞罰委員会の議決には手続き上の瑕疵があり、これを前提とする本件解雇も違法である旨主張する。しかし、本件賞罰委員会は、労使の代表等によって構成される懲戒委員会などの例とは異なり、控訴人の懲戒権の行使を公正ならしめるための内部的機関に過ぎず、このような性格に照らすと、賞罰委員会規程が審議に加わることができないものとしている「事案の直接の関係者」とは、当該賞罰の議に付された本人又はこれに準ずる者及び賞罰の審議の対象とされた賞罰事由(非違行為等)そのものに直接関わった者をいうと解するのが相当である。これを本件についてみると、上司として業務命令を発し、又は所属長として賞罰委員会に付議の申請をした者が当該賞罰委員会の議に付された本人又はこれに準ずる者や、審議の対象とされた非違行為等そのものに直接関わった者でないことは明らかであるから、両名が賞罰委員会規程所定の「事案の直接の関係者」に当たるということはできない。のみならず、本件賞罰委員会は、控訴人の懲戒権等の行使を公正ならしめるための内部的な自律的機関に過ぎないのであるから、単に議事が賞罰委員会の規程に違反して行われたというだけで、直ちに当該懲戒処分の無効を来すものと解することはできない。
2 本件解雇と不当労働行為
被控訴人は、本件解雇は、被控訴人の組合活動を嫌悪して、被控訴人を職場から排除するためにされた不当労働行為である旨主張する。しかしながら、被控訴人は、もともと際立った組合活動をしていた者であるとはいい難く、論説委員に就任した際には、従来加入していた労組を脱退していたものであるところ、本件配転に強い不満を抱き、異動に係る内示を撤回させるため、自らが代表幹事になって設立した労働組合との団体交渉に応ずるように求めるようになったもので、その後千葉支局に支局長として赴任したものの、支局長としての業務をことごとく拒否したばかりか、控訴人が経営立直しの一環として企画した千葉県内における展示会の参加要請にも、千葉県内の経済状況に関する記事の出稿要請にも応ずることなく、社長名で支局長としての業務に従事するよう求められたにもかかわらず、これにも耳を傾けようとしなかったため懲戒解雇されたのであり、同懲戒解雇に懲戒権の濫用があると認めることはできないことは前記のとおりである。
したがって、確かに本件解雇は、被控訴人が反リストラ労組を申立人として、本件配転や反リストラ労組による団体交渉の申入れを拒否したことが、不当労働行為に当たるとして申し立てた救済命令申立事件の審理中にされたものではあるものの、本件解雇には十分な合理性があるのであって、反リストラ労組が仮に労働組合法所定の労働組合であるとしても、被控訴人が同組合を結成したこと、その組合員であること、労働組合の正当な行為をしたことの故をもって本件解雇がされたということはできないから、本件解雇が労働組合法7条1号本文前段の不利益取扱いに当たるとはいえず、そうである以上、同條3号の支配介入に当たるともいえないから、被控訴人の上記主張は採用できない。 - 適用法規・条文
- 労働組合法5条、7条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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