判例データベース
学校法人M学園校務外し・低査定等控訴事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 職場でのいじめ・嫌がらせ
- 事件名
- 学校法人M学園校務外し・低査定等控訴事件(パワハラ)
- 事件番号
- 広島高裁岡山支部 - 平成22年(ネ)第132号、広島高裁岡山支部 - 平成22年(ネ)第199号
- 当事者
- 控訴人兼附帯被控訴人(控訴人) 学校法人
被控訴人兼附帯控訴人(被控訴人) 個人2名 甲。乙 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年03月10日
- 判決決定区分
- 原判決変更(一部認容・一部棄却)
附帯控訴 棄却 - 事件の概要
- 控訴人兼附帯被控訴人(控訴人・第1審被告)は控訴人高校を設置する学校法人であり、被控訴人兼附帯控訴人(被控訴人・第1審原告)甲及び同乙は控訴人高校に勤務している教諭であり、それぞれ組合の執行委員長、書記長を務めている者である。
平成12年4月に制定された控訴人の給与規定では、岡山県の例を参考に一律に支給されていたが、平成14年8月、控訴人は人事考課に基づき支給率をA、B、Cの3ランクに分け、被控訴人らをいずれもCランク(1.5ヶ月分)と査定し、賞与を支給した。控訴人は平成15年4月に給与規定を改正し、同年6月期以降は賞与の支給率をS、A、B、Cの4ランク制とし、被控訴人らをいずれもCランク(1.0ヶ月分)と査定して賞与を支給した。その後、S、A+、A、B、Cの5ランク制となったが、被控訴人らはいずれも最下位のCランクと査定され、基本給の1.0ないし0.8ヶ月分を支給された。
また、平成元年度から15年度にかけては、被控訴人甲は週14〜21時間、同乙は週18〜22時間の授業を担当する外、種々の校務分掌が割り当てられていたが、平成14年度から18年度前期にあっては被控訴人らへの校務分掌が割り当てられず、更に平成16年度から18年度前期の期間にあっては、授業の持ち時間数が、被控訴人甲にあっては週4〜5時間、同乙にあっては週3〜8時間に削減された。
被控訴人らは、控訴人高校では長期間にわたって公立校に準拠した賞与支給の運用が労使慣行として定着していたところ、一方的に不利益に変更したことは、教職員に不利益を強いるものであって違法であること、校務分掌外しは、被控訴人らの組合活動を理由とする不当労働行為であること、控訴人の指摘する違法な組合活動や劣悪な勤務態度もなかったこと等を主張し、不法な校務分掌外しなどのよる精神的苦痛に対する慰謝料を各300万円、不法な賞与査定よる損害を、被控訴人甲につき393万2565円、同乙につき396万5430円を請求した。
第1審では、控訴人による被控訴人の校務分掌外し、授業時間の削減、賞与の低査定は、いずれも不当労働行為に当たり不法行為を構成するとして、被控訴人らに慰謝料及び賞与査定の損害額の支払いを命じたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 控訴人の控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は、被控訴人甲に対し、184万1460円及びこれに対する平成19年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人は、被控訴人乙に対し、184万7830円及びこれに対する平成19年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
5 被控訴人らの附帯控訴を棄却する。
6 訴訟費用は、1、2審を通じてこれを4分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 賞与支給体系変更の不法行為性について
当裁判所も、賞与体系の変更は不法行為を構成しないものと判断する。
2 校務分掌外し等の不法行為性及び賞与査定の不法行為性について
被控訴人乙に対する平成10年度、平成11年度の校務分掌外し等と被控訴人ら両名に対する平成14年度以降の校務分掌外し等は、いずれも控訴人が被控訴人らの組合活動を嫌悪してした不利益取扱いであり、不当労働行為であったことが強く推認されるというべきである。控訴人は、労働者には就労請求権がないし、授業の持ち時間数の削減のことで、労働の軽減になりこそすれ、負担が増加することはないから、学校側が校務分掌や授業の持ち時間を与えずとも不法行為は成立しないと主張するが、教員にとって、相当の授業持ち時間や校務分掌を与えられ、これに従事することは、自らの教育に対する技能を維持発展させ、生徒らとの交流を維持することにより、教員生活の充実発展を期することができ、それにより、今後の教員としての地位の維持発展を図ることができるのであり、これらを与えられないことによる不利益は多大なものがあると考えられるから、労働者に就労請求権がなく、労働の軽減をもたらす面があるとしても、組合活動を嫌悪し、その阻害を意図するなどして校務分掌や授業の持ち時間を与えない行為は、当該労働者に対する不利益取扱いに該当するものというべく、不当労働行為と評価されてもやむを得ない。
賞与の査定についてみるに、被控訴人らに対する各査定もまた控訴人が被控訴人らの組合における活動を嫌悪してした不利益取扱であり、不当労働行為であったことが強く推認されるというべきである。控訴人高校の終業時刻は午後5時であったが、同時刻以降も校務分掌を有する教員らの業務があり得ること、入試時期や新入生の入学直後、春秋の行事の頃、8月から9月にかけての進路決定時期には校務が多く、教員らにおいて処理すべき時間外業務が増えるといった状況があるが、被控訴人甲は、午後5時30分以降まで勤務した日は、平成12年4〜12月で11日間、平成14年2月、3月の2ヶ月間で1日、同年8、9、11月ないし平成15年3月までの7ヶ月間で2日、平成15年度1年間では3日、平成16年度1年間では5日、平成17年度1年間では2日という状況であること、被控訴人乙は、同様に、それぞれ3日、0日、0日、2日、3日、2日という状況であること、他の教諭は、午後5時30分までに退勤した日は月に5回程度以内であり、午後6時以降まで仕事をしていた日が多く、午後8時ないし午後10時頃まで仕事をしていた日も少なからずあることが認められる。
時間外勤務がサービス残業であってはならないことは自明であるから、被控訴人両名が時間外勤務をしなかったことをもって直ちに両名の評価を下げる理由とはならないが、控訴人高校の業務には、態様や時期によっては時間外勤務を要するものも相当あるので、定時勤務にこだわる被控訴人両名よりも、必要なときに時間外まで残って仕事をしている他の教員の方が、控訴人への貢献度は高く、被控訴人両名よりも高い評価を受けることはやむを得ない。控訴人高校は、様々な改革を通じて、進学校としての評価を高め、被控訴人甲はその活動に関する自己啓発システム検討委員会の副リーダーになり、被控訴人乙は進路保証検討委員会の委員になるなどし、両名とも上記活動にも携わったが、その一方で、被控訴人らは、変更した法人名について、私物化、無駄となどと述べ、スクールアイデンティティの目的である学校運営の改善や学校の発展自体に反対ではなく、その進め方や理事長の経営姿勢等について批判していることが認められるから、スクールアイデンティティに協力した職員と比較して低い浄化とするのが相当とはいえない。
被控訴人甲は、体育実技の授業開始時刻に遅れて来ることがしばしばあり、生徒を正座させたところ、生徒らから教師を代えるよう要求を受けたことから、今後言動に注意することを約束する事例があった外、サッカーコートのライン引きが遅れ、授業が遅れたことがあった。また、被控訴人甲は、勤務時間中に、パソコンに、割合としては少ないものの、自らないし組合活動関係等の事実及び所感をも入力し、その中には幹部に対する感情的な表現等も記載している。
上記のとおり、被控訴人甲に授業態度として配慮を欠いた言動や怠慢があったこと、純然たる組合活動関係等に係るパソコン入力については職務専念義務違反があること、理事長を嫌って辞職に追い込もうと企てていたことは否定できないが、体育授業の怠慢は授業自体を放棄したものではなく、生徒らの準備状況及び態度にも問題があると窺えること、職務と無関係のパソコン入力はさほど多くはないこと、終業時刻後、業務に携わることがほとんどなかったことに照らすと、被控訴人甲が他の教員と比較して多少低い評価を受ける根拠となる事情がなかったとはいえないものの、最低ランクに固定するほどの評価が正当とはいえないから、控訴人の不当労働行為を正当化するものとはいえない。
被控訴人乙には、授業の進度の遅れが目立ち、生徒から苦情が寄せられたことがあること、終業時刻後業務に携わることがほとんどなく、入試業務の応援もしなかったことに照らすと、被控訴人乙が他の教員と比較して多少低い評価を受ける事情がなかったとはいえないものの、最低ランクに固定するほどの評価が相当とはいえないから、控訴人の不当労働行為を正当化するものとはいえない。以上によれば、控訴人による校務分掌外し、授業の持ち時間数の削減や賞与の査定が不当労働行為であるとの推定を覆すには足りない。
4 損害について
被控訴人らの職務遂行状況及び評価については、最低ランクとするのは相当ではなく、教員としての実績をそれなりに上げているが、同僚の教員と比較すると多少評価が低くなってもやむを得ないと見られる事情が存在することをも考慮すると、被控訴人らについては、各期ともいずれも少なくともBランクの査定を受けることができると認めるのが相当である。そうすると、被控訴人らに支給すべき各期賞与は、被控訴人甲については67万1460円、被控訴人乙については67万7830円、慰謝料は各100万円、弁護士費用は各17万円と認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 労働基準法115条、民法709条、724条
労働判例1028号33頁 - 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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岡山地裁 - 平成19年(ワ)第1408号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2010年03月30日 |
岡山地裁-平成19年(ワ)第1408号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2010年03月30日 |