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学校法人M学園校務外し・低査定等事件(パワハラ)

事件の分類
職場でのいじめ・嫌がらせ
事件名
学校法人M学園校務外し・低査定等事件(パワハラ)
事件番号
岡山地裁 - 平成19年(ワ)第1408号
当事者
原告 個人2名 甲、乙
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年03月30日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は被告高校を設置する学校法人であり、原告甲(昭和24年生)は昭和51年4月から被告高校に勤務している体育教諭、原告乙(昭和26年生)は昭和50年4月から被告高校に勤務している社会科の教諭であり、それぞれ組合の執行委員長、書記長を務めている者である。

 平成12年4月に制定された被告の給与規定では、岡山県の例を参考にして理事長がこれを定めるとの規定が置かれ、一律に支給されていたが、平成14年8月、被告は人事考課に基づき支給率をA、B、Cの3ランクに分け、原告らをいずれもCランク(1.5ヶ月分)と査定して賞与を支給した。被告は平成15年4月に給与規定を改正し、「岡山県の例を参考とし」の文言を削除し、同年6月期以降は賞与の支給率をS、A、B、Cの4ランク制とし、原告らをいずれもCランク(1.0ヶ月分)と査定して賞与を支給した。その後、S、A+、A、B、Cの5ランク制となったが、原告らはいずれも最下位のCランクと査定され、基本給の1.0ないし0.8ヶ月分を支給された。それが、平成18年6月期及び12月期には、原告らはBランクに査定され、基本給の1.2ないし1.3ヶ月分の賞与を支給された。

 また、平成元年度から15年度にかけては、原告甲は週14〜21時間、原告乙は週18〜22時間の授業を担当する外、学級担任や部活動顧問等種々の校務分掌が割り当てられていたが、平成14年度から18年度前期にあっては原告らへの校務分掌が割り当てられず、更に平成16年度から18年度前期の期間にあっては、授業の持ち時間数が、原告甲にあっては週4〜5時間、原告乙にあっては週3〜8時間に削減された。
 原告らは、被告は長期間にわたって公立校に準拠した賞与支給の運用を行い、これが労使慣行として定着していたところ、一方的に公立に比べて不利益に変更したことは、原告ら教職員に一方的に不利益を強いるものであって違法であること、校務分掌外しは、原告らの組合活動を理由とする不当労働行為であること、被告の指摘する違法な組合活動や劣悪な勤務態度もなかったこと等を主張し、不法な校務分掌外しなどのよる精神的苦痛に対する慰謝料を各300万円、不法な賞与査定よる損害を、原告甲につき393万2565円、原告乙につき396万5430円を請求した。
主文
1 被告は、原告甲に対し、213万7120円及びこれに対する平成19年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は、原告乙に対し、215万1140円及びこれに対する平成19年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 原告らのその余の各請求はいずれも棄却する。

4 訴訟費用はこれを3分し、その2を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、1、2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 賞与支給体系変更の不法行為性について

 平成12年4月改正前及び平成15年4月改正前の給与規定は、いずれも岡山県の例を参考にして理事長がこれを定めると定めているが、この規定をもって、直ちに被告高校教職員の賞与支給体系が岡山県の例に準拠しなければならないとの趣旨と解することは困難であり、むしろ理事長には相当の裁量の余地を残した規定と解するのが相当である。他方、労使慣行が労働契約の内容となるためには、労働者のみならず、使用者もまた当該労使慣行を規範として意識し、これに従う意思があることを黙示的に又は事実たる慣習として受容していたことが必要と解するのが相当であるが、被告にそこまでの意識ないし意思があったと認めることは困難であるし、原告から提出された資料上も被告ないし被告高校にその旨の意識ないし意思があったことを窺わせるに足りる証拠はない。

 以上によれば、各改正前の給与規定の定めは、公立準拠の賞与の支給を定めたものとは解されないし、平成12年6月期までの被告高校教職員の賞与が公立高校教職員のそれに準じていた事実があるとしても、これをもって原告と被告の労働契約において、その旨が契約の内容になっていたということもできない。次に給与規定の各改正は、公立準拠の点のほか、被告高校教職員の賞与支給体系が一律制から査定制に変わった点も問題となるが、これについても、原告らと被告の労働契約において、一律制が契約の内容になっていたということはできない。

 そうすると、原告らと被告の労働契約においては、公立準拠の点についても、一律制の点についてもともに契約の内容となっておらず、原告らが被告に対し、各期の賞与につき、公立高校教職員のそれに準じた賞与を請求し、あるいは被告高校教職員として一律の賞与を請求する権利又は法律上の利益を有していたということはできないから、被告が上記給与規定の各改正によって公立準拠及び一律制の給与支給体系を変更したことが不法行為を構成するということはできない。

2 校務分掌外し等の不法行為性及び賞与査定の不法行為性について 

原告甲の校務分掌は、平成14年度から平成18年度前期までなく、授業の持ち時間も、平成16年度から平成18年度前期まで週4、5時間であったこと、原告乙の校務分掌は、平成10年度から平成12年度前期と平成14年度から平成18年度前期までなく、授業の持ち時間も、平成16年度から平成18年度前期まで週3ないし8時間であったというのであり、このような校務分掌のあり方や授業の持ち時間数は、少なくとも平成11年度までの原告のそれに比して極端な対照をなしているということができる。他方、原告甲は昭和60年以来組合の委員長を務め、原告乙は昭和62年以来書記長を務め、いずれも組合中心的活動家として組合運動に従事してきた。

 原告乙の校務分掌がなくなった平成10年度には、教諭に対する退職強要等が起こったことから、組合では原告乙を中心に、その不当性を訴えた経緯があり、その後理事長の通勤手当不正受給疑惑に関する戒告処分が不当労働行為であるとして、原告らが地労委に救済の申立を行い、和解協定が成立したものの、私教連も巻き込んだ対立が続く中、原告甲は平成13年7月5日付けで県知事に対し、理事長の上記疑惑に係る申入れを行い、被告に対して質問書を送付するなどして紛争が激化し、平成14年度には原告ら両名とも完全に校務分掌から外されるに至ったこと、同年8月6日、被告が原告らに対し1ヶ月の停職処分をしたため、その後原告らから同処分無効確認訴訟が提起され、原告ら勝訴で確定したこと、他方、平成16年1月、D教諭がセクハラ等を理由に5ヶ月間の停職処分を受けて組合がその支援をし、その無効確認訴訟もD教諭勝訴で確認したこと、その後、被告が唯一勝訴した原告らの停職処分無効確認訴訟に係る平成16年3月18日地裁判決が言い渡された後、被告は同年度の原告らの授業の持ち時間につき、原告甲については20時間から5時間へと、原告乙については22時間から3時間へと大幅に減らしたが、これら訴訟がいずれも被告敗訴に終わった後の平成18年度後期以降、原告らに対する校務分掌が再開され、授業の持ち時間も従前に復するようになったこと、以上の事実が認められる。そうすると、原告らの校務分掌、席の割当て及び授業の持ち時間は、いずれも原告らないし組合の活動と被告との紛争の激化と沈静化に即応していることは明らかであり、原告らの勤務実態とその組合活動との間には相関性があるといわざるを得ないし、加えて理事長自身、平成13年の組合による組合活動が違法不当であると考え、原告らを校務分掌から外した旨を供述していることをも併せ考えれば、原告乙に対する平成10年度、11年度の校務分掌外し等と原告ら両名に対する平成14年度以降の校務分掌外し等は、いずれも被告が原告らの組合活動を嫌悪してした不利益取扱いであり、不当労働行為が強く推認されるというべきである。

 原告らの賞与に関する各期の査定は、人事考課が実施された平成12年12月期、平成14年12月期から平成17年12月期まで一貫して最低のCランクに査定されていたが、原告らに対する停職処分無効確認訴訟が最終的に原告ら勝訴で確定した後の平成18年6月期以降、Bランクに査定された。また上記各期の賞与に関する査定において、原告らを含む組合員が極端に集中して低ランクに位置付けられていることや、組合への加入が低ランクの査定と連動していることが認められる。これらの諸事情等を総合考慮すれば、原告らに対する上記査定もまた被告が原告らの組合活動を嫌悪してした不利益取扱であり、不当労働行為であったことが強く推認されるというべきである。

 被告は原告らの違法な組合活動を低評価の一事由と主張するが、原告らの組合活動を違法ということはできない。被告は、定時出勤にこだわる原告らの態度を問題にするが、サービス残業があってはならないことは自明であるから、被告の主張は理由がない。被告は、原告らが被告高校の業務や施策に積極的に協力しなかったなどとも主張するが、原告らが組合員としてその利益を擁護することは正当な組合活動であり、その一環として、授業の担当時間の削減や校務分掌の軽減を繰り返し主張したり、被告高校の業務等に積極的に協力しなかったとしても、それだけでは原告らに対する職務上の低評価の理由とはなり得ない。原告甲が体育の授業後全員を正座させて生徒から反発されたが、原告甲は正座させたことを認めた上で、今後の生徒指導の際には十分考えて対処すると約束したに留まるし、授業時間に遅れることがしばしばあったとして提出されたのは2日間の各1時間だけであって、僅か1、2日の出来事をもって、原告甲に対する職務上の低評価を基礎付けるには足りない。また、原告甲が勤務時間中にパソコン入力で時間を潰していた点についても、純然たる組合活動関係等に係る入力については、原告甲の職務専念義務違反は否定できないが、これらはさほど多くはないし、しかも原告甲と他の教諭とを客観的に比較した証拠が全く提出されていないことを考慮すると、原告甲に対する職務上の低評価を基礎付けるには足りない。次に被告は、原告乙の授業進行の遅れが目立つとか、教室における指導力や意欲を欠いていたなどと主張するが、原告乙と他の教諭とを客観的に比較する等した証拠はないから、上記事実があったからといって、原告乙に対する職務上の低評価を基礎付けるには足りない。

 以上の次第であり、被告の主張は、いずれも断片的な事実に基づくか、客観的に原告らの低評価を基礎付ける資料のない主張に過ぎず、被告による校務分掌外し等や賞与の査定が不当労働行為であるとの前記推定を覆すには足りない。そうすると、被告が原告らに対し、前記のとおりの校務分掌外し等をしたことや各期の賞与の査定は不当労働行為であり、被告によるこれらの行為は、いずれも不法行為を構成するというべきである。

3 損害額

 校務分掌外し等による慰謝料は、各100万円と認めるのが相当である。
 原告らについては、各期ともいずれも少なくともBランクの査定を受けることができたにもかかわらず、不当にCランクの査定を受け、その差額相当の損害を受けたと認めるのが相当である。そうすると、原告甲の慰謝料と財産的損害の合計額は213万7120円であり、原告乙のそれは215万1140円となる。
適用法規・条文
労働基準法115条、民法709条、724条
労働判例1028号43頁
収録文献(出典)
その他特記事項
本件は控訴された。