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C銀行賃金切下事件
- 事件の分類
- 賃金・昇格
- 事件名
- C銀行賃金切下事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成3年(ワ)第6873号
- 当事者
- 原告 個人46名
被告 銀行 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1994年09月14日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 被告は、米国法により設立された銀行であり、世界各国に支店を有し、日本では東京及び大阪に支店を開設している。原告らはいずれも被告に雇用される従業員である。
昭和60年代以降、銀行業務を巡る環境が極めて厳しくなり、被告の業績は著しく悪化したことから、被告は本件合理化の一環として経費削減のため、三組合がいずれも絶対反対を唱える中、各原告らの同意を得ることなく、賃金を一方的に平均30%減額して支給した(本件賃金調整)。
原告らは、就業規則には賃金減額に関する規定はないこと、仮に被告が就業規則に賃金減額を規定しても、それは労基法1条2項に反し効力を有しないこと、本件賃金調整が整理解雇を回避するための措置であったとしても、各原告の個別の同意がないから、一方的に賃金を減額することはできないことを主張し、減額分の賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 被告は各原告に対し、別紙(一)債権者目録記載の各金員及びこのうち別表整理番号1ないし46各記載の各「請求金額」欄の金員に対するこれに対応した各「支給年月日」欄の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 別紙(仁)定年表記載の各原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、各原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件賃金調整の有効性について
被告の業績悪化に対応するための本件合理化は、被告の経営方針として被告が自主的に決定し、実施すべき事柄である。しかしながら、本件合理化の一環としての本件賃金調整は、各原告の賃金を被告において各原告の同意を得ることなく一方的に減額して支給するという措置を実施するものであって、各原告の賃金基準は原告ら所属の労働組合との間の労働協約によって定まっていたというのであるから、この内容は各原告との間の労働契約内容となっていたといえる。ところで、労働契約において賃金は最も重要な労働条件としての契約要素であることはいうまでもなく、これを従業員の同意を得ることなく一方的に変更することはできないというべきであって、この意味において、本件賃金調整は何らの効力をも有しないというべきである。
被告は、本件賃金調整は原告らの相当数の者が対象となった犠牲の大きい整理解雇を回避するためのやむを得ない措置である旨主張する。しかしながら、被告は本件合理化の一環として整理解雇を選択することなく、本件賃金調整という措置を選択したのであるから、この措置の有効性のみが問題となるのであって、整理解雇という措置がなされていないのに、これとの対比で本件賃金調整が原告らにとって犠牲が少ない措置であるということもできない。したがって、この点に関する被告の主張も採用できない。
更に被告は、使用者は企業再建のため整理解雇をなすことが認められているから、これを回避するための本件賃金調整措置は就業規則に明文の規定がなくとも否定されない旨主張する。なるほど、使用者は解雇権の濫用にわたらない限り労働者を解雇することができるが、このことと本件賃金調整とは、その趣旨、要件、効果が全く異なり、これを単純に比較して、前者が認められるから後者も認められるべきであるとすることには論理の飛躍があって、到底肯認することができない。ましてや本件賃金調整は、労働契約内容の賃金という重要な要素を各原告の同意を得ることなく一方的に変更するのであるから、明確な根拠を有しなければならず、使用者は労働者を解雇する権利を有することをもってこの根拠とすることはできない。したがって、この点に関する被告の主張も採用できない。
最後に被告は、原告ら所属の三組合は本件賃金調整に非協力的であったから、各原告の本訴請求は権利の濫用である旨主張する。しかしながら、原告ら所属の三組合が本件賃金調整に対しいかなる対応をするかは当該組合の自主的に判断されるべき事柄であって、組合の対応が非協力的であったとか、解雇に反対していたとかをもって非難することはできない。ましてや本件賃金調整は、そもそも各原告が自主的に判断決定すべき事柄であって、これに対し組合がいかなる対応をしたかは関係のない事柄である。したがって、この点に関する被告の主張も採用できない。
2 各原告の請求額について (略) - 適用法規・条文
- 労働基準法1条2項
労働判例656号17頁 - 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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