判例データベース
学校法人K学園雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 学校法人K学園雇止事件
- 事件番号
- 新潟地裁 - 平成19年(ワ)第880号
- 当事者
- 原告 個人2名 A、B
被告 学校法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年12月22日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、高校、大学、短大、専門学校を経営する学校法人であり、原告Aは昭和57年4月から平成19年3月まで(昭和58年4月から8月まで、昭和60年11月から昭和61年1月まで、昭和63年1月から3月までを除く)、原告Bは平成元年4月から平成7年3月まで及び平成8年4月から平成19年3月まで、それぞれ被告高校の理科及び数学の非常勤講師として勤務していた女性である。
原告らに対する契約更新手続きは、平成15年度までは専任教員から口頭で就労意思の確認が行われていたが、平成16年4月以降は辞令書以外に「雇入れ通知書」が交付され、平成18年度以降の更新から、前年12月頃に「来年度の雇用に関して(通知)」と題する文書が送付されるようになり、更新希望の有無を返答することとなった。
平成18年12月15日の職員会議において、平成19年度の新教育課程が確定されたところ、被告は原告らに対し、同月27日付「来年度の雇用に関して(通知)」を交付して、翌年度の更新見通し(確約不能である旨)を通知し、同書面には、翌年度の再雇用希望者は平成19年1月31日までに申し出る旨記載されていたことから、原告らはしずれも同月末頃被告に対し雇用継続の希望を伝えた。ところが、被告は、同年2月26日、原告Aに対しては、平成19年度の学級減当のため理科の非常勤講師時間数はゼロになるとして、雇用が同年3月25日までとする内容証明郵便を送付し、同月23日、原告Bに対してカリキュラムの関係で来年度の数学の持ち時間数がないと説明した。
原告らは、同年3月2日、前日に要求した解雇理由説明書をそれぞれ交付されたところ、同書面にはいずれも解雇理由として、「専任教員の持ち時間数を超える授業時間数がない場合による」旨の記載がされていた。原告らは校長に対し、面会を求めたが、校長から一切連絡がなかったため、同月5日、労働委員会で個別あっせんの手続きをとった。
原告らは、本件雇用契約は実質において期間の定めのない雇用契約と異ならないというべきであり、仮にそこまでいえないとしても、非常勤講師として雇用関係継続が期待されていたものであって、解雇権濫用法理が類推適用されるところ、被告には人員削減の必要性もなく、解雇回避の努力も行われず、誠実な説明も行わなかったから、解雇権の濫用に当たるとして、非常勤講師としての地位の確認と賃金の支払いを制球した。 - 主文
- 1 原告Aが、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告Aに対し、47万8800円及びこれに対する平成19年12月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告Aに対し、平成20年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り5万3200円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 原告Bが、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
5 被告は、原告Bに対し、76万6080円及びこれに対する平成19年12月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6 被告は、原告Bに対し、平成20年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り8万5120円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
7 訴訟費用は被告の負担とする。
8 この判決は、第2項及び第5項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 原告らの雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されるか
期間の定めのある雇用契約であっても、期間満了ごとに当然更新され、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には、期間満了を理由とする雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たり、その実質に鑑み、その効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推適用すべきであり、また労働者が契約の更新、継続を当然のこととして期待、信頼してきたという相互関係のもとに雇用契約が存続・維持されてきた場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、期間満了後の更新拒絶(雇止め)について、解雇に関する法理を類推適用すべきであると解される。
非常勤講師は、クラス担任及び部活指導は行わず、校務分掌も入っていないこと、兼職が禁止されておらず、現に原告Aは県立高校の非常勤講師等を兼務するなどしていたこと、給与体系や適用される就業規則が専任教員と異なっていること、専任教員は基本的に1週40時間以内と決まっているのに対し、非常勤講師にはそのような労働時間の決まりはないこと、そもそも勤務時間数は、各学年の各学科のクラス編成数や生徒の科目選択によって変動することからすれば、原告Aと被告との間の雇用契約が実質において専任教員の場合と同じく期間の定めのない雇用契約と異ならない状態にあるとまでは認められない。しかしながら、1)原告Aと被告との間の雇用契約は24回にわたって更新され、25年間という極めて長期にわたり被告高校に非常勤講師として勤務し続けていたこと(3回にわたる中断があるが、これらはいずれも産休又は育休によるもの)、2)原告Aは勤務していた間、被告高校において、更新を希望しながらその意に反して雇止めされた非常勤講師がいたことを聞いたことがないこと、3)24回更新のうち最後の3回を除き、原告Aの更新手続きは形式的なものであったこと、4)平成16年度より前は、原告Aが希望すれば研修に参加することができたことからすれば、被告としても継続的な雇用を見越していたと考えられること、5)原告Aは授業を担当することは当然として、それ以外にも教材の研究と選定、小テストやプリントの作成、課題・レポートの点検、授業や実験の準備:後片づけ、テストの作成・採点、試験監督、成績の評価、補習等専任教員と同様な業務をこなしていたこと、6)原告Aは、毎年雇用期間とされていない3月26日から31日の間も私立学校共済組合へぼ加入が継続されていたこと、7)賞与・退職金の交付に当たり勤続年数が考慮されていることからすれば、被告高校においては非常勤講師の継続雇用が前提となっていると考えられること、以上を併せ考慮すると、原告Aにおいて、平成19年3月25日の契約満了後も、雇用継続を期待することに合理性があったと認めるのが相当である。
原告Bと被告との雇用契約についても、実質において専任教員の場合と同じく期間の定めのない雇用契約と異ならない状態にあるとまでは認められない。しかしながら、1)原告Bと被告との間の雇用契約は合計15回にわたって更新され、合計17年間という長期にわたり被告高校に非常勤講師として勤務し続けたこと、2)15回の更新のうち、最後の3回を除き、原告Bの更新手続きは形式的なものであったこと、3)原告Bは研修に参加したことがあり、その費用は被告が負担していたことからすれば、被告も継続的な雇用を見越していたと考えられること、4)原告Bは授業を担当するほか、教材の研究と選定、小テストやプリントの作成、課題・レポートの点検、授業の準備、テストの作成・採点、成績の評価、補習等専任教員と同様な業務をこなしていたこと、5)原告Bは毎年雇用契約期間とされていない3月26日から31日の間も私立学校共済組合への加入が継続されていたこと、6)賞与・退職金の交付に当たり、勤続年数が考慮されていることからすれば、被告高校においては非常勤講師の継続的雇用が前提となっていると考えられること、以上を併せ考慮すると、原告Bにおいて、平成19年3月25日の契約期間満了後も、雇用継続を期待することに合理性があったと認めるのが相当である。
確かに、被告高校において、平成16年度からは「雇入通知書」を非常勤講師に対し交付するようになり、辞令交付式も行われるようになり、平成18年度の「雇入通知書」には「契約更新に関する事項」が記載されるようになっており、これらの事実からすれば、原告らにおいて、被告との間の雇用契約が、期間の定めのある雇用契約であることを改めて認識する契機になったと思われる。しかしながら、その後も契約更新に当たり、校長や理事長との個別面談といった意思確認手続きが行われることはなかったことからすれば、更新手続きはやはり形式的なものであったというほかない。したがって、原告らは、いずれも雇用継続を期待することに合理性があったと認められ、原告らの雇止めにはいずれも解雇権濫用法理が類推適用されると解するのが相当である。そうすると、同人らに対する雇止めが有効であると認められるためには、単に雇用契約の期間が満了したというだけでは足りず、「社会通念上相当とされる客観的合理的な理由」が存することが必要であると解される(労働契約法16条)
2 原告らの雇止めの有効性
整理解雇とは、使用者が経営不振の打開や経営合理化を進めるために、余剰人員削減を目的として行う解雇をいうところ、原告らの雇止めにおいて、原告らに非違行為等の落ち度は全くないのであって、被告らも使用者側の経営事情等により生じた非常勤講師数削減の必要性に基づく雇止めであること自体は否定していない以上、余剰人員削減を目的として行った雇止めであるとみるのが相当である。したがって、原告らの雇止めには整理解雇の法理を類推適用すべきと解する。すなわち、原告らの雇止めの「社会通念上相当とされる客観的合理的な理由」の有無は、1)人員削減の必要性、2)雇止め回避努力、3)人選の合理性、4)手続きの相当性の4つの事情の総合考慮によって判断するのが相当と解する。
もっとも、非常勤講師は、専任教員の持ち時間を超える授業時間数が発生した場合にその超える授業時間数を担当することを目的として約1年間の有期雇用契約によって採用される者であること、専任教員と異なり、クラス担任にならず、校務分掌に入らず、クラブ活動の指導もしないこと、兼業が禁止されておらず、拘束性が希薄であることなどに照らすと、期間の定めがなく雇用されている専任教員とは、被告との間の契約関係の存続の要否・程度に自ずから差異があるといわざるを得ない。したがって、原告の雇止めが解雇権の濫用に当たるか否かを判断するに際しても、被告に相当の裁量が認められ、整理解雇の枠組みを類推適用するとしても、専任教員の解雇の場合と比べて緩和して解釈されるべきであり、それまで雇用していた原告らを雇止めにする必要がないのに恣意的に雇用契約を終了させようとしたなどその裁量の範囲を逸脱したと認められるような事情のない限り、「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が存在するといえ、解雇権の濫用に当たると認めることはできないというべきである。
平成19年度の教育課程によっても、専任教員の授業持ち時数が平成18年度と同じ時間数であれば、少なくとも理科は4時間、数学は18時間、それぞれ非常勤講師に担当させる授業時数があったものと認められる。よって、平成19年度の教育課程から、直ちに原告らの授業持ち時数がゼロになるとは認められない。この点被告は、カリキュラムの変更だけでなく、財政を理由とする専任教員による授業持ち時数の県内高校平均負担により原告らの授業持ち時数がゼロになった旨の主張をする、確かに被告は、人件費を削減しなくても直ちに財政破綻を招くような状態にあったとは認められないが、被告高校においては、平成15年度から平成18年度まで支出超過の状態が続いており、生徒数も平成9年度までは1400人いたが、平成15年度以降は1000人を切り、更にその後も年々減少しており、平成19年度において人員削減の必要性がなかったとは認められない。しかしながら、平成18年度から平成19年度にかけての生徒数減は24名に過ぎなかったことからすれば、平成19年度の教育課程によっても確保し得る理科4時間、数学18時間を担当する非常勤講師に対する報酬を、平成19年度をもって直ちに削らなければならないまでの必要性があったのかについて、被告は立証できていないというべきである。したがって、人員削減の必要性は認められない。
非常勤講師の雇止めの場合に要求される「社会通念上相当とされる客観的合理的理由」が、専任教員の解雇の場合と比べて緩和して解釈されるべきことからすれば、雇止め回避努力として、被告において希望退職者募集等の具体的措置をとることまでは必要でなかったというべきである。しかしながら、被告が原告らを雇止めするに当たって、財政上の理由からして非常勤講師の人件費をどれだけ削る必要があるか等についておよそ検討したとは認められないことからすれば、被告が。非常勤講師の大量雇止め以外に財政状況改善手段を検討したという事情は認められない。またその他原告らの雇止めに際し、何らかの回避措置がとられたことを認めるに足りる証拠はない。以上からすれば、被告において、何らかの雇止め回避の努力をしたとは到底認められない。
原告Aの担当教科は理科であり、被告高校において非常勤講師の授業持ち時数が減少した科目が理科であることからすれば、理科の非常勤講師を雇止めの対象とすることは通常といえるから、被雇止者選定の合理性が認められる。また原告Bの担当教科は数学であり、被告高校において非常勤講師の授業持ち時数が減少した科目が数学であることからすれば、数学の非常勤講師を雇止めの対象とすることは通常といえるから、被雇止者選定の合理性が認められる。
被告は、原告らから要求されて平成19年3月2日に解雇理由証明書を交付する以前に、原告らに対し、雇止めに関して何らの協議・説明をしなかった。またその後も原告らは校長に対し、解雇理由の説明を求めるために面会を求めたものの、取り合ってもらえなかった。なお、解雇理由証明書には、雇入通知書の契約更新に関する事項の「更新しない場合:専任教員の持ち時間数を超える授業時間がない場合」によるという簡略な記載があるのみであった。以上からすれば、被告の原告らに対する事前・事後の協議・説明は不十分極まりないものであったといわざるを得ない。
以上のとおり、本件においては、人員削減の必要性は認められず、雇止め回避努力も何らなされておらず、事前・事後の協議・説明も不十分であることからすれば、原告らの雇止めについては、被告に相当程度の裁量があることを最大限考慮しても、それまで雇用していた原告らを雇止めにする必要がないのに、原告らに対して恣意的に雇用契約を終了させようとしたと認めるのが相当である。よって、原告らの雇止めには「社会通念上相当とされる客観的合理的な理由」がなかったと解され、原告らの雇止めはいずれも、解雇権濫用法理の類推適用により無効というべきである。
当裁判所としては、原告らが主張するとおり、平成18年度の雇用契約と同内容の雇用契約が、いずれも平成19年度以降も継続されるものと認めるのが相当であると解する。 - 適用法規・条文
- 労働契約法16条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1020号14頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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