判例データベース
神奈川(タクシー運転手)継続雇用拒否事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 神奈川(タクシー運転手)継続雇用拒否事件
- 事件番号
- 横浜地裁川崎支部 - 平成20年(ワ)第292号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年02月25日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 被告は、一般乗用旅客自動車運送事業を主たる目的とする会社であり、原告は平成8年10月に被告に雇用され、タクシー乗務員として勤務していた。
被告は、平成18年9月から平成20年6月にかけて、関係労働組合(いずれも全労働者の過半数に達していない)との間で、それぞれ60歳定年後における本件継続雇用制度の導入についての協定を締結し、全組合員の過半数を組織する組合及び他の一組合との協定が締結された直後の平成18年10月20日に労働基準監督署に就業規則改正の届出を行った。
本件継続雇用を定めた就業規則29条は、雇用契約は1年ごとの更新を原則とし、一定の雇用基準に従って再雇用することとしているところ、本件再雇用基準では、勤務態度、能力、乗務数、営業収入、走行距離等について組合との協議により設定されていた。ところが、原告は、出勤率が90%に達せず、営業収入も少なく、懲戒処分の経験もあることなどから、再雇用基準に該当しないとして、希望したにもかかわらず継続雇用を拒否され、定年年齢に達した平成20年2月18日をもって定年退職となった。
これに対し原告は、本件継続雇用制度において雇用の基準を定めるに当たっては、高年齢者雇用安定法9条2項により、過半数の労働者で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、これがない場合には過半数の労働者を代表する者との書面での協定が必要と定められているところ、本件継続雇用制度については適法な労使協定が締結されていないこと、原告はタクシー乗務員として許容される範囲の仕事はしていたこと、駐車違反で懲戒処分を受けたもののその後3年間は無事故無違反であること、60歳定年を迎えた乗務員で、継続雇用を希望しながら拒否された例は原告以外にはないこと、本件再雇用拒否は、原告の長年の組合活動に対する報復であるから不当労働行為に該当すること等を主張し、本件再雇用拒否は人事権の濫用として無効であるとして、従業員としての地位の確認と、定年退職後の賃金及び65歳までの将来にわたっての賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、平成20年2月19日から本判決確定の日まで、毎月20日を締切日として毎月27日限り月額12万3731円の割合による金員及びこれらに対する各月分の該当月の28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 本件訴えのうち、本判決確定の日の翌月から毎月20日を締切日として毎月27日限り月額12万3731円の割合による金員及びこれらに対する各月分の該当月の28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分を却下する。
4 訴訟費用は、被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 高年齢者雇用安定法9条2項の要件を具備しているか否か
被告の各事業所のいずれにも労働者の過半数で組織する労働組合はないから、被告が高年齢者雇用安定法9条2項により継続雇用制度を導入する措置を講じたとみなされるには、各事業所ごとに、全労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入することが必要であるところ、被告において、事業所ごとにその労働者の過半数を代表する者は選出されていなかった。
被告は、本件継続雇用制度についての協定は、労働者側の複雑な事情により労働者の過半数で組織する労働組合ないし労働者の過半数を代表する者との間で協定を結ぶことが実際上不可能な状況下で、労働者の過半数には満たない複数の労働組合との間でそれぞれに労使協定を結び、その成果を非組合員が享受するという従来からの労使慣行に従ったもので、その導入手続きは有効である旨主張する。しかし、高年齢者雇用安定法9条2項は、継続雇用制度を導入するに当たっては、事業所の実情に応じて原則的措置を一定程度柔軟化する必要性がある一方、事業主による恣意的な対象者の限定などの弊害を防止するために、すべての労働者の過半数の団体意思を反映した上でかかる柔軟化を行うこととし、そのための手段的担保として、当該事業所に労働者の過半数で組織する労働組合が存在する場合にはその労働組合、これがない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入することを要件としたものと解することができる。
しかるところ、被告の主張する労使慣行は、全ての労働者の一部に過ぎない組合員の意思を反映させるものに過ぎないから、本件継続雇用制度の導入の趣旨・目的に照らせば、これを労使慣行として有効と認めることはできない。また、複数の労働組合及び非組合員との間で本件継続雇用制度の導入についての平成21年3月協定が締結されていることからすると、本件継続雇用制度の導入に当たって、各事業所において、全ての労働者の過半数の代表を選出できないほど労働者間で大きく意見が対立する状況にあったものとは窺われない。そうすると、本件継続雇用制度の導入を定める本件就業規則29条は、手続き要件として高年齢者雇用安定法9条2項の要件を満たしていない。
2 高年齢者雇用安定法附則5条1項の要件を具備しているか否か
被告は、その労働者が300人を超える事業主であるから、平成21年3月31日までの間、高年齢者雇用安定法9条2項に規定する協定をするため努力したにもかかわらず協議が調わないときは、就業規則その他これに準ずるものにより、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入することができる。しかるところ、同項に基づいて労働者の過半数との間で協定を締結するには、各事業所において労働者の過半数を代表する者を選出する必要があったが、それは選出されていなかったし、被告が労働者側に対して選出するように要請することもなかった。
被告は、従来から、労働組合の全組合員の過半数の同意があれば労使協定が成立するという認識を有しており、本件継続雇用制度の導入に当たっても、かかる認識の下、全労働組合員の過半数で構成する労働組合及び他の一組合との間でそれぞれ協定を締結し、その他の労働組合との間で協定を締結するのを待たずに、一つの労働組合の意見書だけを添えて、労働基準監督署長に対し就業規則一部変更を届け出たものであること、前記2組合以外の労働組合との協定は、被告が各労働基準監督署長に本件継続雇用制度の導入を含む就業規則の変更を届け出た日から、それぞれ約1ヶ月ないし約1年8ヶ月後と時間的距たりがあることからすると、被告は上記2組合以外の労働組合に対して、本件継続雇用制度の導入についての協定締結に向けて十分な説明をしたものとは窺われない。
よって、被告は高年齢者雇用安定法9条2項に規定する協定をするため努力をしたにもかかわらず協議が調わなかったものと認めることはできず、平成20年2月18日時点での本件就業規則29条が高年齢者雇用安定法附則5条1項の要件を具備していないというべきである。そうすると、本件継続雇用制度の導入を定める本件就業規則29条は、手続要件としての高年齢者雇用安定法附則5条1項の要件を満たしていない。したがって、本件継続雇用制度の導入を定める本件就業規則29条は、手続要件を欠き無効であるから、原告は被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあるというべきである。
3 賃金の支払いについて (略) - 適用法規・条文
- 高年齢者雇用安定法9条2項、附則5条1項
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2085号11頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|