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K社女性従業員譴責・解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- K社女性従業員譴責・解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成10年(ワ)第25339号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 株式会社 - 業種
- 建設業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2001年12月25日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、土木建設構造物の補修・補強等を業とするK建設の100%出資子会社であり、原告は平成7年6月に被告に入社し、同社工務部において、見積り、契約、出来高管理、労務安全管理等の業務に従事していた女性である。原告は平成9年4月頃、女性ユニオン東京(本件組合)に加入した。
被告は原告に対し、次の理由から、平成8年12月27日付(第1)、平成9年2月19日付(第2)、同月27日付(第3)及び28日付(第4)の4回にわたって譴責処分を発した。
第1譴責処分
1 省力化のための請求書の記載のためパソコンソフト、プリンターを導入したのに、小計業務ができない等の理由で当初から無視した。
2 経理担当者が下請基本契約書の日付を誤って記載した時、上司を批判し、副部長に対し、頭が悪いのではないかと批判したほか、部長の注意に対して「ネチネチと話をする」と言った。
3 業務量の増加に対応した増員計画を拒否し、人材派遣も不要と辞退し、被告が早く仕事を切り上げるよう指示しても、時間外勤務をした。
4 かつて勤務した会社のやり方をそのまま踏襲し、不要書類を作成した。
5 得意先等の請求書が当社に到着した年月日を記入するよう指示しても記入せず、協力会社の請求書を優先して作業するよう指示したのに、不急の作業を行い、作業中止命令にもかかわらず、時間外に作業を行った。
6 請求書の検索について電卓での作業命令に反し、パソコンによる作業を行った。
第2譴責処分
7 集計表の編てつ順序を部長命令と逆にして注意を受けても改めず、自己弁護に終始し、職場内で独り言を声高に語り、部長がコンピューターの使用を禁止したが、これを使用するなど、業務命令に違反し、職場の風紀、秩序を乱した。
8 業務に怠慢で、上司・同僚に対し侮辱的な言動をした。
9 時間外労働制限の指示に対し、職場改善の方法がとられていない等の理由により、時間外労働の責任を転嫁し、反省がない。
第3譴責処分
10)譴責処分通知書を受領し、始末書の提出命令を受けながら、督促を受けても提出しなかった。
第4譴責処分
11)第3譴責処分通知書を手渡したところ、シュレッダーに投入し、これは公文書であると叱責したところ、「関係部署と協議中」と回答し、最後まで被告に始末書を提出しなかった。
被告は、平成9年4月18日、原告に対し、解雇通告書を交付し、本件解雇をしたところ、原告は、本件解雇は無効であるとして、被告に対し、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求したほか、1)原告が婦人少年室に相談に行ったことを知った上司らが嫌悪を示したこと、2)被告はこの嫌悪を原因として本件第1譴責を行い、時間外労働手当を全面的にカットしたこと、3)その後矢継ぎ早に第2ないし第4譴責処分を連発したこと、4)原告が労働組合に加入したことを嫌悪して本件解雇に至ったことは不法行為に当たるとして、精神的苦痛に対する慰謝料100万円の支払を請求した。 - 主文
- 1 本件訴えのうち、原告が被告に対し本判決確定の日の翌日以降の賃金及び賞与の支払を求める部分を却下する。
2 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 被告は原告に対し、金7万4720円及びこれに対する平成9年4月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 被告は原告に対し、平成9年6月以降本判決確定の日まで、毎月25日限り金18万6800円及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 被告は原告に対し、金3310円及びこれに対する平成9年5月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用はこれを5分し、その2を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
8 この判決は、第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本判決確定後の賃金、賞与の請求部分について
本件訴えのうち、原告が被告に対し、本判決確定の日の翌日以降の賃金及び賞与の支払いを求める部分は、原告らと被告との間に雇用契約関係が存在することを確認する本判決が確定すれば、特段の事情がない限り、この雇用関係を前提とする法律関係が構築されると解されるから、あらかじめこれを請求する必要があるとはいえず、訴えの利益を欠くものとしてこれを却下するのが相当である。
2 本件解雇の効力について
いずれの指示等も、業務を円滑に進めるための被告の都合を原告に理解させ、ないしは原告の業務遂行等について一定の改善を求める趣旨のもので、いわゆる業務命令といった性質のものであるとまではいえない上、原告がこれらの指示等を拒否した点も、原告において一応合理的ないしは説明可能な理由があったか、ないしは、結果として被告の業務に支障を来さなかった程度のものであったということができる。
本件第1及び第2譴責処分に挙げられた譴責事由が一定の範囲で認められ、これが認められない点もあること、本件第2譴責処分後、原告が、専門家に相談中であることを理由に、始末書の提出の猶予を依頼しているにもかかわらず、被告はこれを配慮することなく、始末書の提出を相次いで督促し、その上で直ちに本件第3譴責処分を行っていて、使用者として穏当さを欠く措置を執っていることに鑑みると、この限りにおいて、原告が始末書の提出を拒んだことに一応説明可能な理由があったということができる。
ニフティにおける、被告の経理係が立て続けに請求書を4通紛失し、二重払いの事態となったこと、被告から受けた譴責処分が下らない言い掛かりのようなものであること、安全管理体制が不完全で事故時の連絡網も十分でないことの記事が被告についての記事であることの特定がされない以上、これをもって被告の名誉を傷つけたということはできない。原告が婦人少年室に、仕事を押し付けられる、お茶出しを強要されるなどと訴えたことについては、これをもって被告の名誉、信用を傷つけたということはできない。原告が、人材派遣業者の課長に対し、電話で、被告が女性の立場や業務を全く理解していない、社員教育についても無頓着などと話したことによっては被告の名誉、信用を傷つけたということはできないし、個人用のパソコンを社内に持ち込み、これを使ってファックス送信した行為については、当時部長が問題視していなかったことが錐認されるから、これをもって服務規律違反等であるということはできない。
一方、請求書を上司の指示どおり綴ることは、原告にとって何ら困難なことではなく、かつ、上司らに請求書のつづり替えという余計な作業をもたらしたという意味で、被告の業務に支障を来したということができる。また、原告は現場や下請からの電話に対し勝手なやり取りをすることがあったので、部長は原告が直接電話を取ることを禁じたこと、労務請求費署の提出が締切日より2日遅れた際、支払を翌月にすると伝え、部長がこのような判断を原告の独断で行わないよう伝え、労務費を予定どおり支払うこととしたことは、原告の行為により被告の業務に一定の支障を来したものということができる。
被告も原告の業務量は一定程度の時間外労働が必要である旨認識していたものと錐認されること、原告は被告主張のような不要書類の作成を行っていたということはできず、しかも、少なくとも原告の主観としては、自ら必要な業務として行った結果、時間外労働を余儀なくされたものと認識していたことが錐認されること、以上の事情からすれば、原告において、被告からの注意等に従わないことについて一定の合理的な理由があったと認めることができる。もとより、被告が原告に対し、時間外労働を全面的に禁止する趣旨の命令をしたのであれば、これに反して時間外労働を行った場合には、いわゆる業務命令に反する労働であるとして、これをもって解雇理由とすることも可能というべきである。しかし、上記のとおり、被告は原告に対し、時間外労働を制限するよう注意しているに過ぎないから、本件において上記の見地を採用することはできない。
以上の通り、上記7)及び譴責処分では挙げられていない、現場や下請からの電話に対し、部長に無断で勝手なやり取りをしたこと、労務請求署の提出が締切日より1、2日遅れた際、部長に相談せず支払を翌月に伝えたことに限り、本件解雇を合理的ならしめる事情となると解され、また原告が不穏当な発言、行動をし、職場内の秩序を一定程度乱しているということもでき、職場内の秩序維持等の観点からみれば、これらの点も本件解雇を合理的ならしめる事情となると解される。以上のほか、原告は被告において、その上司の指示、指導、注意に率直に耳を傾け、上司の意見を採り入れながら、円滑な職場環境の醸成に努力するなどといった、使用者が従業員に対して通常求める姿勢に欠ける面があったといえることにも照らせば、原告について、就業規則「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適さないと認めるとき」に形式的には該当するとみることができる。
しかし、労働者を解雇する場合、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できない場合には、当該解雇は解雇権の濫用として無効となるというべきである。この見地から検討するに、これらの事情は、上司と部下との意見の対立や行き違いを原因とするものに過ぎないなど、社会通念等の観点からして重大な問題であるとまではいい難いこと、被告は、本件第1譴責処分後に限っても、一連の譴責処分に対する原告の反論や対応を見極めて原告と対話するなどといった方策を十分講じたとは認め難いこと、被告においては、労働契約関係を維持したままする譴責を上回る程度の懲戒処分として、減給、出勤停止があるが、被告には、第4譴責処分の後であっても、このような他の懲戒処分を行うことに特段支障はなかったと認められること、以上の点に鑑みれば、本件解雇理由となるべき事情を総合考慮しても、本件解雇は権利の濫用として無効と解するのが相当である。
被告における給与規定によれば、賞与は、被告の業績に応じて支給され、社員の勤務成績・出勤率等を考慮するなどして算定されることになっている。したがって、本件解雇が無効であって、賃金については民法536条2項により原告はその請求権を失わないとしても、賞与についてはこれと同列に解する根拠はない。
2 時間外労働手当について
原告は、平成7年6月から平成8年9月までの早出労働については、その時間数を特定して被告に申告をしたことはなかったこと、そのため、被告はその時間数について確認していなかったことが認められる。一方平成8年10月については、原告は合計2時間45分間早出労働をし、被告に対しその旨申告したことが認められ、原告の早出労働時間としては、この2時間45分間のみというべきである。
被告は、原告に対し、合計14万0688円の「調整金」を支給したことが認められ、原告は「調整金」は労働基準法上の時間外手当として認めることはできない旨主張する。しかし、部長は平成8年10月頃、原告に対し、「調整金」は時間外労働手当の趣旨である旨述べたことが認められることからすれば、原告は遅くともこの頃までに、これが時間外労働手当の趣旨で支給されたことを認識したことが錐認され、「調整金」は時間外労働手当の趣旨で支払われたと認めるのが相当である。
3 付加金について
被告は、労働基準法に違反している状態を湖塗する意図を有していたものということができ、その意味で、被告には時間外労働に対する法規範に対する遵守意識に欠如する面が窺われないではない。しかし、被告は原告に対し、時間外労働手当、あるいは調整金として、一応これらを継続的に支給し、その結果、支払を怠ったと認められる時間外労働手当の金額は少額にとどまっていること、被告は原告に対し、残業を控えるように注意をしてきたことに鑑みれば、被告に対し付加金の支払を命ずるべきであるとまで認めるには至らない。
4 慰謝料について
本件解雇が無効であるとした上で、被告に対し地位の確認及び未払賃金及び招来賃金の支払いを命ずる以上、本件解雇による原告の精神的な損害は填補されるものと解するのが相当である。また、時間外労働手当を支払わないことが、被告の原告に対する嫌悪に基づくものであると認めるに足りる証拠はない上、未払と認められる時間外労働手当については、被告に対しその支払を命ずる以上、その損害は填補されたと解するのが相当である。
更に、譴責処分については、処分を行うか否かを決定する権限は専ら使用者にあり、この権限を濫用して処分を行うなどといった特段の事情のない限り、その処分の内容、時期、回数等を問わず処分を行うこと自体が不法行為に該当すると解することはできない。本件においては、本件第1及び第2譴責処分の譴責事由には認めることができないものも相当数含まれており、また、本件第2譴責処分後、原告が専門家に相談中であることを理由に、始末書の提出の猶予を依頼しているにもかかわらず、被告はこれに配慮することなく、始末書の提出を相次いで督促し、その上で直ちに本件第3譴責処分を行っていて、使用者として穏当さを欠く措置を執っているということもできる、しかし、原告の対応や発言等を加味して考えれば、上記の事情をもって、被告がその裁量権を濫用したものと認めるには足りない。
その他、職場における上司の部下に対する発言、行動等が部下において受け入れ難いとか、感情の対立を招く性質のものであったとしても、そのことのみで部下に対する不法行為となると解するのは困難であり、その発言、行動等が、職場における上司と部下という、通常想定し得る関係を超えたものであるなどといった特段の事情のない限り、不法行為の成立を認めることはできないというべきである。本件において、仮に原告主張に係る上司による個々の発言、行動等があったとしても、そこに上記特段の事情を見出すことはできず、原告が慰謝料を求める部分は理由がない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例824号36頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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