判例データベース
全国農業協同組合連合会整理解雇・雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 全国農業協同組合連合会整理解雇・雇止事件
- 事件番号
- 宇都宮地裁 − 平成22年(ヨ)第30号
- 当事者
- 債権者
個人5名
A、B、C、D、E
債務者
全国農業協同組合連合会 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2011年07月13日
- 判決決定区分
- 却下
- 事件の概要
- 債務者は、会員又は会員の組合員の農業の経営及び技術の向上に関する指導等を行う法人であり、債権者らは、栃木県本部で家庭薬配置業務に従事していた配置員である。このうち、債権者Aは平成8年8月15日、同Bは平成12年3月1日、同Cは平成18年2月21日、同Dは同年9月4日に期間の定めのない労働契約を、同Eは平成19年10月1日、契約期間を6ヶ月と定めた労働契約を締結した。債権者Eと債務者との間の労働契約は、平成20年4月1日、同年10月1日、平成21年4月1日、同年10月1日の合計4回更新された。配置員は、平成19年2月以降に採用されたものについては、全て6ヶ月間の期間の定めのある労働契約が締結されていた。
債務者は、かねてから組織のスリム化に取り組んでいたところ、債務者の子会社に助成金の不正受給があったことから、平成17年10月の農林水産省からの業務改善命令を受け、不祥事の再発防止に向けた改善計画の一つとして、平成22年度末までの5年間で債務者グループ職員2万5000人を5000人削減することを目標に取り組んだ。
栃木県本部は、平成22年4月1日をもって、家庭薬配置事業を全農Kに移管することとし、平成21年11月11日から30日までの間希望退職を募集し、全農Kへの転籍を希望する者には退職の手続きを進めることとし、配置員24名に対し個人面談を行った。同年12月1日、栃木県本部において労働組合が結成され、転籍先の労働条件の書面による明確化、転籍を希望しない労働者についての雇用の継続などを求め、団体交渉が行われた。栃木県支部は、平成22年2月、転籍者については要領で定めた転籍加算金のほかに、全農Kとの年収差額の3年分の補填を、希望退職者については、要領で定めた希望退職加算金のほかに、平成21年11月から1年間の平均賃金の180日分の加算を新たに提案し、期限までに転籍にも希望退職にも応じなかった場合には雇用継続はできないこと、債権者Eについては労働契約の更新はできないことを回答をした。
債権者A、同B、同C及び同Dは、期限までに転籍にも希望退職にも応じず、債務者から平成22年3月1日付け解雇予告通知書により、同月31日をもって解雇する旨通知された(本件解雇)。また債権者Eは、同年3月31日の契約期間満了をもって労働契約を終了する旨通知された(本件雇止め)。
債権者らは、転籍や退職勧奨に応じる義務もないのに、債務者は転籍か希望退職かの二者択一を迫ったものであり、これらに応じなかったことを理由とする本件解雇は、嘱託規則に定める「やむを得ない会社の都合によるとき」に該当せず、また整理解雇としても社会通念上相当とはいえないから、解雇権の濫用として無効であるとして、地位の保全を求めた。また債権者Eについては、その業務が他の債権者と全く同様の恒常的なものであり、更新の手続きも形式的なものであって、更新の回数も4回、通算期間は2年6ヶ月にも及んだから、継続雇用を期待するのに十分であり、本件雇止めは解雇権の濫用に当たり無効であるとして、同様に地位の保全を求めた。 - 主文
- 1 債権者らの申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者らの負担とする。 - 判決要旨
- 栃木県本部を含む債務者グループが、組織のスリム化と総人件費の抑制を目標とする計画を実施する中、栃木県本部においては家庭薬配置事業の実績が年々低迷していたという客観的事情が認められ、同本部の家庭薬配置事業を他の会社に移管することには合理性があったということができる。そして、家庭薬配置業務に従事する配置員の業務内容及び労働条件は正職員と異なるものであったことに鑑みると、事業の移管に伴いその事業に関わる配置員を人員削減の対象とする必要性もあったということができる。もっとも、配置員にとって整理解雇は職業生活に多大な影響を及ぼすものであるから、整理解雇が有効であるためには整理解雇回避の努力と公正な手続きが必要であるところ、本件においては、家庭薬事業配置員24名全員が整理解雇の対象となり、全員について転籍及び退職勧奨がされるとともに転職加算金や希望退職加算金の補償措置も併せて執られたこと、上記24名中18名が転籍に合意した後、転籍に同意しない債権者ら外1名に対し、再度の個人面談の機会が設けられたほか、債権者らが結成した組合との団体交渉が行われる中で、債務者から転籍加算金や希望退職加算金の上乗せの措置が執られたことが認められる。
この点債権者らは、全農Kに転籍した場合の賃金その他の労働条件について大きな不利益を被るにもかかわらず、転籍先の情報提供は不十分であった上、在籍出向や配置転換の措置の可否について十分な検討や説明がされなかったと主張する。そこで検討するに、栃木県本部から全農Kに転籍した16名について、転籍前後の給与額について比較すると、概ね転籍前より10%程度給与の水準が下がることが認められる。そうすると、債権者らが転籍した場合、労働条件面で不利益を受けることが見込まれ、債務者と全農Kとは別法人で賃金体系が異なることから、更なる不利益を受ける可能性もある。しかし、他方、賃金体系が異なることによって債権者らにとって有利な部分もあるところであり、また債務者は本件解雇によって雇用を継続できなくなることを回避するために債権者らに対し執った転籍に伴う措置については、債権者らが結成した団体交渉の過程において、当初の転籍加算金に加えて、全農Kと栃木県本部の年収差額の3年分の補填など、転籍に伴って債権者らが受ける給与面の不利益を補償する措置も執られていたものである。そして、上記補償措置の内容及び経過を踏まえると、債権者らにおいて補償措置の内容や債務者の交渉態度に納得できないものがあるとしても、債務者の執った解雇回避の措置が整理解雇の効力に影響を及ぼす程度に不十分なものであったということはできず、債務者が転籍以外に在籍出向、配置転換その他の措置を実施しなかったことが当裁判所の上記判断を左右するものではない。したがって、債権者らの主張は採用できない。
以上によれば、本件解雇が、人員削減の必要性や債務者が執った解雇回避の措置等の観点から客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないとまでいうことはできず、解雇権の濫用に当たるということはできない。
債権者Eと債務者との間の労働契約は、これまで60歳以上の再雇用者を対象に6ヶ月間の期間の定めのある労働契約が締結されていたものが、平成19年2月以降は新規採用者全てが対象とされるようになった後に締結されたものであること、労働契約は合計4回更新されたこと、契約の更新は、「契約期間満了時の業務量、労働者の勤務成績・態度・労働者の能力、会の経営状況、従事している業務の進捗状況」のいずれかにより判断するとの旨が定められていたことが認められ、以上の債権者Eの採用の経緯、更新回数、通算期間に照らすと、債権者Eの労働契約が期間の定めのないものに転化していたということはできず、債権者Eについての契約更新の実態を踏まえても、雇用継続に対する債権者Eの期待が合理的であったことを疎明するに足りる的確な証拠はないから、本件雇止めについて解雇権の濫用法理の類推適用を認めることはできない。
よって、本件申立は、被保全権利の疎明がないからいずれも却下することとする。 - 適用法規・条文
- 民法629条1項、709条、国家賠償法1条1項
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2108号3頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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