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大阪(飲食店)欠勤雇止事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 大阪(飲食店)欠勤雇止事件(パワハラ)
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成20年(ワ)第7351号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 H株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2009年03月13日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 飲食店の経営、食料品加工販売等を業とする被告においては、60歳定年制を敷いていたところ、平成18年4月、高年齢者雇用安定法の趣旨に沿って定年退職者の再雇用制度を設け、定年退職者のうち、本人が希望し、かつ同制度の基準に該当する者を再雇用することとした。ただし、再雇用期間は、平成18年4月から同19年4月までは62歳に達する日までとし、以後3年間ごとに1歳ずつ延ばし、同25年4月から65歳に達する日までとするものであった。
原告は、平成5年7月に被告に正社員として採用され、賄いや調理補助等の業務に従事し、平成19年4月13日に60歳定年に達することになったが、本件再雇用を希望し、被告との間で、1)契約期間は平成19年4月13日から同20年4月13日、2)業務内容は食器の洗浄等、3)就業時間は午後5時から午後10時まで、4)年休は6ヶ月継続勤務した場合に10日付与、5)賃金は時給850円等を内容とするパートタイム雇用契約を締結した。
被告は、平成19年8月6日、原告に対し、原告がチーフの承諾を得ることなく早退したとして、これを注意する書面を交付し、その後被告は原告が加入する組合と原告の勤務時間の件で団交を行い、原告の終業時刻は午後8時30分に変更された。被告は、平成19年10月16日、11月12日に、原告が年休の手続きを取らなかったことについて、これを注意する書面を交付した。原告は、同年12月22日、被告に対し、同月23日及び25日につき年休の時季指定をしたところ(本件時季指定1))、被告は23日については不承認としたが、原告は同日出勤しなかった。次いで原告は、同月27日、被告に対し、平成20年1月3日から6日までの時季指定をしたところ(本件時季指定2))、被告はいずれの日についても不承認としたが、原告はこれらの日に出勤しなかった。被告は、不承認でありながら原告が出勤しなかった日を無断欠勤として扱い、この欠勤に相当する賃金を支払わず、原告に無断欠勤についての始末書の提出を求めたが、原告はこれを拒否した。
以上の経過を踏まえて、被告は平成20年3月1日、原告に対し、本件雇用契約を更新しない旨を通知した(本件雇止め)ところ、原告は、本件各時季指定は被告の事業の正常な運営を妨げるものではなく、代替勤務の確保も可能であったのであるから、被告の時季変更権の行使は不適法であり、本件雇止めには合理的理由がないとして、不支給とされた賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 年休手当請求の可否
本件店舗は、原告が本件各時季指定をした勤務予定日においては、来客数が同じ月の平均の1.25倍から1.57倍もあり、通常時に比較して相当に繁忙な状況であったと認められるところ、本件店舗が繁華街に近接していることや上記各勤務予定日が年末年始であること等を考慮すると、上記各勤務予定日は、時季指定時において、原告の代替勤務者の配置がない限り、業務に支障が生ずる蓋然性があったと認められる。
本件時季指定1)がなされた平成19年12月23日は、特に繁忙な状況になることが予想されたことから、本件店舗の従業員全員が出勤する必要があり、代替勤務者を配置することが事実上不可能であったと認められる。一方、本件時季指定2)は、年始の繁忙期に4日連続の休暇を求める内容であり、勤務割の大幅な変更を余儀なくされるものであるが、チーフが作成した勤務割を、年末が押し迫った時期に大幅に変更することは相当困難であったと考えられる。したがって、原告が本件各時季指定をした勤務予定日は、いずれも代替勤務者の配置がない限り、業務に支障が生ずる蓋然性があったところ、被告が使用者として通常の配置をしたとしても代替勤務者を確保して勤務地を変更することが客観的に可能な状況にはなかったものと判断するのが相当であるから、上記各勤務予定日に原告に対し休暇を与えることは、被告の事業の正常な運営を妨げるものであったというべきである。
以上によれば、被告が本件各時季指定に対して時季変更権を行使したことは、労働基準法39条4項ただし書所定の要件を満たし、適法であるから、本件各時季指定は、いずれもその効果は消滅している。よって、原告の年休手当の請求は理由がない。
2 高年齢者雇用安定法9条の効果
本件再雇用制度は、原告が60歳定年に達した平成19年4月当時、高年齢者雇用安定法9条2項所定の要件(労使協定の締結)を満たしておらず、原告は同条違反の効果として、原告が被告に対し平成23年4月13日まで雇用契約上の権利を有する地位にあると解すべきである旨主張する。同法は、60歳未満の定年を一律に禁止しているが、65歳未満の定年を定めている事業主に対しては、定年の引上げ、継続強制度の導入又は定年の定めの廃止のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講ずることを義務付ける一方、同義務に違反した場合には、厚生労働大臣による指導・助言、勧告が段階的になされることを規定し、私法上の効果については特段の定めを設けていない。更に同法9条2項が、継続雇用制度の内容を労使自治に委ねて、65歳までの雇用確保の方法について、個々の企業の実情に応じた多様な措置を講じることを許容していることを考慮すると、同法9条が、高年齢者雇用確保措置を講じなかった事業主に対して、一律に定年の引上げを強制したり、その定年の定めを無効とするなどの私法上の効果までを有するものと解するのは相当でない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。
3 本件雇止めの効力
本件雇用契約は1年間の有期契約であるが、本件雇用制度に基づく契約であることから、平成23年4月13日に満64歳に達する原告については、原則として64歳に達する日まで契約更新されることが期待されていたものといえる。したがって、原告が64歳に達していないにもかかわらず、契約期間満了によって雇止めされた場合、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用に該当して解雇無効とされるような事実関係の下に被告が契約を更新しなかったとするならば、期間満了後における原告、被告間の法律関係は、従前の雇用契約が更新されたのと同様の法律関係になるものと解される。
原告は、1)平成19年8月4日、チーフの承諾を得ることなく早退し、2)同年10月4日、チーフの承諾を得ることなく欠勤し、被告からそれぞれ書面をもって注意されたことが認められる。また、原告は、同年10月4日、始業時刻の直前に本件店舗1階ホールの営業用電話に荷電し、一方的に欠勤を申し出たことが認められるが、チーフが原告の欠勤を承諾したわけではないから、原告の上記申し出は、同日の欠勤が無断欠勤であるとの認定を左右するものではない。
被告が本件各時季指定に対して時季変更権を行使したことは、いずれも適法であるから、原告は、平成19年12月23日及び平成20年1月3日ないし6日、就業義務があったにもかかわらず出勤せず、もって業務上の指示命令に違反したことになる。このように、原告は勤務態度に関して、短期間のうちに書面による注意を2度も受けたにもかかわらず、上記各業務命令違反を立て続けに行った上、平成19年12月23日の無断欠勤について始末書の提出を拒絶していたことに照らせば、原告が今後も被告の指導に従い、勤務態度を改善する見込みは極めて乏しいものといわざるを得ない。そして、被告が原告の組合活動を嫌悪していたことを認めるに足りる的確な証拠はないから、本件雇止めは、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものであったといえる。 - 適用法規・条文
- 労働基準法39条4項、高年齢者雇用安定法9条
- 収録文献(出典)
- 平成22年労働判例命令要旨集68頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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