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塗装作業女性勤務態度不良等解雇事件(派遣・パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 塗装作業女性勤務態度不良等解雇事件(派遣・パワハラ)
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成14年(ワ)第2472号
- 当事者
- 原告 個人2名 A、B
被告 有限会社Y工芸 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2003年05月16日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、金属製品の塗装業務を目的とする有限会社で、従業員は正社員5名、パートタイマー6名、アルバイト7名であり、原告A(昭和12年生)、原告B(昭和21年生)は、それぞれ、平成10年9月、平成11年7月にD社(代表者D)にパートタイマーとして雇用された後、同社が倒産したため、その後設立された被告に引き続き雇用された女性である。原告Aは、当初は第2工場において、塗装室に入る前のバックミラーの生地を固定用のハンガーにナットで固定し、ゴミを除去する作業に従事していたが、平成13年8月頃からは塗装不良製品の塗料を落とす作業にも従事した外、麻雀店における清掃作業にも
従事していた。また原告Bは、ゴミ吸引作業及び塗料落とし作業に従事していた。被告代表者は、当時原告Aが62歳、原告Bが53歳で、D社に雇用される前は塗装に関連する業務に従事した経験がなかったため、第2工場の工程の中で最も軽労働のごみ吸引作業等(本件各作業)に従事させていた。
被告の経営は赤字体質で、長期借入金も含めた負債額は8845万円余であったが、従業員の時間外労働は認めており、1ヶ月当たり、原告Aは3万6000円ないし5万5800円、原告Bは3万3300円ないし5万5800円の時間外手当の支給を受けていた。
被告は、従業員全体に対し経営状態を説明して人員削減の方針を表明することも、原告らに対し退職勧奨をすることもなかったが、平成13年9月27日、被告の経営状態が赤字であること、原告らが不良品を多数発生させるなど勤務成績・業務態度が著しく不良であることを理由として、同年10月31日付けをもって原告らを解雇した。
これに対し原告らは、勤務成績・業務態度に問題はなかったこと、人員整理を行う場合は整理解雇のいわゆる4要件を満たさなければならないところ、本件の場合その要件が満たされていないことを主張して、解雇の無効による労働契約上の地位の確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告らが被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告らに対し、それぞれ48万3464円及びこれに対する平成14年3月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告らに対し、それぞれ平成14年3月から本判決確定まで毎月末日限り12万0866円を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、被告の負担とする。
6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 原告らの勤務成績又は業務能率が著しく不良であったか否か
被告は、原告らの勤務成績又は業務能率が著しく不良であったため、原告らが第2工場の工程に従事していた時は、同工場の不良品率が高かったが、原告らが同工程に従事しなくなってから不良品率が大きく低下したこと、第2工場においてはDが原告らに対しもっとほこりをきれいに取るよう指導したことが認められるが、不良品率の全てがごみ不良によるものとも断定し難い。また、本件各作業は、被告代表者も認める通り、工程の中でも最も軽労働で簡単な作業であって、被告は、塗装作業に従事した経験がなく、50歳あるいは60歳台である原告らを長期間本作業に従事させていたことからしても、同作業が製品の不良品率を大きく左右するような性質の作業であったとするには疑問が残る。しかも、同工程においては、本件各作業の後、塗装室でDが除電服をしばしば着用せずに塗装作業に従事していることからすれば、塗装作業におけるごみ・ほこりの付着あるいは除去の不徹底が不良品の原因となった可能性は何ら排斥されていないといわざるを得ない。更に、第2工場の周囲には未舗装の駐車場や道路があり、Dにおいても除電服を着用せずに塗装作業に従事していたこと、作業態度に問題があるする原告らを本件解雇通告まで1年以上もごみ・ほこりの除去に関わる本件各作業に従事させていること等、被告において、第2工場の工程におけるごみ・ほこりの除去に関して、十分な注意を払って来なかったことが窺われる。これらを総合すれば、第2工場での不良品が専ら原告らの作業態度によると認めるに足りる証拠はない。
もちろん、原告らに作業態度に不十分な点があったことは否定できないが、それをもって、改善が期待できないほど原告らの勤務成績や作業態度が不良だったとまで断定することもできない。また、特に原告Aについては、除電服の両袖を暑いという理由で切って半袖状にして着用していた上、それを着たまま清掃作業に従事していたことからして、同人がごみやほこりの付着に注意を余り払っていなかったことが認められるが、被告においても第2工場の工程におけるごみやほこりの除去に関して十分な注意を払って来なかったのであるから、原告Aにのみ責任を転嫁することはできないというべきである。この点、被告代表者や専務は、原告Aは作業の障害になり、原告らに注意すると反抗的な態度をとり、態度を改めなかったと証言するが、第2工場における不良品の発生が専ら原告らの作業態度によるとまでは認められないことや、本件解雇通告の際にも被告は原告らの就労態度について何ら言及していないことをも考慮すれば、同証言も直ちに採用することができない。したがって、原告らが就業規則39条1項1号の「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、従業員としてふさわしくないと認められたとき」に該当するとは認められないから、それを理由とする本件解雇は、著しく不合理で社会通念上相当なものとして是認できず、解雇権の濫用として無効というべきである。
2 整理解雇としての解雇事由の有無
確かに、本件解雇通告時において、被告においては、600万円以上の営業損失を計上し、流動負債が流動資産を5000万円近く上回り、負債全体で9000万円足らずにまで上る状態であり、平成13年10月からは被告代表者及び正社員3名に対して約1割の賃金カットを実施していることからしても、被告において経営合理化の必要性があったことは否定できないところである。しかし、同時に、被告の売上高が大幅に減少したのは、むしろ本件解雇後の平成14年5月以降であるし、本件解雇予告の直前においても、基本給の3分の1から2分の1にも及ぶ時間外手当を支払っていることからすると、被告において直ちに人員削減をする必要があったかについては疑問が残る。また、被告は本件解雇と前後して被告代表者及び正社員3名の人件費を約10%削減していることが認められるものの、従業員の一部に止まっている上、従業員が相当量の時間外労働を行うことを寛大に許容してきたことが認められ、本件解雇通告時においては、従業員はむしろ被告を設立した時点よりも増加していることが認められるし、従業員全体に対して被告の経営状態を説明し人員削減の方針を表明したり、原告らに対して退職勧奨を行ったことも認められないのであるから、被告において、原告らの解雇を回避すべく十分な努力を払ったとも言い難い。更に、原告らを整理解雇の対象とした基準についても、専務は本件解雇通告の際に、原告らに対し、本件各作業は他の従業員で代替することが可能である上、年齢も高いということを説明したと証言するに止まり、被解雇者として原告らを選定した合理的基準については何ら主張していない。そして、本件解雇通告前に、被告において、従業員に対し、経営状況及び人員整理の必要性、被解雇者選定の方法等につき、十分な説明をしたことは認められないし、なぜ原告らが解雇の対象となったかについては何ら説明していない。
そうすると、本件当時28名いた従業員の中で、被告が原告らのみを対象にして行った本件解雇は、整理解雇ができる場合を規定した「事業の縮小その他事業の運営上やむを得ない事情により、従業員の減員等が必要になったとき」(就業規則39条1項3号)に該当するとはいい難く、著しく不合理で社会通念上相当なものとして是認することができないから、解雇権の濫用として無効というべきである。したがって、本件解雇は無効であり、原告らの被告に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める請求は理由がある。 - 適用法規・条文
- 民法1条3項
- 収録文献(出典)
- 労働判例857号52頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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