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K社派遣労働者団体交渉事件(派遣)
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- K社派遣労働者団体交渉事件(派遣)
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成21年(行ウ)第550号
- 当事者
- 原告 株式会社
被告 国
補助参加人 労働組合支部 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年03月17日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 原告は、内燃機関関連機器の製造・販売等を営む株式会社で、補助参加人は、全日本港湾労働組合の地方組織であり、組合員は約700名である。
原告とY商会は、平成18年9月1日に労働者派遣契約を締結し、Y商会はこれまで請負として雇用していた従業員らを派遣に切り替え、引き続きK工場に派遣していた。同年12月22日、原告の関連会社に対する労働局による立入検査が行われ、平成19年1月17日、原告で物の製造に携わっていた派遣労働者に関して、労働者派遣法40条の2第1項の規定に違反しているとして、違反事項に係る労働者派遣の役務の提供を受けることを中止するよう指導を受けた。原告はこれを受けて、同月26日、同年4月1日を目途に物の製造に携わる派遣労働者を直接雇用すること(直雇用化)を決定し、その旨派遣各社に通知するとともに、同年2月16日、本件従業員らを対象に説明会を開催して説明した。原告は契約社員の労働条件について、1)雇用期間は6ヶ月間で、その後最大3回まで更新することがあること、2)就業場所はK工場であること、3)「回答書」及び「同意書」の提出期限は同月28日であることを説明し、同月26日の補助参加人と原告との団体交渉では、補助参加人は交渉議題を、1)契約社員の就業規則、2)有給休暇の引継ぎ、3)平成19年4月以降の賃金、4)契約社員の雇用期間の根拠と契約更新の具体的条件、5)労働協約の締結としたが、原告は4)のみについて団体交渉に応じた。
補助参加人は、直雇用化までの時間がなく性急すぎると主張し、その後3回の団体交渉を申し入れたが、原告は同年4月1日に直雇用化を実現するためには同年3月2日までに労働条件を確定する必要があること、第1回団体交渉において補助参加人の指摘を踏まえて生産手当に冠する労働条件の修正を行っていることを挙げ、3月中の団体交渉に応じなかった。これに対し補助参加人は、直雇用化までの時間的制約は原告が一方的に設定したものであり、それを理由に団体交渉に応じないことは誠実義務に反し、正当な理由なく団体交渉を拒んだものとして、労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するとして、労働委員会に救済申立をした。
大阪地労委は、平成20年10月27日、原告が第1回団体交渉以降、直雇用化実施までの間に団体交渉に応じなかったことは労働組合法7条2号の不当労働行為に当たるとして、原告に対し同団体交渉拒否に係る文書手交を命じたところ、原告はこれを不服として中労委に再審査申立をした。中労委は平成21年9月2日、初審命令は相当であるとして本件再審査申立を棄却(本件命令)したことから、原告は本件命令の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件団体交渉申入れに係る原告の使用者性
不当労働行為規定における「使用者」について、不当労働行為救済制度の目的が、労働者が団体交渉その他の団体行動のために労働組合を組織し運営することを擁護すること及び労働協約の締結を目的とした団体交渉を助成することにあることや、団体労使関係が、労働契約関係又はそれに隣接ないし近似した関係をその基盤として成立する団体労使関係上の一方当事者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的に該当するものの、雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者もまた、これに該当すると解すべきである。
1)クボタ分会の組合員は、いずれも平成18年9月1日の本件派遣契約締結前から長期間にわたり、原告のK工場でY商会の従業員又は派遣労働者として就労していたこと、2)平成19年1月26日、原告は同年4月1日を目途に派遣労働者を直雇用化することを決定した上、K工場で勤務している派遣労働者を派遣している各社に対し直雇用化の予定を通知するなどしたこと、3)同年2月16日の説明会において、原告は本件従業員らに対し、直雇用化後の労働条件について説明するとともに、直雇用化により原告の契約社員になることを同意する旨の「同意書」又は原告に入社しない旨の「回答書」を配布したこと、4)クボタ分会のファサビ組合員ら8名中7名は、同年2月28日の期限までに「同意書」を提出したこと、5)直雇用化に当たっては、面接や適性試験もなく、希望すれば原告の契約社員として採用されることになっていたことが認められる。これらの事実によれば、遅くとも本件団体交渉申入れが行われた同年2月28日、3月14日及び23日の各時点においては、原告は、近い将来においてクボタ分会の組合員らと労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する状態にあったものであり、当該時点において、労働契約関係ないしはそれに隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体労使関係上の一方当事者として、本件団体交渉申入れに応ずべき労働組合法7条の使用者に該当していたというべきである。労働組合法7条の使用者性は、雇用契約上の労使関係が存在しないことを前提としてもなお認められる場合があり、本件もまさにそのような場合に該当する。
2 本件団体交渉申入れに応じなかったことの不当労働行為該当性
本件団体交渉の申入れは、交渉議題を1)契約社員の就業規則、2)有給休暇の引継ぎ、3)平成19年4月以降の組合員の賃金、4)契約社員の雇用期間の根拠と契約更新の具体的条件、5)労働協約の締結、6)その他であり、いずれも直雇用化後のクボタ分会組合員の重要な労働条件に関するものである。また、第1回団体交渉で、補助参加人が、直雇用化後の雇用期間につき、Y商会に常用雇用されていた者について半年更新により2年で雇止めになることに疑義がある旨述べていたことからすれば、補助参加人にとって、直接雇用後に雇用期間に関して従前と比較して不利益が生じ得ることが重大な関心事となっており、この点について特に交渉する必要に迫られていたものと認められる。そして、雇用期間等の労働条件については、直雇用化実施前の段階で、本件団体交渉申入れに係る交渉事項について団体交渉を開催する必要性は十分に高かったと認めることができる。
他方、本件団体交渉申入れに対する原告の態度は、1)平成19年2月1日の申入れを受けた際、既に直雇用化の方針を決定していたが、これを補助参加人に通知せず、2)同月16日に開催された説明会で本件従業員らに対して直雇用化後の労働条件について初めて明らかにしたが、同説明会について補助参加人に対しては事前に全く通知せず、3)同月26日に開催された第1回団体交渉で、今から協議しても時間的に間に合わないとして同年4月までに団体交渉を行っても意味はないと述べ、4)同年2月28日付け団体交渉申入れに対し、同時点で労働条件を見直すことは考えられず、3月中に団体交渉を持つことは考えていない旨回答したものであって、これら原告の一連の対応を全体的に観察すれば、原告は、直雇用化後における雇用期間等の労働条件について、その実施前に補助参加人と協議する姿勢を有していなかったものといわざるを得ない。
原告は、第1回団体交渉の開催、平成19年4月1日に直雇用化を実現するためには同年3月2日までに労働条件を確定する必要があったこと、第1回団体交渉における補助参加人の指摘を踏まえて労働条件の修正を行っていること等から、同年3月中に団体交渉に応じなかったことには正当な理由があったと主張する。しかしながら、第1回団体交渉を開催したことが、同年3月中の団体交渉に応じないことについての正当化理由となるものではない。同年4月1日の直雇用化までの時間的制約については、これは原告が一方的に設定したものであること、直雇用化までの団体交渉の時間が減少した大きな要因として、前記1)、2)の原告の態度が挙げられること、使用者の団体交渉義務には、一般に誠実に対応することを通じて合意達成の可能性を模索する誠実交渉義務が含まれることからすれば、仮に原告が同年3月中の労働条件変更の可能性が皆無であると考えたとしても、団体交渉において、当該労働条件の設定に至る検討状況や将来的な見直しの可能性等について、補助参加人の納得を得るための説明や資料提示をすべきであり、このような時間的成約をもって原告が3月中の団体交渉に応じない理由にはならないというべきである。
以上によれば、原告の行為は、正当な理由なく、本件団体交渉申入れに係る団体交渉を拒んだものとして、労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するというべきである。
3 本件に係る救済利益の存否
直雇用化の補助参加人と原告との間の団体交渉で、組合員の雇用期間等の問題について妥協点を見出せておらず、現時点でも、今後の原告と補助参加人との間の団体交渉に関し、原告が労働組合法7条の使用者性や同条2号の「正当な理由」について適切に判断することにより適切な時期に団体交渉が実施されることを期すという観点から、本件の救済方法として、本件不当労働行為に関する原告の責任を明確にした上で、原告に対し今後本件と同様の不当労働行為を繰り返さない旨の文書手交を命じる必要性(救済利益)があるというべきである。よって、初審命令を相当と判断し、本件再審査申立を棄却した本件命令は適法であり、原告の請求には理由がない。 - 適用法規・条文
- 労働組合法7条、労働者派遣法40条の2
労働経済判例速報2105号132頁 - 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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