判例データベース
損害保険会社(人事考課)事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 職場でのいじめ・嫌がらせ
- 事件名
- 損害保険会社(人事考課)事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成15年(ワ)第15422号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 個人1名 M、損害保険会社 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年09月13日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告(昭和18年生)は、昭和55年10月、損害保険事業を行う被告会社(当時はY火災海上株式会社)に損害調査専門職員として入社し、平成9年に専門2級Bとなり、同年4月から埼玉西支店川越SC、平成10年10月から西東京支店立川SCで勤務し、平成14年12月末をもって退職した。一方被告Mは被告会社の従業員であり、平成9年4月から平成10年9月まで、川越SCにおける原告の上司であり、昇給賞与の上での第一次考課者であった。
被告会社の人事考課は、目標達成度判定と担当業務の達成状況を総合して行われ、第一次考課者(課支社長)と第二次考課者(部店長)とが絶対考課の100点満点で行い、原告が従事していた損害調査専門職については、その後地区本部で相対調整が行われていた。評価は、総合点60〜79点がH2(平均)、50〜59点がH1、40〜49点がAランクとされ、原告の職位(専門職2級)では、H1以下で給与が減額されることになっていた。
平成9年度考課については、原告の自己評価と被告Mの評価との間に相当の開きがあり、最終評価はAランクと判定され、月額約2万3000円の減額となった。平成10年度評価は、被告Mによる中間評価では、目標達成度は大幅遅延等でAランクであったのに対し、立川SCへの異動後の一次考課者のBの評価ではH2評価となるべきところ、被告Mの中間評価を考慮した結果、H1と判定され、賃金は月額1万1500円の減額となった。平成13年度考課では、総合点でH2と評価されたが、上司のCは原告が病気のため2ヶ月間休暇を取得していたことから、最終的にはA評価とし、そのため原告の賃金は、更に2万3000円減額された。
原告は、平成9年4月から平成10年9月末まで、上司であった被告Mが原告に対して不当に低い評価を行ったこと、平成13年度において上司Cが原告の長期休暇取得を理由に不当に低い評価を行ったことが債務不履行又は不法行為に当たると主張し、被告M及び被告会社に対し、給与・賞与減額分として324万7882円、被告会社に対し、慰謝料100万円を含む221万5545円を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告に対する平成9年度、平成10年度、平成13年度の各考課は、いずれも被告会社で定められている昇給賞与考課の定めに従って、第一次考課者である被告M、B、Cが評価判定を行い、第二次考課者が再度の考課を行い、地区本部で相対調整が行われているものであって、考課の手続きや方法は適正に行われていると認められる。
平成9年度考課の点数は相当に低く、特に担当業務達成状況については、最低点である0点や1点が多く、合計も36点と著しく低く、平成10年度中間評価も「大幅に遅延」という評価が少なくなく、総合判定もAであって、評価は相当に低い。ところが、1)平成10年2月28日における原告の実績をみると、対人賠償保険の処理率については、月内累計では川越SC、課、全店よりも劣っているが、年度内累計ではSC、課、全店より良好であること、2)同年3月26日における原告の実績をみると、対人賠償処理率については、月内累計はSC、課、全店より良好であり、課内の他の従業員より処理率が高いこと、3)平成10年9月30日における原告の実績をみると、搭乗者保険等の処理率については、年度内累計はSC、課、全店よりも優れていること等の事実が認められ、平成10年2月ないし3月頃や、同年9月頃の原告の成績には良好な部分があったことが認められる。また原告は立川SCに異動後は、平成10年度考課において、Bから75.8点、H2との評価を受けている上、1)平成11年度、平成12年度の各考課でもH2の評価であったこと、2)平成11年9月末の業績指標をみると、管内の専門職の中で、対人賠償保険の処理率は最も高い方であり、長滞率も低い方であって、むしろ成績は良好といえること、3)Bは被告Mや埼玉西支店長のCに対して、同じ担当者なのになぜ評価が違うのかとの質問を送ったことが認められ、原告は、立川SC異動後、平均的との評価を受けていたことが認められる。
以上の各事実に照らすと、平成9年度考課の担当業務達成状況の評価や、平成10年度中間評価は、厳しすぎる嫌いがないではなく、また平成9年度考課が49点でAランクとされたことも、ランクが異なることによって給与や賞与等の金額が大幅に異なって来ることを考えると、原告には酷なようにもみえる。しかしながら、平成9年度考課、平成10年度考課は、それぞれ具体的根拠に基づいて行われたものであり、かつ、いずれも第一次考課者だけでなく、第二次考課者や地区本部も同意見であったものである。そして、考課は業績だけでなく、職務上の交渉相手や関連組織との人間関係や職場内の協調性など、数字だけでは表せない要素を総合して行われるものであるところ、第一次考課は、原告の日常の仕事ぶりを直接に見ている課長が、このような直接的な業績以外の諸要素も総合して行っていること、被告会社では損害調査専門職員はH1やA、Bといった低い評価を受ける者が少なくないこと、原告は平成8年以前から行動評価や成果評価が低く、意欲が見られないと指摘されるなど評価は高くなかったことなどの事情を併せて考えると、平成9年度及び平成10年度の各考課が、考課者に付与された裁量を逸脱濫用するものとまでは認められず、これらの考課が不当であって、原告の権利・利益を侵害し、あるいは労働契約上の債務の不履行に当たるとはいえない。
原告は、平成13年度考課は、原告の長期休暇制度利用を理由として低い評価をしたものであって、労基法に違反するなどと主張する。確かに、平成13年度考課は、当初H2とされていたものが、後にH1、更にAとランクを下げられたもので、異例な経過による決定のようにもみえる。しかしながら、原告の評価が下がったのは、原告が2ヶ月間休暇を取り、そのために、当初の評価では達成度ランク1(達成)とされていた適正支払の維持等、生産性の向上に関しては未達成とすべきであること、その他新たに判明した事情を総合した結果によるものであって、休暇を取ったこと自体を理由として評価を下げたものではなく、評価は不当ではないし、労基法に違反するとはいえない。
以上のとおり、原告に対する平成9年、平成10年及び平成13年度の各考課は、不法行為又は債務不履行に該当するとは認められないから、給与減額等による損害の賠償を求める原告の請求は理由がない。原告に対する給与及び賞与の未払いがあるとは認められないから、付加金の請求は理由がない。被告会社が考課によって原告に対していわれなき偏見・差別をしたとは認められないから、原告の慰謝料請求も理由がない。 - 適用法規・条文
- 民法415条、709条、労働基準法114条
- 収録文献(出典)
- 労働判例931号75頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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