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P社非定型精神病患者懲戒解雇控訴事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- P社非定型精神病患者懲戒解雇控訴事件(パワハラ)
- 事件番号
- 大阪高裁 − 平成22年(ネ)第241号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年06月09日
- 判決決定区分
- 控訴棄却
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審被告)は、食肉加工製造及び販売等を業とする株式会社であり、控訴人(第1審原告)は昭和56年1月に被控訴人の社員となった者である。控訴人は、平成4月、非定型精神病で精神科に入院し、その後薬物治療を受けていたが、平成9年12月15日に終診となった。控訴人は得意先の評判が悪かったため、対人折衝がない業務として、平成7年4月に被控訴人の子会社F社に出向し、商品の積込みや倉庫業務を担当した。控訴人は、平成13年5月18日、Tの胸を手拳で殴打し、Tに5日間の治療を要する打撲傷害を与え、事情聴取を受けた際、反省と謝罪の意を記載した誓約書を提出し、同年7月23日から7日間の出勤停止処分を受けた。
控訴人は、平成14年5月20日、ロッカー室で着替えをしていた際、同僚のSが入室したことに腹を立て、ドア、壁、製品を蹴った外、仕分け中のチャックリブ(牛肩バラ肉)の入った発砲スチロール製の箱を手拳で殴り、5箱を破損させて使えなくし、発送準備としてパレット毎に仕分けされていた商品を入れ替えて仕分け作業を阻害し、チルド剥きタンを倉庫から無断で持ち出して近くの公園に放置した(本件行為)。被告は、同年6月7日、人事部長が控訴人から事情聴取し、自宅待機を言い渡し、更に同月24日付けで控訴人を懲戒解雇し、就業規則に基づき退職金を不支給とした。
控訴人は、非定型精神病に罹患したのは、昭和60年頃からの上司や同僚らからのいじめが原因であること、本件行為による被控訴人の損害額は少額であること、本件行為に至ったのは作業妨害を受けたことによるものであること等を主張し、本件解雇は解雇権の濫用として無効であるとして、退職金の支払いを請求した。
第1審では、本件解雇の有効性を認め、退職金の不支給を正当と認めたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 当裁判所も、原審と同様に、1)本件懲戒解雇が控訴人にとって過酷であり、社会通念上相当性を欠くということはできないから、有効である、2)本件行為は、控訴人の勤続の功を抹消するに足りる著しく信義に反する行為であり、控訴人に対する退職金の不支給は権利の濫用に当たらないと判断するものである。
控訴人は、当時非定型精神病により精神に異常を来していた旨主張している。しかしながら、控訴人は、被控訴人から懲戒解雇された後の平成17年7月頃に再び非定型精神病で入院し、その後も通院治療を受け、平成19年7月頃には障害等級3級13号の認定を受けているのであるから、控訴人の本訴における本件行為の動機についての供述の内容が正確なものであるか疑問があるところである。
あるいは、控訴人は、原審で、当初から本件懲戒解雇の無効事由として「非定型精神病の影響により正常な判断能力を喪失した状態で本件行為を行ったものであり、故意に本件行為を行ったものではない。」と主張していたことから、原審での控訴人本人尋問でも、同主張事実をことさらに強調するために、本件行為の動機について、理解不可能な内容の供述をした可能性も否定することはできない。したがって、控訴人の本人尋問における上記記述内容のみから、控訴人が本件行為当時、是非弁別の判断能力も欠いていたとまで即断できるものではない。そして、原審で認定したとおり、控訴人は本件行為当時、是非弁別の判断能力を有していたと認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 労働基準法37条、114条
- 収録文献(出典)
- 判例タイムズ1352号173頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
大阪地裁堺支部 − 平成19年(ワ)第2025号 | 棄却(控訴) | 2009年12月22日 |
大阪高裁 − 平成22年(ネ)第241号 | 控訴棄却 | 2010年06月09日 |