判例データベース
O社解雇事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- O社解雇事件(パワハラ)
- 事件番号
- 仙台地裁 - 平成19年(ワ)第2063号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年12月24日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は建設機械器具の賃貸などを業とする会社であり、原告(昭和30年生)は、平成12年8月16日に被告に雇用され、平成17年3月まで営業部次長、翌4月からは営業部長を務め、平成19年5月1日には統括事業部長を兼務する取締役に就任した者である。
原告は、被告に雇用された当時から糖尿病に罹患し、医師からは飲酒を控えるように指導されていたが、1日当たり2、3合程度の焼酎を毎日飲んだり、休日には昼間からビールを飲んだりしていた。
原告は酒に酔った状態で出勤したり、勤務中居眠りしたり、取引先の担当者の前で呂律が回らなくなるほど酔ってしまったりすることがあった。原告は、平成18年4月以降、体調不良、うつ病などを理由に、1ヶ月に1日ないし4日の割合で病気休暇を取るようになったが、飲酒を止めたり、控えたりすることはなかった。被告には、部下や取引先から、原告の勤務態度や飲酒癖について苦情が寄せられていたが、社長は勤務態度や飲酒癖について強く注意や指導をすることはなかった。
原告は、平成19年6月4日(月)、取引先の担当者と打合せの予定があるのに出勤せず、常務から電話で出勤を指示されながら、「日曜日と思っていた」などと弁解し、その後も出勤を求められたが、結局終日欠勤した(本件欠勤)。同日、社長は原告から電話で「自分を辞めさせたらどうか」と言われたこともあって、原告に退職届を提出するよう指示した。この時、原告は酒に酔った状態であった。
社長は、同月6日の朝取締役会を開催し、原告から退職の申し出があったと説明したところ、原告を弁護したり、慰留したりする取締役がいなかったので、原告の退職は承認された。その後原告は社長から退職願の提出を求められたが、同月11日、社長に対し退職願は提出しないと回答するともに、解雇通知書の交付を求めたところ、社長はこれに応じて本件解雇通知をし、同月15日付けで原告を解雇した。被告は、再就職までの原告の生活を慮って、1ヶ月分の賃金全額、賞与の全額、退職金、餞別を支給したところ、原告は異議を留めないでこれらを受領した。
原告は、アルコールの分解能力が低い影響で酒に酔った状態で出勤したり、長時間労働のために勤務時間中に居眠りをしたことはあったが、被告の信用を落とすような振る舞いをしたことはないこと、休暇の日数も取り立てて多くはないこと、その他就業規則で定める解雇事由はないことから、本件解雇は無効であるとして、本件解雇という不法行為がなければ原告が得ることができた逸失利益1790万9300円を請求した。 - 主文
- 1 被告は、原告に対し、447万7325円を支払え。
2 原告のそのほかの請求を棄却する。
3 訴訟費用は、その4分の3を原告、その1を被告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件解雇の有無
原告は、平成19年6月4日の夜、社長に対し、電話で「自分を辞めさせたらどうですか」と述べたことが認められるが、原告はこの時酒に酔った状態であったし、「辞める」ではなく「辞めさせる」であって、その翌日以降、社長から求められているのに退職願の提出を拒んでいることも合わせて見ると、このやり取りだけで、自分から退職する意思があったとまでは認め難い。せいぜい、あったとしても、その場限りのもので、酔いが覚めた翌日には撤回したとみるのが相当である。原告が異議を留めないで、平成19年6月分の賃金、賞与、退職金、選別を受け取ったからといって、そのことで、自分から退職したとみることはできない。
2 本件解雇の合理性
原告には、酒に酔った状態で出勤したり、嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒したり、取引先の担当者がいるのに呂律が回らなくなるほど酔ってしまったり、酒に酔った状態で勤務時間後に他の従業員に長電話をするとの勤務態度が見られ、それは、従業員からだけでなく取引先からも苦情が寄せられる程であった。このような勤務態度は、原告の飲酒癖、深酒によるものがほとんどであり、原告は、飲酒を止めたり控えたりすることで勤務態度を改善することができたはずであるし、そうすべきであった。ところが原告は、体調不良を感じたり、うつ病にかかったり、体力的に辛いと言うようになっても、飲酒を止めたり控えたりすることはなかった。また原告は、平成19年6月4日、B社の担当者と打合せをすることになっていたのに無断欠勤をし、常務に対し日曜日だと思っていたと弁解したり、酒に酔った状態で「辞めさせたらどうですか」と投げやり、無責任な対応をするだけで、真剣に反省したり、打合せに支障を来さないような配慮をした様子は窺われない。これらの事情からすると、本件解雇の時点では、幹部従業員である原告に見られた本件欠勤を含めた勤務態度の問題点は、被告での正常な職場機能、秩序を乱す程度のことであるし、原告自ら改める見通しも乏しかったとみるのが相当であり、就業規則に定める普通解雇事由に該当する。
しかし、被告も、原告の勤務態度に問題がみられるのは、その飲酒癖、深酒にあると把握できていたはずである。そうであれば、被告は原告に対し、自分の問題点を自覚させ、自らの勤務態度を改める機会を与えるため、はっきりと、その飲酒癖、深酒、そのことにより勤務態度に問題が生じていることを注意・指導したり、そのことが解雇の理由になり得ることを警告したり、そのことを理由とする懲戒処分をすることで改善が図られるか見極めることができたはずであるし、そうすべきであった。ところが、社長は本件欠勤まで、原告に対し、飲酒を控えるよう注意したり、居眠りをしたときは社長室で寝るよう言ったことはあるが、それ以上に、勤務態度や飲酒癖を改めるよう指導せず、かえって、営業部長、統括事業部長を兼務する取締役へと昇進させている。このような対応は、社長の原告に対する温情、配慮の表れとみることはできるが、原告に自分の問題点を自覚させることができておらず、自らの勤務態度を改める機会を与えていたとはみることはできない。
このような事情からすると、原告の勤務態度には、前記のとおり就業規則で定める普通解雇事由に該当する問題点はあったけれども、そのことを理由としても、本件解雇は社会通念上相当として是認するとまではできない。そうすると、本件解雇は無効であるし、原告はこの解雇により被告で働くことを断念させられ、被告との労働契約を終了させることを余儀なくされたのだから、この解雇は原告に対する不法行為になる。被告には、原告に対し、本件解雇されなければ得られたはずの収入に相当する額を賠償する義務がある。原告は、本件解雇されなければ、被告から少なくとも6ヶ月間は、1年当たり895万4650円の割合による給与収入を得られたはずなのに、この解雇をされたことで、この447万7325円の収入を得ることができなくなったとみるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、労働基準法20条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1018号12頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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仙台地裁-平成19年(ワ)第2063号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2008年12月24日 |
仙台高裁 - 平成21年(ネ)第54号 | 控訴棄却(上告) | 2009年07月30日 |
最高裁 - 平成21年(オ)第1727号 | 原判決破棄(上告認容) | 2010年05月25日 |