判例データベース
工業技術専門学校私用メール懲戒解雇控訴事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 工業技術専門学校私用メール懲戒解雇控訴事件(パワハラ)
- 事件番号
- 福岡高裁 − 平成17年(ネ)第76号、福岡高裁 − 平成17年(ネ)第390号、福岡高裁 − 平成17年(ネ)第577号
- 当事者
- 控訴人(附帯被控訴人()学校法人K工業大学
被控訴人(附帯控訴人) - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年09月14日
- 判決決定区分
- 控訴認容・附帯控訴棄却(上告)
- 事件の概要
- 被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)は、控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)の経営する控訴人学校の自動車工学科進路指導課長であり、教師としても授業を担当していた。
被控訴人は、平成12年12月頃から、控訴人から貸与されたパソコンを使用して連日のように頻繁に私用メールを交わし、その後出会い系サイトで知り合った複数の女性とメールを交換するようになり、同サイトに登録するようになった外、平成14年5月及び6月には、複数の出会い系サイト等に登録した。更に被控訴人は、平成15年1月、本件メールアドレスを使用して新たに出会い系サイトに登録して、そこで出会った女性Bと連日のように何回もメールを交換した外、同年7、8月頃、SMパートナーの募集などの投稿をし、送受信中業務に関連するものはほとんどなかった。
控訴人は、平成15年8月6日、被控訴人の私的メールを知り、メールサーバーの調査をしたところ、上記のようなメールのやりとりを把握した。そこで同年9月4日、控訴人学校の校長と事務局長が被控訴人と面談して自主退職を勧め、パソコンを引き上げるとともに、同月8日、被控訴人に対し出勤停止の措置をとった。そして控訴人は懲戒委員会の議を経て、同月25日付けで被控訴人を懲戒解雇した。
これに対し被控訴人は、出会い系サイトに書込をしたこと等は事実だが、処分理由の資料が非開示とされ、弁明の機会が与えられず、他の事例と比べて処分が均衡を欠くことから、本件懲戒解雇処分は権利の濫用により無効であるとして、控訴人に対し、雇用契約上の地位の確認と未払の給与の支払いを請求した。
第1審では、控訴人による懲戒解雇は解雇権の濫用であって無効であるとして、被控訴人の雇用契約上の地位を確認するとともに、未払賃金及び未払賞与の請求を一部認容したため、控訴人はこれを不服として控訴し、被控訴人の請求を棄却する判決を求めるとともに、仮執行宣言に基づいて支払った金員の返還等を求めた。一方被控訴人は、原審が棄却した賞与についての支払いを求めて附帯控訴した。 - 主文
- 1 本件控訴に基づき、原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取り消す。
2 被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。
3 本件附帯控訴を棄却する。
4 被控訴人(附帯控訴人)は、控訴人(附帯被控訴人)に対し、995万0315円及びこれに対する平成17年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。 - 判決要旨
- 被控訴人が受送信したメールには性的な関係を持つことを露骨に求めるものは少なく、日常の出来事に関する雑談に類するような他愛もないものがほとんどであったとしても、被控訴人は、控訴人学校から貸与されたパソコンを使用し、本件メールアドレスを用いて平成12年12月18日頃からAとの間で私用メールのやりとりを繰り返し、その後も多数の出会い系サイトに登録し、同サイトで知り合った女性との間でメールのやりとりを繰り返していたものであり、その回数も、ハードディスクに保有されていたものだけでも、平成10年9月21日から平成15年9月3日までの間の受信記録は1650件余、平成11年5月18日から平成15年9月4日までの送信記録も1330件余にのぼっており、そのうちのA及び出会い系サイトでの受送信分も800件以上という膨大な件数に達していて、しかもその約半数程度が勤務時間内に受送信され、また被控訴人が控訴人学校からパソコンを引き上げた平成15年9月から夏休みを挟んだ同年6月中に限ってみても、同パソコンによる送受信メールは各100件ずつあり、しかもそのほとんどがBとの私的なメールのやり取りであって、業務に関するものはほとんどなく、連日のように複数回メールを送信し、その多くが勤務時間内に行われていたものであるなど、被控訴人の行っていた私用メールは、控訴人学校の服務規則に定める職責の遂行に専念すべき義務等に著しく反し、その程度も相当に重いものというほかない。
また被控訴人は、他愛のないメールの送受信に留まらず、その発信元が控訴人学校のパソコンであることを推知し得る本件メールアドレスを用い、しかも、複数のメール相手から控訴人学校のパソコンを使用することについて危惧を示されていたにもかかわらず、平成15年7月18日には、SMに興味がある女性にメールの送信を呼びかけるなど露骨に性的関係を求める内容のメールを送信し、しかも上記メールは同年9月16日まで削除されることなく第三者でも閲覧可能な状態にあったのであり、かかる被控訴人の行為は著しく軽率かつ不謹慎であるとともに、これにより控訴人学校の品位、体面及び名誉信用を傷つけるものというべきである。更に被控訴人は、Bとはメールのやり取りにとどまらず、私用メールで出張の際に会うための打合せをし、実際に食事を共にするなどしていたものであり、かかる被控訴人の行為も、同様に控訴人学校における職責を怠り、その名誉を傷つけるものとして軽視することはできない。
これに対し被控訴人は、本件投稿に基づくメールのやり取りは、SM業者との間の送受信が数回あるに過ぎず、メール相手先の女性と交際はしていないこと、学生に対する授業や就職関係の事務を疎かにしたことはないこと、控訴人学校にはパソコン使用規程がなく、他の職員もこれを少なからず私的に利用していたこと、同僚も寛大な処分を求めていること、本件懲戒解雇に当たっては被控訴人等に対し関係資料が開示されず、弁明の機会も与えられなかったこと、本件懲戒解雇は均衡を失する不公平、不公正なものであり、過去に校長の着任に異議を唱えたことに対する報復であること等を主張する。しかし、被控訴人は、控訴人学校のものであることを推知し得る本件アドレスを用いてSMの相手を求める旨の内容のメールを送信していたものであり、かかるメールが第三者に閲覧可能な状態に置かれただけで控訴人学校の名誉等を傷つけ得るものであって、このことは、上記メールを通じて被控訴人が現実に交際したか否かとは関わりのないところであるし、控訴人との雇用契約に基づき、被控訴人は勤務時間中、控訴人学校の職務に専念すべき義務を負っていたものと認められるにもかかわらず、被控訴人は長期間にわたり、膨大な量の私用メールを勤務時間中に送受信していたものであり、その分の時間と労力を本来の職務に充てれば、より一層の成果が得られたはずであって、かかる職務専念義務を軽視し得ないほどに怠っておきながら、事務を疎かにしなかったなどということはできない。
また、勤務時間中、職務に用いるために貸与されたパソコンを用いた私用メールのやり取りを長期間にわたり、かつ膨大な回数にわたって続けることが許容されるはずがないことは誰にでもわかる自明のことであって、控訴人学校がパソコンの使用規程を設けていたか否かによって、その背信性の程度を異にするものということはできないし、被控訴人以外の職員の中に、被控訴人に匹敵するほどに私用メールを繰り返していたことを窺わせる証拠はなく、仮にかかる行為を行っていた者が他にいたとしても、控訴人がその事実を把握していながら、被控訴人に限って処分をしていたことを窺わせる証拠もない。
更に、被控訴人は本件処分以前に減給処分を受けたことがあり、再度非違行為を繰り返せば更に重い処分を課されるであろうことは十分にわかっていたはずであり、また、被控訴人は、私用メールの相手から控訴人学校のパソコンで私用メールをして大丈夫なのかと2度にわたって指摘されていたにもかかわらず、それ以降も同様のメールの受送信を繰り返した上、不正行為が発覚した後も、本件出勤停止措置が採られるまでの間、事情聴取した上司に対して謝罪や反省の弁を述べることもなかったのであり、その後に謝罪文を提出し、同僚が嘆願を求めるなどしていたとしても、そのことを殊更に重視することはできない。また、本件懲戒解雇が過去の被控訴人の行為に対する報復と認めるに足りる証拠はない上、被控訴人の非違行為の程度及び被控訴人が教育者たる立場にあったことからすれば、本件懲戒解雇は誠にやむを得ないものであって、これが不当に苛酷ということもできない。
以上によれば、本件懲戒解雇は相当であり、これが権利の濫用として許されないものということはできない。よって、原判決中の控訴人敗訴の部分を取り消して、被控訴人の請求を棄却するとともに、本件附帯控訴には理由がないからこれを棄却し、原判決の仮執行宣言に基づき、控訴人が被控訴人に対し、995万0315円を支払ったことが認められるから、被控訴人に対し、その支払いを命ずることとする。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例903号68頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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福岡地裁久留米支部 − 平成15年(ワ)第375号 | 一部認容、一部棄却 | 2004年12月17日 |
福岡高裁 − 平成17年(ネ)第76号、福岡高裁 − 平成17年(ネ)第390号、福岡高裁 − 平成17年(ネ)第577号 | 控訴認容・附帯控訴棄却(上告) | 2005年09月14日 |