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N社諭旨解雇上告事件(パワハラ)

事件の分類
解雇
事件名
N社諭旨解雇上告事件(パワハラ)
事件番号
最高裁 − 平成23年(受)第903号
当事者
上告人 株式会社
被上告人 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2012年04月27日
判決決定区分
上告棄却
事件の概要
被上告人(第1審原告・控訴審控訴人)は、平成12年10月、上告人(第1審被告・控訴審被控訴人)に雇用され、システムエンジニアとして稼働していた。

被上告人は、平成20年4月上旬以降、上告人に対し、職場での嫌がらせ、内部情報の漏洩を申告し、その調査を依頼した。これを受けてB部長は調査検討したが、その結果被上告人の被害事実は認められないとの結論に達し、同年6月3日、被上告人に対し、欠勤には正当な理由がないとして、電話で被上告人に出勤を促したが平行線に終わり、被上告人は翌4日から7月30日まで欠勤を継続した。

上告人の倫理審査委員会は、B部長の調査結果を支持してその旨被上告人に回答し、その後上司と被上告人との間でメールのやり取りがあったが、上告人側はあくまでも出勤を求めること、休暇がなくなっているため欠勤とすることを被上告人に通告した。被上告人は同月25日に開催された賞罰委員会に出席して弁明を行ったが、同年9月30日をもって諭旨解雇処分とする旨の通告を受けた。

被上告人は、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と賃金及び賞与の支払いを請求したところ、第1審では、本件諭旨解雇処分が正当として被上告人の請求を棄却したが、控訴審では、上告人は精神的不調である被上告人に対し、説明責任を果たしていないとして、本件諭旨解雇処分を無効としたことから、上告人はこれを不服として上告に及んだ。
主文
本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。
判決要旨
原審の適法に確定した事実関係等によれば、被上告人は、被害妄想など何らかの精神的な不調により、実際には事実として存在しないにもかかわらず、約3年間にわたり加害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を子細に監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを受けているとの認識を有しており、そのために、同僚らの嫌がらせにより自らの業務に支障が生じており、自己に関する情報が外部に漏洩される危険もあると考え、上告人に上記の被害に係る事実の調査を依頼したものの認められずに出勤を促すなどされたことから、自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ上告人に伝えた上で、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けたものである。

このような精神的不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者である上告人としては、その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。そうすると、以上のような事情の下においては、被上告人の上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たらないと解さざるを得ず、本件処分は就業規則所定の懲戒事由を欠き、無効というべきである。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報2148号3頁
その他特記事項