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G社派遣管理人解雇事件(パワハラ、派遣)

事件の分類
解雇
事件名
G社派遣管理人解雇事件(パワハラ、派遣)
事件番号
大阪地裁 − 平成21年(ワ)第16408号
当事者
原告 個人1名
被告 建物管理会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2011年01月27日
判決決定区分
一部認容、一部棄却(控訴)
事件の概要
被告は、委託を受けてマンション管理等を業とする株式会社で、原告は平成16年8月頃、マンション管理人として被告に雇用された者である。原告は、被告がB社から管理の委託を受けていたAマンションの住込み管理人として稼働していたところ、その職務の遂行に当たってB社から直接指揮監督を受けていたため、被告は大阪労働局から、実態としては請負ではなく派遣であるとして指導を受けたりした。そこで被告は、平成20年4月12日、原告に対し文書でB社への転籍を申し入れたが、原告は不安定雇用になることを理由にこれを拒否した。原告は管理職ユニオン(組合)に加入し、被告と組合との間で同年5月、6月に4回にわたって団交が行われ、原告はAマンションでの勤務を求めたが、被告はこれを拒否して合意に至らなかったため、被告は同年7月に府労委に対しあっせん申立を行い、本件確認書による合意をした。

被告は原告に対し、同年10月17日、21日、28日、同年11月4日、7日に「清掃の知識の修得」を目的とする研修(本件1研修)を命じた。原告が同研修に欠席したことから、被告は、本件1研修を命じた各日を含め、診断書に記載された期間を欠勤として賃金を減額し、同年12月から平成21年6月までの期間についても、欠勤に応じた賃金の減額措置をとった。被告は原告に対し、平成21年1月22日に管理員研修を命じたが、原告が欠席したとして、同年2月分の賃金から精勤手当も併せて減額した。

被告は、原告に対し、同年3月13日、西宮市のCマンションで就労させることを前提とした同月18日から5週間の研修(本件2研修)を命じた。これに対し原告は、被告のこの措置に対し、同年3月18、19日の有給休暇の申請をしたところ、被告は休暇の時期を変更するよう命じ、原告がこれに従わずに休暇を取ったことから、2日間の賃金と皆勤手当を併せて減額した。また被告は、同年3月27日以降原告が欠勤を続けているとの認識で、原告の意思を確かめたいとして原告に出頭命令を出したが、原告がこれに応じなかったことから、同月23日、原告に対し、同年5月31日付けで本件解雇を行った。

これに対し原告は、本件解雇は解雇事由なく行われたもので無効であるとして、被告に対し、1)雇用契約上の地位にあることの確認、2)本件解雇以降の賃金の支払い及び3)本件解雇の意思表示までに研修を欠勤したこと等に伴う減額措置相当分の賃金の支払いを請求した。
主文
判決要旨
1 本件解雇が解雇権の濫用で無効か

被告のような従業員の就労場所についての多数を有する事業主との間で雇用契約を締結する場合、就労場所の決定については、雇用契約上、同場所について事業主との間で特段の合意でもしない限り、事業主にその決定権があると解するのが相当である。本件では、被告と原告との間で確認書による合意がなされているところ、同確認書では、原告と誠実に協議したり、原告の家庭事情を配慮することになっているが、最終的には就労場所の決定は被告において行うこととされている上、同文書が作成された経緯(従前、原告が就労場所の決定権等を持つと提案したことに対して被告がそれを拒絶したこと等)を総合すると、原告の就労場所の決定権、拒絶権は被告にあるというべきである。

被告は原告の就労場所について、遅くとも平成21年3月中旬頃Cマンションと決定しているところ、同決定に当たっては、事前に原告に説明し、別途労使間で誠実に協議することとし、加えて原告の家庭事情その他を尊重した上で行わなければならない義務があった。原告は、本件確認書による合意をした後、被告から同合意前に提示された物件について意見を述べたり、具体的に現地視察の申し出をしたりしたことが認められず、かえって被告から本件1研修命令が出された後は、就労場所を決めてから研修命令を出すべきである等と述べたりして、就労場所の確定に向けて自ら積極的に行動することがなかった。しかし、被告は、原告が上記のような対応であり、また被告から芦屋と西宮の各物件の現地視察を指示したことがあったものの、原告に対して当初提案した管理物件一覧表記載の5物件から芦屋と西宮の2物件に絞り込んだ経緯について、またCマンションに決定した経緯についても原告に対して具体的な説明をしていないし、また同現地視察をした後、Cマンションに決定するまでの間も原告に対して就労場所について話合いを要請することもなく、原告の就労場所の決定のため、原告の家族状況や被告の原告に提供できる管理物件(就労場所)について具体的な説明をしたことも認められない。

以上の事実を踏まえると、原告の就労場所をCマンションに決定した経緯には原告にも問題とすべき対応があるが、事前に原告に説明し、原告の意見を聞く等して、別途労使間で誠実に協議することとし、加えて原告の家庭事情その他を尊重した上決定したとは認められない。

被告は、原告の就労場所としてCマンションと決定しているが、同決定は本件確認書の義務に違反した行為であって、違法無効といわなければならず、同決定の瑕疵の重大性からして、それを前提とする被告の原告に対する本件2研修命令は違法といわなければならない。そうすると、原告が同研修命令に反して欠勤したとしても、それをもって直ちに違法とまでいうことはできない。また原告は、同研修命令で命じられた期間以降もCマンション等に出勤することがなかったが、同研修命令が違法であることからすると、同出勤しなかったことをもって欠勤ということはできない。被告は原告が本件2研修命令に従わず、1ヶ月に7日以上無断欠勤したとして本件解雇を行ったが、同解雇は解雇権の濫用というべきで、無効といわなければならない。

2 本件減額措置が無効か

被告は、原告の就労場所が確定しない限り、休業期間中、清掃業務も含めて原告に対して研修命令を命じることができないとまではいえず、かえって、同休業期間中といえども管理員業務に必要な研修を命じることができると解するのが相当である。

被告が原告に命じた清掃業務に関する研修の機会は、その変更等が認められないものでないことが窺われ、また有給休暇取得可能な日が残っている従業員が欠勤申し出をする場合、通常、同欠勤をもって有給休暇日に充てる旨の意思を有していることが多い。以上の事実に、平成20年10月当時、原告には20日程度の有給休暇日が残っていたこと、原告と被告との間には本件確認書による合意がなされる等、円満とはいえない状況であったことを総合すると、被告は殊更原告からの有給休暇取得の申し出がなかったとしても、原告にその取得の有無を確認した上、原告から特段の意思表明がなされた場合の他は、同欠勤申出日をもって有給休暇日として扱うのが相当である。

原告は、本件1研修命令を受けた際、各研修日については体調不良のため欠勤する旨の申入れをして診断書の提出をし、また同年11月7日の研修日についても体調不良のため欠勤する旨の申入れをして診断書の提出とともに同日については有給休暇の申出をしているところ、同日については有給取得をするかどうか確認されることはなかった。以上の事実を踏まえると、各欠勤日のうち、原告からの有給休暇の申出がない日を含めて、同申出がない日も有給休暇の申請があった場合と同様に扱い、また同申出があった日は同申出に基づいて有給休暇日とするのが相当である。

被告は、同研修命令を命じた日を超えて原告から提出された診断書に記載された日数も含めて欠勤したとして減額措置をとっている。仮に診断書に記載された日のうち、研修日を除いた日について欠勤となったとしても、同各日についても有給休暇の取得を考慮することが必要であることを踏まえると、同診断書の「気管支炎で4日間の自宅療養を要する」との記載等を前提とする同欠勤、減額の取扱いは認められない。原告は、平成21年1月22日の管理員の研修会に事前に連絡なく欠勤しているところ、同欠勤は業務命令に反する無断欠勤であり、有給休暇をもって充てることはできないから、同日の減額措置は正当といわなければならない。

本件2研修命令は違法であり、したがって、原告が同研修命令に違反して欠勤したとしても、それをもって直ちに違法とまでいうことはできない。そうすると、同欠勤をもって減額措置をとることはできないから、被告の同研修命令を基礎とする賃金減額措置は違法で、無効といわなければならない。

以上によれば、被告の減額措置のうち、平成21年2月分の減額措置のうち、同年1月22日の欠勤分について減額した措置は相当であって、それ以外の措置は理由がないといわなければならない。
適用法規・条文
労働契約法16条、労働組合法7条
収録文献(出典)
労働判例1026号172頁
その他特記事項
本件は控訴された。