判例データベース

N社SE解雇事件(パワハラ)

事件の分類
解雇
事件名
N社SE解雇事件(パワハラ)
事件番号
東京地裁 − 平成14年(ワ)第25472号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2003年12月22日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
被告は建設コンサルタント業を営む会社であり、原告は昭和54年に大学工学部を卒業し、約13年間のソフトウェア技術者として勤務した後、平成4年3月、被告にSEとして雇用された者である。原告は入社後、被告の総務本部企画管理部管理課に配属され、組織変更により同課が分かれた際、会計システム課に配属され、平成12年3月31日まで、SEとして財務・会計システムの運用に関わる業務に従事していた。

原告は、会計課に在籍した8年間、社内各部署からの問合わせ業務等を担当したが、顧客への連絡業務に対するクレームや、社内からの問い合わせ業務に対する苦情があった外、システムの機能追加業務において、開発プログラムの納品検収後にシステムの内容が全く機能しない事態が生じたが、原告は対策を講じることができなかった。また原告は、新システムの次期開発作業プロジェクトに参加したが、具体的な改善策を提案する企画書を提出することはできなかった。更に原告は、女性上司Aに対し反抗的な態度をとり、平成4年9月頃にはAからの注意・指導に対し、「あんたに言われる筋合いはない」と発言するなど、反発の態度が顕著になり、また、周囲が自分に情報をくれない、システムを理解する環境が与えられていないなど、周囲の環境に全て責任転嫁する態度をとっていた。

平成12年4月の組織替えに伴い、原告は同年7月1日に情報管理資料センター(大阪支所)に、平成13年7月1日付けで東京本社資料センターに配置換えとなった。被告は原告に対し、本社資料センターでの業務の他に、別途業務進捗報告書を作成し、原告に「仕事への取組み姿勢」及び「業務遂行能力」の向上が見られないと会社が判断した場合は、会社は最終的な処遇を決定し、原告はいかなる会社の決定にも従うことを約束する、その判断時期は平成14年1月とする旨通知し、原告はこれを了承して署名押印した。しかし原告は、2度にわたる評価の機会を与えられながら、業績成果を提供するに至らなかったことから、結局、平成14年6月、G人事企画課長が原告に対し、評価結果の通知と業務中止命令の内容を説明し、原告も業務成果として要求に応えていないことを確認し、業務中止命令に同意した。

そこで被告は、原告の業務遂行能力、コミュニケーション不足及び自己解決能力が今後改善される見込みはないと判断し、このような原告の勤務成績・勤務態度は、就業規則59条3号(職務に誠意なく勤務状況著しく不良の場合)、同条2号(職員としての適格性を欠く場合)に該当するとして、同年7月12日、原告に対し同日付けの解雇を通告した。

これに対し原告は、解雇事由がなく、本件解雇は解雇権の濫用に当たるとして、被告に対し、労働契約上の地位の確認と解雇後の賃金の支払を請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 就業規則における解雇事由の該当性

原告は、被告からコンピューター技術者としての豊富な経験と高度の技術能力を有することを前提に、被告の会計システムの運用・開発の即戦力となり、就中将来は当該部門を背負って立つことをも期待されてSEとして中途採用されたにもかかわらず、約8年間の同部門在籍中、日常業務に満足に従事できないばかりか、特に命じられた業務についても期待された結果を出せなかった上、直属の上司であるAの指示に対し反抗的な態度を示した。そして、人事部門の監督と助力の下にやり直しの機会を与えられたにもかかわらず、これも会計システム課在籍中と同様の経過に終わり、従前の原告に対する評価が正しかったこと、それが容易に改善されないことを確認する結果となった。このように、原告は、単に技術・能力・適格性が期待されたレベルに達しないというのではなく、著しく劣っていてその職務の遂行に支障を生じており、かつ、それは簡単に矯正することができない持続性を有する原告の性向に起因していると認められるから、被告就業規則59条3号及び2号に該当するといえる。

2 勤務成績不良の原因と改善可能性

SEは、システムを構築し運用(保守、改善)をする職務であり、コンピューター化を要する業務の分析をし、よりよい処理・合理的なアルゴリズム(問題を解決するために明確に定義された有限個の規則、手順の集まり)を考え、基本となるシステムを設計し、更に細かい設計をする。したがって、SEは、ある業務のコンピューター化を命じられた場合、これらを自ら分析し処理方法を考え、その過程で必要な情報を選択して入手しながら作業を進め、また、SEにおいて、一長一短のある複数の方法があり得る場合や、関連業務との一括処理や逆に一部の業務を除外することが合理的と判断した場合などは、システム構築を指示した者に対し、自分からその利害得失を説明して判断を求める必要があり、指示した者からSEに対し、逐一事細かにいかなる手段・方法で作業を進めるべきかを指示し、それに必要な情報を選択して提供すべきものではない。

原告にはこのような主体的・積極的に情報を入手し、問題点を発見し、これを解決しようとする姿勢に欠け、更には指示した者に自ら状況を説明して検討を求めるなどの働きかけもなかったというべきである。そして、これが最後の機会であるとして与えられた評価業務であり、しかもGが、人事企画課長という中立の立場から、平成12年5月以降原告に対し原告に問題があることを指摘した上で報告・連絡・相談の重要性を再三再四にわたって指導し、また原告と上司との間で十分な確認・調整が行われるよう種々配慮した上でのことであったことからすると、それ以前の会計システム課においても同様の姿勢であったことから、業績を上げることができなかったものと推認できる。そして、このような長期にわたる成績不良や恒常的な人間関係のトラブルは、原告の成績不良の原因は被告の社員として期待された適格性と原告の素質、能力等が適合しないことによるもので、被告の改善教育によっては改善の余地がないことを推認させる。

原告は、大阪資料センターへの配置換えが不当な措置であること、同センター勤務時の勤務評価は誤っていること、被告は、再評価の期間中、参事の超過勤務手当に相当する「特別管理料」を支給しなかったこと、作業内容を一方的に拡大したり検討条件を二転三転させたことなどを主張する。しかし、原告が指摘するものは、いずれも、本来は原告において適切に作業を進めるべきところ、G課長が人事管理部門の立場で中立公正を保とうとし、また従来の経緯を踏まえて、原告に対し詳しい指導がなされるよう意思疎通の場を設定するなどの配慮をしたにもかかわらず、原告が自ら主体的・積極的に作業を進めるべきSEの役割を理解せず、これらの機会を活用しなかったことに主たる原因があり、いちいち指示を受けることを前提に被告に落ち度があるとするのは正当ではないから、これに関する原告の主張は採用できない。
適用法規・条文
民法95条、96条1項
収録文献(出典)
労働判例871号91頁
その他特記事項
本件は控訴された。