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O社外国人従業員雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
O社外国人従業員雇止事件
事件番号
大阪地裁 − 平成13年(ヨ)第10068号
当事者
債権者 個人1名
債務者 株式会社
業種
卸・小売業
判決・決定
決定
判決決定年月日
2001年11月14日
判決決定区分
却下
事件の概要
債務者は、株式会社Mの子会社で、同社の自動車の販売を主たる業務とする株式会社であり、債権者はスリランカ国籍で、昭和56年1月16日、債務者と1年間の雇用契約を締結して雇用され、以後スリランカを含む全ての輸出国の取引先との折衝や代金回収などの業務を担当し、19回、20年間にわたり雇用契約を更新してきた。

債務者の業績は平成10年度から大幅に落ち込んだため、債務者は45歳以上59歳以下で勤続20年以上の全社員及び45歳未満の管理職を対象に退職勧奨をし、平成11年3月末までに67名が退職した。また、関連のN貿易の業績も赤字が拡大したことから、平成12年4月に同社は解散し、R社に貿易部門を営業譲渡して債権者を含む7名がR社に移籍したが、赤字が解消しないため、平成13年6月15日、貿易部門は廃止された。

上記の状況で、債権者は債務者から、平成11年3月の契約更新時に、平成12年3月以降の契約更新はしないかも知れないと言われ、債権者の雇用保険加入手続きが平成9年まで取られていなかったことが発覚したため、債務者は早期に加入していた場合の失業給付と実際の給付額の差額に相当する金額50万円を「帰国費用及び帰国準備金」の名目で支払うこととした。

N貿易では、平成12年3月末で債権者が退職することになっていたが、同社のM次長が債権者の雇用期間の延長を債務者に申し入れ、債務者は更に1年間更新することを受諾した。その際債務者は、債権者の住宅手当の減額を条件とし、債権者もこれを受諾したことから、平成13年3月末までの契約社員雇用契約書が締結された。平成13年2月21日、M次長は債権者に対し、同年3月末の退職手続きについて説明し、同年3月29日には債権者は退職に関する各種書類に押印し、健康保険証も返還した。

債権者は、債務者の雇用契約更新拒否は合理的理由がないとして、債務者の従業員としての地位の保全を求めて仮処分を申し立てた。
主文
1 債権者の申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
判決要旨
平成13年2月21日のM次長らからの退職手続きに関する申入れがあった際、「会社の契約をしないという態度が頑なだったので、私個人で抗議しても無理だと思って健康保険証などの返還には応じ」たことは債権者も認めているところ、それ以降、債権者が同年3月末日までに契約の更新がなされないことについて明確に抗議したと認めるに足る疎明はなく、むしろ同年4月9日付けで債務者に送付した「契約条件不履行に対する異議申し立て」と題する書面においても、契約が終了することについては何ら触れていない。また、帰国費用について、平成12年の賞与支給時に分割されて支給されたのは、前年度は結局退職しなかったために支給されなかったことを考慮すると、平成12年3月の更新時に、退職を前提にした話合いがなされたためと推察されるし、上記異議申立書においても、住宅手当の減額がなされたにもかかわらず、帰国費用が平成11年当時と同額であったことに何ら不満が述べられていないのは、住宅手当の減額について債権者も了承していたからであると認められる。

これらの事情によれば、平成12年3月の時点で、債務者は平成13年3月末日で契約が終了することを債権者に告げており、その後、帰国費用の支給や、平成13年2月21日以降、退職に関する手続きをなす経過においても、何ら債権者が更新されないことについて抗議ないし明確に異議を述べるなどしていないことによれば、債権者自身においても、同年3月末日で退職すること自体はやむを得ないとして、明示又は黙示の意思表示によってこれを承諾していたことが認められる。以上によれば、債権者と債務者の雇用契約は平成13年3月末日で終了したというべきである。
適用法規・条文
労働組合法7条
収録文献(出典)
労働経済判例速報1792号25頁
その他特記事項