判例データベース
放送局ラジオ番組ディレタ−名誉毀損等事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 職場でのいじめ・嫌がらせ
- 事件名
- 放送局ラジオ番組ディレタ−名誉毀損等事件(パワハラ)
- 事件番号
- 名古屋地裁 - 平成13年(ワ)第1999号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年12月27日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却
- 事件の概要
- 被告は放送会社A社の放送部長であり、A社は平成12年4月からC社に対し番組制作の依頼をしていた。C社は原告をディレタ−として起用し、音楽番組を制作してA社に提供していた。
被告は、番組制作会社E社の代表取締役Fから、原告がレコード会社から金品を受け取っているとの噂があると聞かされ、他社の幹部からも原告に関する悪評を聞かされた。A社は平成12年10月にC社と番組に関する6ヶ月契約を更新したが、平成13年4月からの新年度の番組編成に当たり、C社から他社に変更することを決定し、平成13年1月16日頃、C社の代表取締役Bに対して、本件番組の時間帯を変更し、C社を担当から外すこと、C社には別の時間帯の番組制作を依頼する予定である旨告げた。そして、その理由についてのBの質問に対し、原告がレコード会社から金品等を貰っている噂があり、そういう噂のある人間を使うのは問題であると答えた。Bは同月22日頃原告に真偽を確認したところ、原告はこれを強く否定したが、C社の役員会において徹底した調査を行うべきとの結論となり、Bが改めて被告に真偽を確認したところ、証拠はあるが言えないとの回答であった。C社は同年4月から割り当てられた時間帯に新番組を制作することになったが、原告の起用を断念し、原告はその後、各番組制作会社に起用をお願いしたが、アルバイト的な仕事しか与えられなかった。
原告は、被告が、原告が金品を受け取っているとの噂を軽率に信じ、噂を真実であるかのように伝えたものであるから、不法行為に当たるとして、本件不法行為によって失った本件番組又はこれに代わる番組に関する委託料月額32万円の1年分、他の番組に関する委託料月額24万円の1年分、慰謝料200万円及び弁護士費用90万円、合計962万円を被告に請求した。 - 主文
- 1 被告は原告に対し、500万円及びこれに対する平成13年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件言動の違法性
Bの供述は、その内容が明確であり、供述態度も真摯であって、同人は原告についての噂が真実か単なる噂に過ぎないのかを確認するという目的をもって被告に面談したのであるから、記憶違いが生じる虞れはほとんどないと考えられる。また、同人が虚偽の供述をする可能性についても、C社と被告との利害関係からして考え難い。すなわち、番組制作会社の立場から見れば、番組編成の原案を作成して取締役会に諮る権限を有している者は、少なくとも主観的には、力関係において上位であると認識していたことは疑いを差し挟む余地はなく、かような上位者に関する不利益な事実についての供述は高度の信用性を有すると認められる。
被告は、原告との個人的な付き合いがほとんどなく、上記のような言動を採る合理的根拠はないと主張するところ、原告・被告間に個人的な付き合いがほとんどないことはこれを認めることができる。しかし、被告がC社の番組降板の話と同じ機会に原告の話を持ち出したこともあって、原告の話がC社の取締役会で協議されることになってしまったために、単なる噂話でしたとは言いづらくなり、かような言動に及んでしまったことは人間の自尊心のありようを考えると十分に了解が可能である。
被告が、番組制作会社の代表取締役Bに対して、原告がレコード会社から金品を受け取っているという虚偽の噂を単なる噂としてでなく、あたかもそれが事実であるかのように、しかも相当な根拠に基づかずに告げた被告の言動は、違法性があると認められる。
2 本件言動と原告が仕事を失ったこととの因果関係、損害額
原告が本件番組の制作を外れたのは、本件番組の制作をC社から別会社に変更した結果に過ぎず、同変更について原告のことは理由になっていないと認められるから、被告の言動(本件不法行為)と原告が本件番組を外れたこととの間には因果関係がない。したがって、本件番組にかかる原告への委託料月額32万円の喪失を本件不法行為と因果関係がある原告の逸失利益と認めることはできない。しかし、C社は本件不法行為がなかったとしたら本件番組の代わりに割り当てられた時間枠における新番組で原告をディレクターとして起用していたと認められるから、同番組における委託料の喪失と本件不法行為との間の相当因果関係はこれを肯定することができる。新番組における原告への委託料は、時間枠が3時間に過ぎないものの、早朝の時間帯であることを考え併せ、控え目に見ても月額20万円程度に達すると認められ、ラジオ番組は毎年4月から新編成になることからして、逸失利益の算定期間は1年とするのが相当であるから、番組にかかる委託料についての原告の逸失利益は240万円と認める。
本件不法行為は、特定の人物にされた言動であるから伝播性は大きくないものの、その内容は番組制作スタッフとしては今後の仕事を継続する上で致命的ともなりかねない性質のものであること、原告は実際に経済的不利益を被っていること、伝播性が小さい点も名古屋の放送業界自体が狭いことからすると必ずしもこれを軽視すべきでないこと等の諸要素を総合考慮し、200万円をもって慰謝するのが相当である。また、本件不法行為と相当因果関係があるとして被告が負担すべき弁護士費用は60万円と認める。 - 適用法規・条文
- 民法709条、723条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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