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ゴミ収集業者記者会見等解雇事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- ゴミ収集業者記者会見等解雇事件(パワハラ)
- 事件番号
- 奈良地裁 − 平成15年(ワ)第64号
- 当事者
- 原告 個人3名A、B、C
被告 廃棄物収集・運搬・処分業者 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年01月21日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 被告は廃棄物の収集、運搬及び処分を目的とする株式会社であり、原告Aは平成11年10月、同Bは平成9年2月、同Cは平成7年3月にそれぞれ被告と雇用契約を締結し、ごみ収集車の運転業務等に従事していた。
平成14年11月12日、「営業廃棄物を不正搬入」との見出しで、市の廃棄物収集運搬業者が、処理手数料が有料である営業廃棄物を一般家庭廃棄物に混入し、市に支払うべきゴミ処理手数料を免れていたとの記事が新聞に掲載され、連日この件についての記事の掲載が続いた。
原告らは、同年12月9日、有給休暇を取得して市議会を傍聴したが、当日の議会で本件混入問題は議題となっていなかったため、議事終了後、傍聴席から「市長、逃げるのか」、「ゴミ問題はどうなっているんや」などを発する者があり、議長は原告らを含む傍聴人と会談した。原告Aは自らが被告従業員であることを明らかにして議長に対し会社は大丈夫かなどを質問し、議長らの示唆もあって、原告らと被告の元従業員らは翌10日、市役所記者クラブ室において記者会見を行った。この会見で、かつて保険金詐欺により逮捕、起訴された被告の元従業員甲が主として説明を担当し、市役所や警察がこの混入問題を取り上げてくれないと発言し、原告らもこれをサポートする形で発言した。
被告は、翌11日、原告らは有給休暇申請に虚偽の理由を添付して欠勤し、元社員甲らと共闘し、会社の運営方針に対する営業妨害とも取られる言動で罵倒し、市や市議会に対し多大な迷惑をかけ、ひいては会社の信用を失墜させたとの理由を記載した懲戒解雇通知書を原告らに直接交付し、原告らを即時解雇した。更に被告は、原告らに対し、予備的に平成15年2月12日付けの解雇通知書を送付し、原告Aについては、1)無断で他の組合員を扇動して職場放棄をした件、2)不正なゴミ収集を行い、その行為をビデオ撮影したものを新聞社に持ち込み、事実を歪曲して会社の信用を毀損した件、3)議会で非礼な発言をして会社の信用を毀損した件、4)記者会見を行い、虚偽の事実を陳述し、会社の信用を毀損するとともに、市及び市長をみだりに批判した件を理由として、原告B及び同Cについては、上記3)、4)を理由として、同年3月15日をもって普通解雇する旨通知した。
これに対し原告らは、市議会本会議を静かに傍聴し、被告の営業妨害になるような言動をとった事実はなく、「市長逃げるな」等の発言は原告らとは無関係の者のものであること、年休は適正に行使したこと、本件懲戒解雇は即時解雇であるから労働基準監督署長の認定が必要とされるところ、被告はこの手続きを履行していないこと、原告らに弁明の機会を与えていないことから無効であると主張したほか、普通解雇事由はいずれも存在しないことを主張し、被告の社員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告らが、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告Aに対し、18万0550円及びこれに対する平成15年1月1日から支払済みまで年6分の割合による金員並びに平成15年1月から本案判決確定まで毎月末日限り31万2475円を支払え。
3 被告は、原告Bに対し、平成14年12月から本案判決確定まで毎月末日限り36万9303円を支払え。
4 被告は、原告Cに対し、16万6993円及びこれに対する平成15年1月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員並びに平成15年1月から本案判決確定まで毎月末日限り35万8893円を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 この判決は、第2ないし4項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件懲戒解雇が有効かどうか
12月9日の議会閉会直後の発言の趣旨は、市長が本件のごみ混載の問題を放置して逃げているというものであり、ごみ混載問題を提起する趣旨としても、市長に対する侮辱的な趣旨を含む上、傍聴席から大声を発するという態様であって非礼なものといわざるを得ないものであるところ、原告らはその発言自体をしたものではないにせよ、それらの者とその後も行動を共にして議長席を訪れ、自ら被告従業員であることを明らかにしているのであって、その一連の行動を総合的にみると、現職の被告の従業員としてはいささか軽率、不適当なものであったといわざるを得ない。しかし、原告らの議会傍聴の目的は、混入問題の新聞報道があった後、被告からこの問題にどのように対処するかの情報が得にくい中で、市の対応の状況を知ることにあったのであるから、いわば偶然の結果というべき市長ないし市に対する非礼の責任を原告らに負わせるのは酷というべきである。
記者会見における原告らの言動によると、主として甲が、被告が本件混入を指示したとか、本件混入について口止めした等、被告の不正を誇張して記者に伝達したことが窺われる。しかし、これも発言主体は甲であって原告らではなく、原告ら自身は記者会見に列席したにとどまるのであって積極的に上記誇張に加担したとまではいえないし、事実関係の主要部分である混入及び不正の利益については事実の伝達といわざるを得ない。そうすると、原告らの上記各行為は、いずれもいささか軽率な面があったものの、もとは混入を回避すべき体制を作って来なかった被告にも責任の一端があるというべきであり、この点をさしおいて、原告らのみが不利益を被ることは不均衡、不合理というほかなく、また新聞報道以来、結果的には被告の営業実態が是正、改善されたという面も否定できないのであるから、これを総合的にみても、解雇に処すべき非違行為があったとまでいうことはできない。
被告は、原告らの上記各行為が、被告が改善を実施した後のことであることや、原告らから被告に対し混載についての改善の申入れがなく、いきなりマスコミに訴えたことなどから、不正を糺すという原告らの主張の目的に疑義を挟むけれども、被告において対策を講じた後であっても、従前の混載の問題としては依然として会社の対応等が残っていた中での原告らの記者会見は、真相の解明や市民に対する説明という点で一定の役割を果たした点は否めないというべきである。
以上を総合すると、原告らに非違行為は認められず、また上記軽率な行為の点を服務規定違反と捉えるとしても、その程度や原告らの行為による効果等を勘案すると、本件懲戒解雇は懲戒権の濫用というべきであって無効であり、これと同旨の理由による本件普通解雇も少なくとも解雇権の濫用として無効とすべきである。
2 本件普通解雇が有効かどうか
原告らの議会傍聴及び記者会見の行為を問責する普通解雇の有効性については、上記のとおり、これを理由とする本件普通解雇は少なくとも解雇権の濫用として無効とすべきである。また、被告は、原告Aについて平成14年10月1日に違法なストライキを実施したこと及び同月15日に会社の指示に反したゴミ収集を行い、これを第三者にビデオ撮影させたとの理由でも本件普通解雇をしたので、この点につき検討する。
当該ストライキの実施自体の立証も不十分である上、仮に違法なストライキであったとしても、その後本件懲戒解雇に至るまでは何らの処分もしなかったのであるから、本訴において上記解雇理由を主張することは、信義則上も疑義があるといわざるを得ない。また、ゴミ収集の際、原告Aが撮影されていることを知っていたとの事情を窺うことはできるものの、撮影対象とされた行為自体をみると、当日のみ殊更不正な混合収集をしてそれをビデオに撮影させたものではなく、事実を歪曲したものとまではいえないし、撮影者との共謀までを推認するに足る証拠もない。したがって、原告Aに関する普通解雇理由はいずれも理由がない。
以上によると、被告の原告らに対する懲戒解雇及び普通解雇は、いずれもその効力を有さず、原告らはいずれも被告に対し労働契約上の地位にあるものというべきである。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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