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登録型派遣労働者更新拒否事件(派遣)

事件の分類
雇止め
事件名
登録型派遣労働者更新拒否事件(派遣)
事件番号
東京地裁 - 平成21年(ワ)第28762号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年08月27日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は労働者派遣を業とする会社であり、原告は被告に派遣スタッフとして登録し、平成18年7月10日、派遣期間(雇用期間)を同年12月31日まで、派遣先をSビジネス(平成19年2月に本件財団に改組)とする雇用契約を締結した。その後、上記雇用契約は、平成19年1月1日、4月1日、10月1日、平成20年1月1日に順次更新され、同年10月1日、原告は被告との間で、派遣期間(雇用期間)を平成20年10月10日から平成21年3月31日までとする雇用契約を締結した。

 平成21年2月6日、被告は原告に対し、本件財団が人事体制の再編強化のため、雇用期間が通算2年半となる原告を区切りの良いところで交代したいと通告してきたとして、派遣契約期間の満了により原告の派遣(雇用)を終了した。

 これに対し原告は、本件雇用契約は自動更新が繰り返されて契約継続が当然視され、事実上期限の定めのない雇用契約に化していたばかりか、原告は本件財団の専務理事等から将来正職員として登用される可能性が高いとの説明を受けていたこと、同専務理事や被告の責任者から本件雇用契約の更新について「問題ない」との回答を受けていたことから、原告が本件雇用契約の継続に期待を抱くのは当然であって、この期待は法的保護に値すること、本件財団は原告を正職員に登用することを回避するため、ありもしない事実を理由に本件派遣契約の終了を画策し、被告もこれに加担したことを挙げ、被告は本件雇用契約の継続に対する原告の期待を裏切り、その法的利益を侵害したとして、民法709条の不法行為を構成すると主張した。その上で原告は、本件財団の存続が見直される平成25年3月末までは本件雇用契約が継続されるとの期待が裏切られ、その結果、得べかりし賃金相当額及び有休分相当額を失ったとして、被告に対し、これらの合計額である1303万4675円を請求した。
主文
1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 1)原告が平成18年7月10日以降、被告(派遣元)との間で締結した雇用契約は、いずれも「登録型」有期雇用契約であるところ、原告は被告との間において、かかる雇用契約を5回更新した上、平成20年10月1日、本件雇用契約の締結に至ったこと、2)いずれの更新時においても被告担当者(派遣元責任者)と原告との面談が行われ、その際、他の従業員とのトラブルが問題とされた経緯はあるものの、更新の可否それ自体については特に大きな問題が生じたことはなく、更新手続きが繰り返されていたこと、3)原告はSビジネスを紹介してもらった人物から本件財団の正職員に登用される可能性が十分にあるとの説明を受けており、本件財団の専務理事等も原告の仕事ぶりを一応評価し、原告に対し正職員への登用の可能性をほのめかしていたこと、4)被告の派遣元責任者も、平成21年2月初めに本件財団から連絡が入るまでは、本件雇用契約の更新について特に問題はないものと認識していたことなどの事情が認められる。

 これらの事情によると、雇止めとなった平成21年3月当時、原告は本件財団幹部らの発言から、将来本件財団の正職員に登用される可能性が十分にあるものと考え、本件雇用契約が更新継続されることにかなり強い期待を抱いていたことが認められる。しかし、登録型有期労働契約の場合、派遣期間と雇用契約期間が直結しているため、労働者派遣が終了すれば雇用契約も当然に終了する。そうすると本件雇用契約は、本件財団との本件派遣契約を前提としていることになり、原告が本件財団の正職員に登用されると本件派遣契約は終了し、その結果として本件雇用契約も当然終了することになるのであるから、原告の上記期待は自己矛盾を含むものといわざるを得ない。

 そもそも労働者派遣法は、派遣労働者の雇用の安定だけでなく、常用代替防止、すなわち派遣先の常用労働者の雇用の安定をも目的としていると解されるのであるから、この解釈の下では同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から労働者派遣法の予定するところではないものというべきである。そうすると、原告の上記期待は、労働者派遣法の趣旨に照らしても合理的なものであるとはいい難く、民法709条にいう「法律上保護される利益」には当たらないと解すべきである。なお原告は、本件雇用契約は事実上期間の定めのないものと化していたと主張するが、上記事実のほか、原告には各更新時において自己の評価を気にする様子が見られたことなどを考慮すると、原告の主張は採用の限りではない。以上によると、原告の主張は理由がないことに帰着する。

 なお付言するに、本件雇用契約型のような派遣型有期雇用契約は、労働者派遣契約を前提にしているのであるから、その派遣契約が終了した以上、派遣元使用者において上記雇用契約の更新を拒絶しこれを終了させたとしても、それ自体はやむを得ない行為であって何ら不合理な点はない。そうなると、仮に原告の上記期待利益が合理的なものであったとしても、被告による本件雇用契約の更新拒絶は、民法709条所定の不法行為を構成するような筋合いのものではない。
適用法規・条文
民法709条
収録文献(出典)
労働経済判例速報2085号25頁
その他特記事項
 ・法律民法、労働者派遣法

 ・キーワードパートタイマー・派遣、雇止め・更新拒絶