判例データベース
S社派遣労働者解雇事件(派遣)
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- S社派遣労働者解雇事件(派遣)
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成21年(ワ)第3157号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社A、株式会社B - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年01月26日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告Bは人材派遣事業、人材紹介事業等を業とする会社、被告Aは建築工事の請負及び施工等を業とする会社であり、原告は被告Bに派遣登録をし、平成16年12月9日から被告Aの本件センターに派遣されて就労を開始した者である。本件派遣労働契約は、3ヶ月毎に15回、平成20年8月31日まで、約3年8ヶ月にわたって更新された。
被告Aは、いわゆる3年ルール(派遣期間のない政令26業務であっても派遣期間を原則3年とするルール)と内部監査の結果等を踏まえて、平成20年7月初め頃、被告Bに対し、原告を同年9月1日以降更新しない旨連絡した。同年7月4日、被告Bの担当者Hが本件センターを訪れた際、本件センター所長DはHに対し、一旦本件労働者派遣契約を終了させ、3ヶ月のクーリング期間を置いて12月から再度原告を受け入れたいとし、その希望を原告に伝えている旨伝えたところ、Hは仮に被告らの間で再度労働者派遣契約を締結したとしても、誰を派遣するかは派遣先の被告Aが決めることではないから今後原告に言わないよう注意をした。また同日、Hは原告に会い、同年8月末で被告Aでの就労が終了すること、今後の被告Aでの再勤務については約束できないことを告げたところ、原告はHに対し、できるだけ間を空けずに仕事に就きたい旨希望を述べ、Hは別の派遣の仕事があれば紹介すると告げた。同年8月31日付で原告と被告Bとの間の派遣労働契約及び被告ら間の本件労働者派遣契約が終了したが、同年10月3日、Hは原告に対し被告Aとの再契約はないこと、希望があれば被告A以外での仕事を紹介する旨連絡した。
翌4日、原告はD所長に電話したところ、同所長は、1)派遣労働者を3年雇用した後、3ヶ月空けて職場復帰させることは違法ではないが問題があり、本社から止められたこと、2)最近社内で原告の職場復帰が問題といわれていること、3)口約束の時点では、原告に再び働いてもらえると思っていたこと、4)再度就労ができなくなったことは状況が変わったことによるものであること、5)慣れている人に来て欲しかったので残念であること等述べた。被告Bは、同年8月21日以降、原告に対し新たな派遣先の紹介を開始したが、原告は被告Aへの復帰の話があったことから短期の派遣を希望したため、被告Bの紹介による派遣は適わなかった。
原告は、被告らが労働者派遣法40条の2(就労期間)を潜脱する目的で原告の業務を政令26業務に該当するという偽装派遣によって被告Aの下で長期間にわたって原告に対し違法に就労させながら、全く正当な理由なく原告に係る労働者派遣契約を打ち切ったなどして、平成21年1月20日、大阪労働局に対し、被告Aの下で従事していた業務が偽装派遣であるなどとして、これについて是正申告を行い、同労働局は被告らに対し違法状態を是正するよう指導した。原告は、被告らの違法行為の結果雇用の場を侵害されたこと、被告Bには労働者派遣法上の雇用主としての実態がないことなどを主張して、原告と被告Aとの間には実質的に労働契約が成立しているとして、被告Aに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と解雇後の賃金の支払を請求するとともに、被告ら各自に対し慰謝料100万円の支払を請求した。 - 主文
- 1 被告積水ハウス株式会社は、原告に対し、金30万円及びこれに対する平成20年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、次のとおりとする。
(1)原告と被告積水ハウス株式会社との間において生じた費用のうち、原告に生じた費用の10分の1を被告積水ハウス株式会社の負担とし、その余を原告の負担とする。
(2)原告と被告リクルートスタッフイングとの間において生じた費用は、すべて原告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 原告と被告Aとの間の黙示の労働契約の成否
(1)被告Aにおける原告の業務内容が政令26業務に該当するか
原告は、被告Aにおける業務が政令26号の業務のうち5号及び8号の各業務に該当せず、電話応対業務が主な業務であった旨供述する。確かに原告は、顧客に電話応対する等の業務に従事していたが、同業務の割合が顧客のデータ管理業務のうちどの程度であったか、その程度を的確に認めるに足る証拠はなく、かえって原告が就労していた電話応対業務は、1)顧客からの修理受付・手配、2)アフターサービス依頼受付書出力、3)電話応対、4)掃除用具発注・発送の各業務から構成されていたところ、同業務は特定の者に偏ることのないよう、在室する誰もが電話応対するよう取り決めをしたりして適切に分担されていたことがある。以上の事実に、被告Aは被告Bから派遣労働者を受け入れるに当たって、パソコン操作に長けた人と要望していたことを総合すると、原告が従事していた電話応対業務の多くはパソコンを使用した顧客管理業務に付随して行われたことが推認され、同業務を除いた電話応対業務はそれほど大きな割合を占めていたとまでは認められない。また、大阪労働局の被告らへの是正指導は必ずしも原告が被告Aで従事した業務を前提としてなされたとまで認められない以上、同是正当時の被告ら間の派遣労働者が被告Aで従事していた業務と原告が従事していた業務とは必ずしも一致していなことなどの事実を踏まえると、同労働局の是正指導の内容は上記原告の業務内容の認定を左右するものではない。原告は、従事していた業務について、パソコンを使用してプログラミング等のように専門・高度な技術を必要とする業務ではないため政令5号業務には当たらないと主張するが、主としてパソコン操作がその業務となっている場合について政令5号業務から外れるとまで解することはできないから、原告の主張は採用できない。そうすると、原告が被告Aの下で従事していた業務は「電子計算機、タイプライター、テレックス、又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務及びその過程において一体的に行われる準備及び整備の業務」(政令5号業務)ないしそれに付随する業務であり、それ以外の業務の割合が就業時間数の1割に満たない程度のものであったと推認される。したがって、原告の従事していた業務が政令26業務(政令5号)に当たらない旨の主張は理由がない。
(2)黙示の労働契約の成否
被告らが、原告の労働者派遣について、労働者派遣法26条1項に違反していたとはいえないが、仮に原告が従事していた業務が政令26業務に該当せず、また派遣期間の制限違反等の労働者派遣法違反の事実があったとしても、同法の趣旨及びその取締法規としての性質、更には派遣労働者を保護する必要性等を踏まえると、特段の事情のない限り、そのことだけで派遣労働者と派遣元との間の労働契約が、また派遣元と派遣先との労働者派遣契約が直ちに無効となるものではないというべきである。
派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否を判断するに当たっては、派遣元(被告B)に企業としての独自牲があるか、派遣労働者と派遣先との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうか等を総合的に判断して決するのが相当である。確かに原告は、被告Aの下での業務の遂行に当たって、同被告の担当者から指揮監督を受けていたが、1)被告らの間に資本関係、人的関係は一切なく、被告Bは独立の法人格を有する株式会社であって、被告A以外の会社にも労働者を派遣していること、2)原告は被告Bに派遣労働者として登録していること、3)原告が被告Aで働き始める際に被告Bから交付を受けたJobCardには派遣労働者であることが明示されていたこと、4)原告の賃金については被告Bが独自に決定し、原告は被告Bから賃金を受領していたこと、5)原告は本件派遣労働契約を締結するに当たって、1度は了解したものの、その後正社員として働きたいとして同契約締結を断ろうとしたこと、6)被告Bは、原告の派遣就労に関し、派遣先管理票による出退勤等の管理を行っていたこと、7)被告Bは原告に対し、本件派遣労働契約時ないしその更新時ごとに、派遣先会社、派遣期間等が記載されたJobCardを交付していたこと、8)原告と被告Bとの間で本件派遣労働契約が締結され、被告らの間で本件労働者派遣契約が締結されていることがある。以上の事実を踏まえると、原告と被告Aとの間に黙示の労働契約が成立しているとは認められず、かえって、原告は被告Bとの間の本件派遣労働契約、被告らの間の本件労働者派遣契約に基づいて被告Bから被告Aに派遣された派遣労働者であることが推認される。
原告は、原告と被告Bとの間の本件派遣労働契約及び被告ら間の本件労働者派遣契約が労働者派遣法に違反していることからして、被告Aが適法な指揮命令権限の授権を受けていないといえるから、かかる場合の被告Aの原告に対する指揮命令は、原告と被告Aとの労働契約を基礎付けるものと主張する。しかし、仮に原告が主張するように、原告の被告Aへの派遣について、取締法規である労働者派遣法に違反する事実があったとしても、そのことをもって直ちに同事実が原告と被告Aとの間も労働契約関係を基礎付ける事実になるものではない。そうすると、原告と被告Bとの間の派遣労働契約、被告らの間の労働者派遣契約がいずれも無効と認めるに足りる特段の事情があるとは言い難く、ひいては原告と被告Aとの間で黙示の労働契約が成立していたとも認められない。
2 被告らの原告に対する不法行為の成否並びに損害の有無及びその額について
1)原告が被告Aの下で従事していた業務は、政令26業務のうち、政令5号業務ないし同業務の附帯業務に該当すること、2)被告Bは、原告の被告Aへの派遣について、労務管理や契約更新手続きを適切に行っていたと認められること、3)原告と被告Bの本件派遣労働契約及び被告ら間の本件労働者派遣契約はいずれも有効である一方、原告と被告Aとの間に黙示の労働契約が成立しているとは認め難く、同被告が被告Bとの本件労働者派遣契約を終了したこと自体、解雇あるいは雇止めには該当しないことが認められ、以上の事実を踏まえると、被告らの行為が違法であると主張する部分(直接雇用義務違反行為)は、いずれも理由がないといわざるを得ない。
原告は、本件センターのD所長が、原告に対し、派遣就労が平成20年8月31日に終了するものの、その後3ヶ月間を置いて職場復帰させると約束したにもかかわらず、12月以降の原告の就労を拒否することをもって違法行為であると主張する。D所長は、1)平成20年4月28日、Hに対し、一旦派遣契約を終了した3ヶ月後に再開することが可能かどうか確認していること、2)Hは、D所長から一旦労働者派遣契約を終了するが、3ヶ月後から再度派遣を望んでおり、その希望を原告に伝えてある旨の説明を受けたこと、そして、仮に再度労働者派遣契約が被告ら間で締結されたとしても、誰を派遣するかは被告Aの決めることではなく、今後そのようなことを原告に言わないよう伝えたこと、3)D所長は原告に対し、3ヶ月後の復帰ができなくなった旨説明していること、4)D所長は本件労働者派遣契約の契約者になっていること、5)原告は本件労働者派遣契約に当たって、本件センターに私物を置いたままにし、かつ本件センターで着用していた制服を自宅に持ち帰っていることがある。以上の事実を踏まえると、D所長は本件センターの人事に関して一定の権限があったことが強く窺われ、少なくともD所長は、原告に対し、一旦派遣契約は終了するものの、3ヶ月後に再び派遣労働者として就労することができるとの話をして、原告もそれに期待していたことが推認される。以上の事実を踏まえると、原告の同復職就労に対する期待は、法的保護に値するものと解するのが相当である。
なお、被告Bに関していえば、1)HはD所長に対し、平成20年12月から再度労働者派遣契約が締結されても誰を派遣するかは被告Aが決めることではなく、今後原告に期待を持たせるようなことを言わないよう伝えたこと、2)被告Bは原告に対し、本件派遣労働契約終了後、他の派遣先企業を紹介していること、3)原告と被告Bとの間において平成20年12月から改めて原告を被告Aに派遣する旨の合意があったことを認めるに足りる的確な証拠を見出し難いことがあり、以上の事実を踏まえると、被告Bには原告が有した上記期待について、それを侵害する違法行為があったとは評価できない。
D所長は、その言動を通して原告に対し、派遣就労終了後3ヶ月を置いて再度就労できるという期待を持たせたにもかかわらず、これらを侵害した違法行為がある。また、原告とD所長との再就労に向けた話合いの経緯及びその内容、同行為によって、少なくとも派遣就労が終了した平成20年8月31日から、D所長から再度就労させることができなくなった旨告げられた同年10月4日までの間、原告の就職活動が事実上妨げられたこと、他方原告は、平成20年8月以降も被告Bを通じて派遣労働に係るエントリーをしていたこと等、本件に顕れた諸般の事情を総合的に斟酌すると、原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては30万円が相当である。 - 適用法規・条文
- 民法709条、労働者派遣法26条1項、31条、34条、35条の2、40条の2、職業安定法44条、労働基準法6条
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2098号3頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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