判例データベース
国立大学法人二重処分事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 職場でのいじめ・嫌がらせ
- 事件名
- 国立大学法人二重処分事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成22年(ワ)第36175号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 国立大学法人乙大学 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年08月09日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 原告は、都内の区立学校教諭を経て、平成8年4月より乙大学教育学部附属小学校の、平成12年4月より同附属中学校(本件中学校)の国語担当の教諭となった者である。またC教諭は大学院修士課程修了後の平成18年4月から本件中学校の専任教諭(国語科担当)、D教諭は、大学院修士課程修了後の平成20年4月から本件中学校の常勤講師(国語科担当)として被告に勤務している者である。
平成21年2月3日、本件中学校の入学試験が実施され、同月5日合格発表が行われたが、同月17日、原告が模範解答の再点検を行ったところ、模範解答に記載された配点の合計が100点にならないことに気付き、解答用紙をチェックしたところ、採点漏れと見られる解答用紙を発見した。原告は本件採点漏れについて、C教諭にだけ「副校長には採点漏れがあったのは言わないでおくから黙ってて」、「シュレッダーにかけちゃえばわかんないから」、「入試のことはこれでおしまい」等と口止めして、管理職等には報告しなかった。
C教諭は、同年4月21日、他の職員に対し、本件入学試験における国語科の試験問題につき、原告がミスを犯したのにこれを修正したものを提出したこと及び採点漏れがあったことを申告した。この申告を受けて、同月23日から同年6月にかけて、本件中学校において、関係者に対する調査及び解答用紙の再点検が実施された結果、採点漏れが確認され、4名の合格者を追加する必要があることが判明し、被告は同年8月3日、4名の追加合格を記者会見で発表した。そして、被告は同年9月21日、原告を訓告処分とするとともに、C教諭及びD教諭に対しても訓告処分を行った。これに先立つ同年6月17日、被告は原告に対し同年9月30日までの自宅待機を命じ、同年10月1日、原告を無期限の附属学校支援室勤務とし、平成22年5月26日、採点漏れの隠蔽を理由として原告を停職3ヶ月とする本件停職処分をした。
これに対し原告は、本件訓告処分と本件停職処分の対象となる事案は同一であるから、本件停職処分は二重処分の禁止(一事不再裡の法理)に違反すること、本件停職処分が二重処分の禁止に違反しないとしても、ある懲戒処分時に処分者に判明していた事実について、後に改めて懲戒処分を行うことは信義則に反し許されないこととして、被告に対し、本件停職処分の無効確認及び停職期間中の未払の給与及び賞与の支払いを請求した。 - 主文
- 1 被告が平成22年5月26日付けで原告に対してした3月間停職するとの懲戒処分が無効であることを確認する。
2 被告は、原告に対し、1)1万3128円及びこれに対する平成22年9月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員、2)44万6915円及びこれに対する平成22年6月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員、3)44万6915円及びこれに対する平成22年7月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員、4)38万5975円及びこれに対する平成22年8月18日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員、並びに5)84万3968円及びこれに対する平成22年7月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
4 この判決は、2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件停職処分は二重処分禁止に違反するか
本件停職処分の対象とされた原告の行為は、平成21年2月17日、原告が入学試験における国語科の試験問題の一部に採点漏れがあったことを認識しながら、これをC教諭のみに告げ、管理職等への報告を行わなかったこと(本件不報告)、のみならず、同日C教諭に対し、上記採点漏れの事実について口止めしたこと(本件隠蔽行為)であると解される。これらは、いずれもミスを犯したことを認識した上で、これを敢えて管理職等に報告しないという故意行為であって、単なる採点ミスという過失行為とは質的にも大きく異なる重大な規律違反行為であるということができる。
これに対し、本件訓告処分は、単純な採点ミスという過失行為を対象としているものと理解するのが自然というべきであり、加えて、採点漏れの不報告ないし隠蔽には関与していないD教諭についても同内容の訓告処分がされていることからすれば、本件訓告処分の対象行為に「故意による不報告ないし隠蔽」が含まれていると解することは困難というほかない。以上によれば、本件停職処分には、二重処分禁止(一事不再理の法理)には違反しないというべきである。
2 本件停職処分は信義則に反するか
本件訓告処分の時点で、被告は、本件不報告の事実は明確に認識していたし、本件隠蔽行為についても、C教諭及び原告の双方から事情聴取して、現時点とほぼ遜色のない証拠を有していたものと認めることができる。確かに、当時原告が、C教諭に対する口止め指示を否定していたことからすれば、本件隠蔽行為を処分対象行為として処分することがためらわれたこと自体は理解できないでもないが、敢えて管理職等に報告しないという本件不報告の悪質性に照らせば、本件不報告を処分対象行為として、原告に対しその時点でより重い処分を検討することも十分に可能であったというべきである。更に、原告のC教諭に対する具体的な発言の内容を見ても、極めて安易かつ軽薄な内容であって、発言当時の原告においては、自らが発見した採点漏れという事態の重大性はもとより、それを管理職等に報告しないまま闇に葬ろうとしている自分の行動の悪質性も理解していなかったものと解さざるを得ない。
いずれにせよ、本件停職処分との関係でいえば、これほどまでに原告が事態の重大性、自らの行為の悪質性を理解していなかったと見られる以上、その点をもって職務規律違反の責を問えば足りるというべきであり、本件訓告処分時に確実に把握できていた本件不報告との比較において、本件停職処分の処分対象行為とされた本件隠蔽行為の悪質性が特に強度であるということもできないから、本件訓告処時に本件隠蔽行為を認定、認識していなかったことを理由とする被告の主張は採用の限りではない。
以上に加え、本件訓告処分前、被告においては本件入学試験との関係で相当程度の調査が行われており、原告に対しても2度にわたる聞き取り調査が行われていたことや、本件停職処分前、既に本件訓告処分のほか、自宅待機命令や附属学校支援室での勤務命令等、かなりの人事上の不利益が原告に科されていたことをも併せ考慮すれば、原告が、本件入学試験関連での処分は本件訓告処分限りと信じたことにも相当な理由が認められる。にもかかわらず、更に被告が原告に対し本件停職処分という重い処分を科したことは、他に特段の事情の認められない本件においては、信義誠実の原則に反し、また懲戒処分に求められる社会的相当性を欠くものとして懲戒権の濫用に当たるというほかはなく、いずれにしても、本件停職処分は違法無効というべきである。 - 適用法規・条文
- 民法1条2項
労働経済判例速報2123号20頁 - 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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