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鉄道会社(森ノ宮電車区・日勤教育等)事件(パワハラ)

事件の分類
職場でのいじめ・嫌がらせ
事件名
鉄道会社(森ノ宮電車区・日勤教育等)事件(パワハラ)
事件番号
大阪地裁 − 平成17年(ワ)第11051号
当事者
原告個人4名A、B、C、D
鉄道会社労働組合(原告組合)
鉄道会社労働組合近畿地方本部(原告近畿地本)
被告 鉄道会社会社(被告会社)
個人2名甲、乙
業種
運輸通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2007年09月19日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(控訴)
事件の概要
被告会社は、国鉄が昭和62年4月1日に分割・民営化されたのに伴い、西日本地域において旅客鉄道輸送を業とする株式会社として発足したものであり、被告乙は平成15年6月1日から平成18年5月31日までの間、被告会社森ノ宮電車区区長の地位にあった者、被告甲は平成14年7月1日から平成17年6月30日までの間、被告会社森ノ宮電車区首席助役として区長を補佐する地位にあった者である。一方、原告組合は鉄道会社西労組に所属していた組合員らが同労組から脱退して結成した労働組合、原告近畿地本は原告組合の地方本部の一つでその中の大阪支部の下部組織として森ノ宮電車区分会がある。原告Aらはいずれも原告組合の組合員であり、原告Aは昭和55年4月、同Bは昭和54年4月、同Cは昭和51年4月、同Dは昭和49年4月、それぞれ国鉄に採用され、国鉄の分割民営化によって設立された被告会社に採用され、森ノ宮電車区で勤務していた。

平成15年6月22日、原告Aは列車を運転して森ノ宮電車区を出発して運行していたところ、入換信号機が停止信号を示していたにもかかわらず、これを確認することなく漫然と運転し、ATSが作動し、非常停止した。このような場合、まず司令室に連絡し、指令員からの指示に基づきATSの復帰扱いと運転再開を行わなければならないのに、原告Aは指令員に連絡せずATSの復帰扱いを行い無断で所定の停車位置まで列車を後退させて「異常なし」と報告して正午頃帰宅した。その後原告Aは午後1時55分に職場に戻り、この件を当直係長に報告した。当直係長から報告を受けた被告乙は、同日原告から午後9時頃まで事情聴取したが、要領を得ず、翌23日にも事情聴取を行ったが、前日同様の繰り返しとなった。被告乙は、2日間の事情聴取の結果を踏まえ、同月23日付けで日勤教育を行うことし、これを原告Aに通告し、1)意識面での教育、2)ATSの基礎的な知識等の教育、3)運転取扱いに関する全般的な教育について指導担当に指示した。日勤教育は、同月23日からレポートの作成を命じられ、同年7月4日から5日間、更に3日間の追加と6日間の教育、同年8月14日から確認試験が実施されたが合格に至らず、再試験を行った後更に3日間教育を行い、同年9月3日に日勤教育は終了した。原告Aは、同年6月25日、翌26、27日に年休を申請して時季変更権を行使されたが、体調不良により両日は年休を取得した。結局、日勤教育は、同年6月23日から9月3日までの73日間のうち休日を除く45日間につき行われた。

また、平成16年2月20日、G指導役は原告Aが乗務する列車に裏面乗車し、原告Aが基本動作である指頭確認喚呼を実施していないことを確認し、この報告を受けた被告乙は同月26日から原告Aに日勤教育を実施した。また、原告Aについては、同年10月頃、便乗運転士との間で意思疎通がなされていないとして被告甲から注意を受け、平成17年2月3日、運転状況の確認喚呼を怠ったまま列車を発車させたことから、被告乙は同月4日から7日まで日勤教育を実施した。

平成16年4月26日、原告Bは放出派出所構内において列車の入換え作業に従事していたところ、線路上に茶褐色の固まりを発見し急ブレーキをかけたところ、停車寸前になってそれが雀であることが判明し、無線で「雀が進路妨害をした」と連絡した。同月30日、原告Bは被告乙から事情聴取を受け、顛末書を提出した上、同日から同年5月26日までの間のうち12日間日勤教育を受け、天井の清掃、除草等の作業に従事した。更に原告Bは、同年6月1日、見習い勤務に配転された。

平成14年10月23日、原告Cは原告Bらとともに、パンタグラフの検査を行っていたところ、原告Bが車両の屋根の上に、架線から吊り下げるハンガーが乗っているのを発見し、原告Cに報告したが、原告Cは当直等へ報告することなく。そのまま車両検査を続けた。原告Cはこの件で被告甲から反省文を求められ、平成15年3月31日、口頭厳重注意を受けた。また原告Cは、平成14年8月6日、木製の手歯止めを取り外さずに車両を移動させて手歯止めを割損したのにこれを隠蔽し、平成15年3月14日、代務として信号担務をした際、離席し、平成16年4月22日、車両屋根上クーラーの修繕作業に用いた工具を忘れ、平成16年9月14日、テコ扱いの業務に従事していた際、テコ扱いに遅れて電車の出区時刻を遅らせるなどの行為を行い、謝罪を求められるなどした。

これに対し原告A、同B及び同Cは、被告らの行った日勤教育、注意、叱責等はいずれも正当な理由なく行われたもので、同原告らはこれによって著しい精神的苦痛を被ったとして、原告それぞれに対し慰謝料200万円、弁護士費用20万円の支払を請求した。

また、原告D及び原告組合及び原告地本は、配管工事に伴って被告会社が掲示板を一時的に移転したことの必要性は認めるにしても、新掲示板は縮小されたこと、見やすさの点で見劣りする場所に移転したことは支配介入に当たること、原告組合がの掲示物が「会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、事実に反し、又は職場規律を乱すものであってはならない」との規定に違反するとこは、会社は掲示物を撤去することができるとの労働協約の定めに基づいて会社が掲示物を撤去したことは不当労働行為に当たるとして、被告らが原告D、原告組合、原告近畿地本それぞれに対し、慰謝料100万円、弁護士費用10万円を支払うよう請求した。
主文
1 被告らは、原告Bに対し、連帯して15万円及びこれに対する、被告会社については平成17年11月29日から、被告甲については平成17年11月27日から、被告乙については平成17年12月14日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

2 被告らは、原告近畿地本に対し、連帯して3万円及びこれに対する、被告会社については平成17年11月29日から、被告甲については平成17年11月27日から、被告乙については平成17年12月14日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3 原告B及び同近畿地本のその余の請求をいずれも棄却する。

4 原告A、同C、同D及び同組合の請求をいずれも棄却する。

5 訴訟費用は、別紙訴訟費用負担表記載のとおりの負担とする。

6 この判決は、1、2項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 原告Aに対する措置等の違法性について

(1)平成15年6月23日からの日勤教育について

被告乙は、ATS作動の件の報告を受けると、直ちに原告Aを呼び出し、ATS作動の件が発生するに至るまでの経緯と原因、報告が遅れた理由等について、詳細な事情聴取を行っている。記憶が鮮明なうちに経緯の詳細を聴取することは、事案の正確な把握と原因究明に資し、原告Aに対する教育の要否、目標、内容等を決するためにも不可欠であって、そのこと自体を違法というには当たらない。この事情聴取が2日に及び、1日目は約3時間、2日目も2時間余りという長時間に及んだのは、原告Aの説明が要領を得ず、その時々で異なる答をし、矛盾を指摘されると黙り込んでしまうなどしたためということができる。被告乙が、かかる原告Aの対応に業を煮やして、同じ趣旨の質問を繰り返したり、語気を強めたことがあったにせよ、その程度のことは、質問の態様として通常許される範囲内のものというべきである。他方、被告乙が、罵声を浴びせたり、大声で怒鳴りつけたり、原告Aを侮辱するなどしたという事実を認めるに足りる証拠はない。途中休憩を挟むことなく2時間ないし3時間に及ぶ事情聴取が続けられたことは、相当とは言い難いものの、事情聴取が長時間に及んだ原因は専ら原告Aにあるということができる上、原告Aが休憩を求めたのにこれを拒否したという事情もないことに鑑みれば、休憩を与えなかたことが違法とまでいうことはできない。

ATS作動の件は、信号機を確認せず漫然と列車を運行させた点、指令員の指示を受けることなく無断でATSの復帰扱いをし、列車を後退させた点、発生した事象を直ちに報告しなかったばかりか、事実を隠して「異常なし」と報告した点において、いずれも重大事故に繋がりかねない過ちであり、列車の運行の安全上看過できない問題ということができる。加えて、原告Aは、以前にも、昭和63年5月に須磨駅で停止位置を間違え、平成6年8月に米原駅でATS−P解散を行う際の操作を誤り、列車を起動できずに16分間遅らせ、平成6年9月に六甲道駅で停車位置を60m行き過ぎ、平成7年11月に御着駅で停止位置を250m行き過ぎ、平成9年2月に向日町操車場で回送列車を運行する際、別の列車の時刻表を立てて運転したため4分早く発車させるという事故を起こしていることが認められる。最終の事故から6年経過後の事故とはいえ、これまでの事故歴の多さと、ATS作動の件自体が有する重大性・危険性に鑑みれば、原告Aに対して、再発防止に向けた教育を行う必要性を認めることができる。そして、被告乙が原告Aを日勤教育に指定したのは平成15年6月23日の事情聴取を終えてからと認められ、日勤教育を指定した経緯に何ら違法な点はない。

日勤教育の内容はレポートの作成に終始したものではなく、またレポートの課題は、ATS作動の件を発生させるに至った過程を振り返り、その原因を究明するとともに、禁止事項や安全運転に対する意識を高めさせることを目的として設定されたということができ、再教育の手段として一応の合理性を認めることができる。原告Aがレポートの作成を命じられた場所は、内勤室の一角であり、乗務員出入り口から見える場所であったと認められ、そこで勤務していれば日勤教育に指定されたことが他の従業員にも知られてしまう事態は容易に推測できるけれども、日勤教育の指定は、日勤教育を受ける場合に限らないことからすれば、このことをもって、さらし者のような違法な扱いがなされたとは言い難い。原告Aは、当該日勤教育期間中に、管理者から怒鳴られ、このままでは乗務できないなどと言われた旨主張するが、原告Aは、ATSや運転取扱実施基準規程に関する知悉度試験に2度落ち、出区点検の試験にも2回落ちていることからすれば、このままでは乗務させられない等の発言をもって違法ということはできない。トイレに立つ際には一言断ってから行くように指導していたことは、被告らも認めるところではあるが、教育期間中であることを考えれば、むしろ当然の措置ということができる。当該日勤教育の期間について、原告Aは予め期間が明らかにされないまま、実勤務日数だけでも45日間もの長期にわたったことは違法と主張する。しかし、この間、区切り毎に知悉度試験等を実施し、その成績に応じて再教育を実施するなどの対応がなされており、結果として日勤教育が長期に及んだのは、知悉度試験の成績が上がらず、シミュレーターを利用した確認試験の際に、ATS作動の件と全く同じ禁止事項違反を犯すなど、原告自身に問題が残っていたというべきであり、原告Aの日勤教育が長期に及んだのは、客観的な根拠に基づく合理的な理由があったということができる。

被告乙は、日勤教育期間中、原告Aからの年休申請に対し、時季変更権を行使したことが認められるが、日勤教育の趣旨・目的と当時の進捗状況に照らして合理性が認められ、しかもその後、被告乙は原告Aの申請通り長期の年休を認めている。したがって、年休の申し出に対する被告らの対応には違法な点はない。被告乙は、原告Aの求めに応じて病院に行くことを許可し、G指導助役に病院まで付き添うよう指示し、その診断結果に基づき休暇を認めているのであって、被告乙の対応は適切であったということができる。

(2)平成16年2月26日からの日勤教育について

基本動作である指頭確認を厳正的確に行うことは、事故防止の観点から当然に要求されるところであって、現に基本動作を疎かにしたことで停車位置を誤った事故があったばかりであることや、前回の日勤教育から6ヶ月ほどしか経過していないこと、報告のあり方については前回の教育でも対象とされていたことを併せ考慮すれば、必要のない日勤教育が指定されたということはできない。レポートの課題は、基本動作や報告の必要性と重要性を再認識させ、事故防止に役立てることを目的として設定されたものであって、教育目的に沿ったものということができ、教育期間も2日間と合理的な範囲に留まっている。

(3)平成16年10月頃の注意について

便乗運転士がいる場合、その運転士に後部確認を依頼することがあり得るとしても、運転士としては、便乗運転士に確認を依頼する旨の意思を明示し、その結果が確実に伝達されるよう注意すべきは当然であって、便乗運転士が確認しているであろうとの憶測で運転することがあってはならない。被告甲の注意はまさにこの点に関するものであって、原告Aに対する嫌がらせに当たるようなものでないことは明らかである。

(4)平成17年2月3日の注意について

遅れ時分の程度やその変動は、乗客や後続列車の運行に直接影響し、事故を誘発する危険をはらむものであるから、基本動作である運転状況の喚呼を明確かつ厳正に行うことは当然に要求されるところであって、これを怠った原告Aに教育の必要がある事は明らかである。また、レポートの課題は、基本動作の必要性と重要性を再認識させ、事故防止に役立てることを目的として設定されており、教育目的に添ったものということができ、教育期間も4日間と合理的な範囲にとどまっている。

2 原告Bに対する措置等の違法性について

(1)平成16年4月30日からの日勤教育について

原告Bと信号担当者とのやりとりを見れば、信号担当者が報告の意味を理解できず聞き返さなければならなかったとか、非常事態に備えて対応を迫られたという状態になかったことは明らかであって、原告Bの報告が信号担当者に誤解を与えるおそれのあるものであったとは解し難い。加えて、緊張感に欠ける業務態度であるという被告らの主張は、結果として雀であったことを捉えて行う主張に過ぎず、雀であることを確認できない段階で原告Bが非常ブレーキをかけたことを責めることはできない。また一旦非常ブレーキをかけた以上報告をしなければならないところ、とっさに「雀が進路妨害している」と表現したことをもって緊張感に欠けるとする理由もない。また、被告らは、原告Bが工具忘れの件を即答できなかったことは、区全体としての取組みを全く理解認識していない証拠であるとして、時にはこれこそが当該日勤教育の必要性を最も基礎付ける事実であるかのようにも主張する。しかし、原告Bが工具忘れの件を即答できなかったことのみをもって、日勤教育の必要性があるとは解し難い。

当該日勤教育の必要性が認められない以上、日勤教育として原告Bに業務を命じたことは、それ自体根拠のないものというほかない。その上、原告Bに命じられた業務は、構内運転係員作業標準の構内運転士編の書き写しと、顛末書やレポートの作成のほかは、車両の天井掃除と除草であったが、後者については、当該日勤教育の理由との関連性が明らかとはいえないにもかかわらず相当日数をかけて実施され、とりわけ天井清掃は4日間に及ぶ重労働であったということができる。この点被告らは、天井清掃作業や除草作業は、車両係である原告Bの本来の業務として予定されていると主張する。しかし、天井清掃は、通常業者に外注している作業であり、本来の業務とはいえない上、日勤教育の必要性が認められないにもかかわらず、同教育のために命じられたというのであるから、原告Bは必要のない業務を命じられたことになり、その結果精神的苦痛を受けたということができる。また除草作業においても同様のことがいえる。そうすると、少なくとも、天井掃除と除草については、当該日勤教育において、これらの作業を命じたことは違法というべきであり、慰謝料請求権の発生を認めるのが相当である。

平成16年4月30日、日勤教育の指定を受けた原告Bは、経営理念唱和の際、S係長から10cmのところまで顔を近づけられ、酒気を帯びていないか、経営理念を言えるかを確認されたことが認められるが、このようなS係長の態様は、当時、森ノ宮電車区において酒気帯び出勤が2件連続して発生しており、そのため朝の点呼の際には、酒気帯び出勤がないかどうかの確認が行われていたことによるものと解されるから、点呼時の態様を、不当な威圧や嫌がらせを目的とした違法なものということはできない。

被告乙が原告Bに対し、平成16年5月25日に除草作業を命じたが、除草作業は車両検査部門の業務に含まれていることが認められ、車両管理係である原告Bがこの業務に就くことも本来予定された範囲内ということができ、その作業場所を森ノ宮電車区構内とすることも、区長である被告乙に認められた裁量の範囲内ということができる。したがって、かかる業務命令は、合理的な根拠に基づく相当なもので、違法というには当たらない。

(2)平成16年5月26日からの信号見習い業務指示について

原告Bに対する信号操作担務から放出派出所への配置転換は、森ノ宮電車区全体の社員の運用という観点から、定期的に本区と派出所間で在勤地の変更を行っている中で、その一環として行われた措置であること、資格を有する社員のほとんどが本区の信号業務に一応対応できるような状況にあって、原告Bにもそれが期待されていたことが認められ、不当な目的によるものと認めるに足りる証拠はない。また原告Bも、放出派出所でも信号担当の代わりに信号扱いを行うことはあったこと、本区の信号業務と派出所のそれとの違いは、専ら作業環境の違いであることを認めており、被告らが故意に原告Bに教育を行わず、不合格と判断したような事情は窺えない。そして、原告Bが期待するような教育を受けさせてもらえなかったからといって、そのことが直ちに原告Bに対する被告らの債務不履行または不法行為を構成するものではない。

3 原告Cに対する措置等の違法性について

(1)ハンガーの件

ハンガーが外れるという事態は、架線が切れて停電を起こしたり、パンタグラフに損傷を来すなど、列車の運行に重大な事態ということができるところ、このような危険を予測することなく、速やかな報告を怠った原告Cの行為は責められて然るべきである。また、作業手順を守っていなかったことに対する被告甲の指摘ももっともである。このような軽視できない事態に対し、厳しい指摘がなされ、反省文の作成が命じられたとしても、それをもって行き過ぎた指導というには当たらない。

(2)手歯止め割損の件

手歯止め割損の件は、手歯止めが割れるだけではなく、車両が脱線して横転するおそれすらある非常に危険な事故を起こしながら、これを報告しなかったばかりか、事故の隠蔽を図り、他の社員も事故の隠蔽に加担していたという点で、極めて悪質な事件である。このような看過し難い事態に対し、被告会社が厳しい態度で事情聴取に臨むのはやむを得ないところであるし、質問が威圧的であったとか、虚偽の供述を導くようなものであった事情は窺えない。また待ち時間を利用して除草作業を命じたことが違法な業務命令に当たるものではないし、危険な状況下での作業を強いられたことを認めるに足りる証拠もない。

(3)離席の件

持ち場を離れる際には、不測の事態に備えて一言断ってから行くべきであり、列車の運行に直接関わる信号業務の担当者であれば尚更である。これを怠った原告Cが責められるのは当然であり、被告甲による注意・指導も違法と評価されるようなものではなく、これが不当労働行為に当たると認めるに足りる証拠もない。

(4)工具忘れの件

工具忘れの直接の原因が、前任作業員にあることは明らかであるものの、原告Cを含む後任作業員も、前任作業員との間で工具の引継ぎの有無を予め確認せず、最後に作業全体を見返すことなく、また全ての工具が返還されているかを確認することなく作業を終了したという点で、一定の責任を免れない。この点原告Cは、あくまで後任作業員は残り1両について業務指示を受けたに過ぎず、前任作業員から作業を引き継いだものではないと主張する。しかし、直前まで前任作業員が同じ作業を行っており、その残りの作業を指示されたものであることは、原告Cも認めるところであるから、前任作業員から作業を引き継いだものと解するのが相当である。そして、前任作業員と同様の日勤教育や訓告処分がなされたことも、事案の重大性に鑑みれば、なお被告乙の裁量の範囲内ということができる。

(5)決定通知書読み上げの件

平成16年7月21日、被告甲は、原告Cの訓告処分についての苦情処理会議の通知書について、他職員のいる前で大声で読み上げたところ、被告甲の対応が原告Cに対する配慮に欠けるものであったことは否定できないものの、読み上げた内容は、双方医員に意見の相違があったので棄却するという極めて簡略なものであって、原告Cが申し立てた苦情の内容が明らかにされたわけではない。また労働協約によれば、苦情処理会議は、労働協約及び就業規則の適用についての苦情を審議の対象としていること、棄却の結論の意味するところは、労働協約及び就業規則等の適用を改めることが適当であるとの意見に達しなかったというにすぎないことが認められ、棄却決定が、即ち申告者の非違行為や不利益処分の存在を推測させるという関係にもない。そうすると、前記のような決定通知書が余も挙げられたことをもって、原告Cのプライバシーが、慰謝料の支払いが必要なまでに侵害されたと評価するには足りない。

(6)テコ扱い時機の件

平成16年9月14日、原告Cは放出派出所において信号を操作するテコ扱いの業務に従事していたところ、テコ扱いの時刻を過ぎ、列車の出区が30秒遅れたことから、被告甲から暗に謝罪を求められた。列車の運行に直接関わるテコ扱いの時機を誤ったことの重大性は明らかであり、しかもその責任はひとえに原告Cの不注意にあることからすれば、責められても仕方のない事態であって、言葉厳しく注意され、反省を促されたとしても、これを違法という理由はない。

4 本件掲示板に関する措置等の違法性(略)

5 本件掲示物に関する措置等の違法性(略)

6 損害の発生及びその数値

原告A及び同Cに対する措置等は違法とはいえないから、同原告らの損害を判断する必要はない。原告Bに対する措置等は、平成16年4月30日からの日勤教育について、必要性がないのに日勤教育の指定を受け、日勤教育として不必要な業務に従事させられたという限度で違法である。これにより原告Bが被った精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料は、日勤教育が指定された期間、その業務の内容及び程度、給与や賞与に対する影響等一切の事情を総合考慮すれば、10万円をもって相当というべきである。そして、弁護士費用として5万円を認める。

本件掲示板に関する措置等は違法といえないから、原告組合等の損害を判断する必要はない。本件掲示物に関する措置等は、掲示物が不当に撤去された限度で違法であり、これらが撤去されたことによる組合活動侵害を金銭に換算すると2万円をもって相当というべきである。そして弁護士費用は1万円が相当である。

原告Bに対する平成16年4月30日からの日勤教育並びに掲示物の撤去は、被告乙の承認のもと、同甲によって行われた共同不法行為ということができる。そして、被告会社は、被告乙及び同甲の使用者として、同被告らの各不法行為に対し、使用者責任を負う。
適用法規・条文
民法709条、715条1項、719条、労働基準法39条4項、労働組合法7条
収録文献(出典)
労働判例959号120頁
その他特記事項
本件は控訴された。