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菓子販売店員解雇事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 菓子販売店員解雇事件(パワハラ)
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成6年(ヨ)第1661号
- 当事者
- 債権者 個人1名
債務者 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 1994年07月11日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債権者は、平成3年12月1日に期間の定めなく債務者に雇用され、近鉄阿倍野店に販売店員として勤務していた女性である。
債務者の大阪支店長は、平成6年2月21日、近鉄阿倍野店のパートタイマーNから電話で、債権者に休暇を承諾されなかった、勤務シフトを勝手に変更された、客の前で怒鳴り散らされたことから、店を替えるか辞めさせて欲しいとの訴えを受けた。債権者は非を認めて謝罪し、Nも了解したものの、大阪支店長は、この時の債権者の態度が悪かったことから、解雇しようと考えたが、Nに対する問題のみで解雇すると債権者の反発を招き嫌がらせを受ける可能性があると考え、同年3月25日付けで、債権者を通勤時間も長く、従来よりきつい勤務内容となるA店に配転(本件配転)を命じた。
本件配転命令を受けて債権者が所属する組合は債務者と団体交渉を行い、その間債権者は自宅待機とされたが、結局同年5月21日より債権者はA店での勤務を命じられた。債権者は同月22日からA店に出勤し、異議を留めつつの就労であることを示すために分会作成のビラをA店の社員に渡したところ、ビラを勤務時間中に配布したことを理由に自宅待機を命じられ、その後の就労を拒否された。債権者が翌23日に出勤すると、支店長から解雇を言い渡され、同日付けで、1)複数の後輩に嫌がらせをし、トラブルが絶えないため債権者にA店勤務を命じたこと、2)債権者はこれを拒否したこと、3)5月21日からの勤務命令に対し当日欠勤したこと、4)5月22日出勤後債務者を誹謗中傷したこと、5)勤労意欲が認められないことを挙げ、就業規則49条2号の「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」に該当するとして。債権者を解雇した。
これに対し債権者は、債務者は団体交渉中から、いじめ問題には言及せずに配転を命じたものであるから、禁反言の法理あるいは信義則により債務者はこれと異なる主張をすることはできないこと、5月21日は直ちに休暇を申請したから無断欠勤ではないこと、5月22日のビラ配りは勤務時間外であり、その内容も誹謗中傷とはいえないことから、本件解雇権の行使は権利の濫用として無効であると主張し、債務者の従業員としての地位の保全を求めて仮処分を申し立てた。 - 主文
- 1 債権者が債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 債務者は債権者に対し、平成6年5月23日から本案判決言渡しに至るまで毎月15日限り1ヶ月金18万2013円を仮に支払え。
3 債権者のその余の申立てはこれを却下する。
4 申立費用は債務者の負担とする。 - 判決要旨
- 債権者は、過去に近鉄阿倍野店に勤務したM、Hに対し、あるいは現に勤務しているパートタイマーのNに対し、仕事が遅い、トロい等と相当数多く発言し、仕事上の過誤について厳しい口調で詰問し、あるいは有給休暇の取得を拒否する等したこと、これらの言動は一般顧客を相手とする百貨店の中にある店内で顧客の面前でされたことがあったこと等から、これを契機として、M、H、Nらが債権者の配置転換を債務者に要求し、債務者もこれに応じたこと、近鉄阿倍野店の店員が比較的短い期間で他に配置転換され、又は辞めており、この原因の一つに債権者の言動が関係していることが認められる。
ところで債権者の前記言動は、一般顧客を相手とする百貨店の中にある店内で、かつ顧客の面前でされることがあったこと、他の店員の配置転換希望の契機になっていること等からすると、債権者の前記言動は、職場の秩序を乱し、ひいては債務者の信用に関わるものということができる。そうすると、債権者の前記言動は、形式的には就業規則58条3号の「会社の風紀秩序を乱したとき」の制裁事由に該当するが、同規則49条1号ないし4号、58条1号ないし13号に該当するとは認められない。
債権者のいう「いじめ問題」は、職場における伝票の紛失により顧客から依頼を受けた商品の配送ができなかったこと、あるいはレジの打ち方の誤りにより金3万円の誤差が発生したこと、休暇の理由に問題があったこと等を原因として、債権者と前記の者とのトラブルが発生したものがあり、それらはそれ自体から相手方にも相当の責任があると考えられるものであり、またそれ以外の行為は、仕事が遅い等と言い続けたというものであるが、これも仕事に関するものであることからすると、債権者が仕事に熱心であり、かつ責任感をもっていたがゆえに発生したトラブルであったとも考えられ、その責任の有無、内容、程度等を判断するについては、各トラブルに至る経緯や原因、相手方や債権者の言動や態度ないしは対応等の諸事情を考慮して判断すべきことであり、また前記者らが辞めたり配置転換を希望したのは、職場環境や勤務内容、状況等も考慮しなければならず、直ちに債権者がこれらの者に対していじめ行為をしたと評価して、債権者の責任を決定することは即断に過ぎるものである。
債務者の就業規則57条によれば、制裁事由ある場合は制裁委員会を経て行い、必要に応じて弁明の機会が与えられることが定められているところ、本件解雇は実質上制裁としてされたものであるにもかかわらず、制裁委員会も開催されておらず、また弁明の機会も与えられていないものである。なお、Nに対する行為につき支店長が事情を聴いているが、これは制裁を前提としたものではないから、これをもって同規則の弁明の機会を与えたものとはいえない。そうすると、仮に債権者のいじめ問題が存在したとしても、その行為は就業規則記載の訓戒、減給、出勤停止及び降格の対象に該当するに過ぎず、その処分も制裁委員会の開催により決定されることになっているのに比較すると、本件解雇は厳しい措置であり、かつその手続も相当でなく、著しく均衡を失しているものである。
債権者の主張によれば、同種のいじめ行為をしたとするFは、債権者と同様配置転換はされたが、解雇は勿論、何らの制裁もされていないのであり、同人に対する処遇と比較すると、債権者の解雇は厳しい措置であり、著しく均衡を失しているものである。更に債権者は、解雇に至る団体交渉の過程でも債権者に対し、いじめ問題につき何らの告知もしておらず、むしろいじめ問題を理由として解雇する意思を決定しながらこれを秘して、債権者が任意に辞めるか、配置転換を拒否することを見込み、拒否するときはこれを理由として解雇するとの前提で債権者に対し配置転換を命じ、その見込みに反して組合が関与して団体交渉を求めるや、これに応じて「債権者の成績は良い、配置転換は栄転である」等と発言して配置転換に応じるよう説得したのであるが、これら債務者の行為は債権者に対していじめ行為を不問にするとの意思を示したものとみることができるところ、本件解雇はこの債務者の債権者に対する意思表示に反する不意打ちの措置であり、著しく信義に反するものである。
また、債務者は債権者が配置転換に応じるや、就業時間の告知を遅らせて債権者の定時出勤を困難にするなどし、債権者が出勤するや、本来認められる時間外の組合活動行為であり内容も相当であるビラ配布等を理由として就労を拒否して帰宅させ、翌日出勤すると同時に、解雇の種類や理由を告知せず、解雇手当も現実に提供せずに解雇を言い渡し、続いて真の理由でない解雇理由を通知する等しており、その応対は極めて不誠実なものであり、その手続も社会的相当性を欠くというべきである。
本来解雇権の行使は自由であるが、その効果は労働者の生存の基盤を喪失させるものであるから、社会的に相当と認められる合理的根拠の存在が認められ、かつ相当の手続によって決定されるべきものであり、これを欠く解雇権の行使は権利の濫用としてその効果を否定されるべきものである。本件解雇は、解雇の理由が債務者の就業規則に定める解雇事由に該当しないこと、仮に債務者の主張する解雇事由が存したとしても、就業規則に定める他の制裁処分の場合や同種のいじめ行為をしたと債務者が主張するFの処遇と比較して、著しく均衡を失していること、解雇理由について債権者の弁明の機会を与えていないこと、解雇に至るまでの債務者の態度や対応の態様や経緯、解雇告知の方法等が、信義に反しかつ不誠実なものであり社会的相当性を欠くものであること等からすると、本件解雇権の行使は、権利の濫用としてその効力を認めることはできないと言うべきである。 - 適用法規・条文
- 民法536条2項、709条、労働基準法37条、114条、労働契約法16条
- 収録文献(出典)
- 労働判例659号58頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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