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B銀行業務委託契約打切事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- B銀行業務委託契約打切事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成13年(ワ)第2957号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年08月14日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、ブラジル国の国立銀行であり、原告(昭和15年生)は昭和39年に被告の本店に雇用され、東京支店次長を勤めるなどし、平成9年6月に57歳で退職した者であって、ブラジル国の国籍を有していたが、平成12年4月に日本国籍を取得した。
原告は、退職して一旦ブラジルに帰国した後日本に戻り、被告東京支店との間で、平成10年4月10日、雇用期間を同年2月1日に遡って同日から平成11年1月31日までの1年間とする雇用契約書(第一契約書)を作成し、平成10年2月1日から被告東京支店名古屋出張所所長として勤務していた。第一契約書には、原告の報酬は年間1440万円とし、その金額を12等分して毎月支払う旨記載されていた。その後、原告と被告東京支店は、平成11年2月1日から7月31日までの6ヶ月間を契約期間とする業務委託契約書(第二契約書、また同年8月9日から平成12年2月8日までの間の契約書(第三契約書)及び同年3月13日から7月31日までとする契約書(第四契約書)を作成した。第二契約書の契約期間終了後から第三契約書の契約期間開始までには8日間の間隔(空白期間一)が、第三契約書の契約期間終了後から第四契約書の契約期間開始までには33日間の空白期間(空白期間二)がそれぞれ設けられていた。第二契約書では、「被告東京支店が原告に本契約により業務を委託する」旨記載されたが、業務内容、就業規則等の規定は第一契約書の記載とほぼ同一であった。第一契約書ないし第四契約書には、毎月120万円の報酬及び旅費を除いてボーナス、手当等何らの支払も原告にされないことを両当事者は了解する旨記載されていた。
被告東京支店は、平成12年6月8日、原告に対し、同年7月31日に満了することになっている業務委託契約について、その後更新されない旨文書で通告した(本件通告)。 原告は、第二契約ないし第四契約は、その表題が「業務委託契約」となっているだけで、その内容は第一契約と同様雇用契約であるところ、本件契約は、極めて重要な名古屋出張所の所長であり一時的臨時的業務を担当しているのではないこと、本件契約は4回にわたり反覆更新されていること、第一契約締結時に支店長は原告に「契約期間は1年だが1年ごとに更新する」旨約束し、第三契約、第四契約締結の際、自動更新がない形にするため空白期間を設けたもので空白期間は形式的なものであると言われたことなどから、原被告間の契約は実質的に期間の定めのない雇用契約であると主張した。また原告は、本件雇用契約が有期雇用契約であるとしても雇用継続が期待される関係にあり、雇止めには解雇権濫用法理の適用があるとして、被告に対し労働契約上の権利を行使し得る地位にあることの確認、月額120万円を基準とした賞与等3048万円余の支払い、毎月の給与120万円及び年間賞与780万円の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 第二契約書ないし第四契約書に基づく契約は労働契約であったか
第二契約ないし第四契約においては、雇用契約とされた第一契約書と同様の内容が定められていたこと、従事した業務も第一契約と同様であったこと、報酬も月額制になった以外は同価値であったこと、被告東京支店長の指揮命令に従い、報告を行うよう契約書上定められていたこと、労働基準法39条(年次有給休暇)の適用があることが前提として記載されていること、原告が健康保険、厚生年金保険、雇用保険の被保険者とされていたこと、第二契約書送付に際し、被告支店長が「契約書の題名は異なるが、内容・条件は維持されている」旨手紙で説明したことが認められ、これらの事実によれば、第二契約ないし第四契約は雇用契約であったと認めるのが相当である。
2 本件通告後の賃金請求権、雇用契約上の権利
原被告間の契約は、第一契約締結後3回にわたり更新され、第二契約は第一契約書に記載された更新期限を過ぎてから更新されているものの、第二契約及び第三契約のいずれにおいても、契約期間満了直後又は直前に契約期間を明記した契約書が両当事者によって作成され、各契約書には契約期間とともに、一時的な契約であることや、使用者が契約更新の義務を負わないことが明記されていたこと、第四契約は第三契約終了から1ヶ月以上経過し原告が一旦ブラジルに帰国した後に新たに締結したものであることが認められ、これらの事実からは、第一契約ないし第四契約による原被告間の雇用関係が、実質的に期間の定めのない契約であったということはできない。
有期雇用契約であっても、それが当事者において、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思で締結されたもので、期間の満了するごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたと認められるか、ある程度の雇用継続が当事者において期待されていた場合には、解雇権濫用の法理が適用される場合があると解される。
原被告間の契約は、第一契約締結後3回にわたり更新され、第二契約及び第三契約においては契約期間満了直後又は直前に契約期間を明記した契約書が両当事者によって作成されていること、各契約書には、契約期間とともに一時的な契約であることや、使用者が契約更新の義務を負わないことが明記されていたこと、第四契約は第三契約終了から1ヶ月以上経過し原告が一旦ブラジルに帰国した後に新たに締結したものであること、その従事する仕事は基幹的役職ではあるが契約書の文言通り一時的な雇用と理解して当時の両当事者の状況と矛盾しないこと、原告主張の雇用継続を期待させる被告側発言はこれを認めるに足りないことが認められる。これらの事情を考慮すると、第一契約ないし第四契約は、当事者において、当然更新されるべき労働契約を締結する意思で締結されたものであるとも、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとも、ある程度の雇用継続が当事者において期待されていたとも認めるに足りず、解雇権濫用法理の適用される余地はないというべきである。したがって、原告の本件通告後の賃金請求及び原告の雇用契約上の権利の確認を求める請求は理由がない。
3 賃金請求権
第一契約の報酬は、年俸として1440万円とする旨定め、第二契約ないし第四契約はこれと同価値同種の報酬として月額120万円を定めたものであって、いずれの契約においても、月額120万円の報酬は、被告東京支店の給与規定に定める「基本給」ではないと認めるのが相当である。原告は、被告東京支店の給与規定に定める給与区分からすれば基本給としか考えられない旨主張する。しかし、個別的労働関係の解釈においては、私法の大原則からしてまず当該契約における当事者の意思の合理的解釈によるべきであって、かかる当事者の合理的な意思が就業規則によるものと認められる場合に初めて就業規則に基づき解釈されるべきことになる(民法92条)か、あるいは、かかる当事者の意思が就業規則に達しない内容の労働契約であるとき初めて就業規則で定める基準によるべきことになる(労働基準法93条)。しかるに、本件契約においては、その契約書の記載からして、年俸を定めその12等分を月額報酬とし、これと同価値の報酬を定めたものであることが明らかであるから、原告の主張は採用できない。月額120万円が基本給でない以上、原告の賞与請求は理由がない。 - 適用法規・条文
- 民法92条、労働基準法93条
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報1824号3頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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