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M学園定年後嘱託雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- M学園定年後嘱託雇止事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成12年(ワ)第15853号
- 当事者
- 原告 個人4名A、B、C、D
被告 学校法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年01月21日
- 判決決定区分
- 一部却下・一部棄却(確定)
- 事件の概要
- 原告A(昭和8年生)は、昭和41年に被告学校法人M学園(学園)に採用されて短大の音楽助教授を務め、平成10年3月に定年(65歳)で一旦退職したが、嘱託の特任助教授として引き続き同大学で勤務し、平成11年4月1日付けで嘱託雇用契約を更新した女性、原告B(昭和9年生)は、昭和32年に学園に採用されてその後音楽短大の助教授、平成9年4月から教授を務め、平成11年3月に定年退職したが、引き続き嘱託の特任教授として同大学で勤務した女性、原告C(昭和10年生)は、昭和39年に学園に採用されて、その後音楽短大の専任講師となり、平成12年3月をもって定年退職した女性、原告D(昭和9年生)は、昭和45年に学園に採用され、その後音楽短大の専任講師となり、平成12年3月をもって定年退職した女性であり、原告らは、いずれも労働組合の組合員である。
被告は、学生数の減少に加え、学科の新設等で設備投資がかさむことなどから、原告A及び同Bについては、平成12年3月31日をもって嘱託再雇用契約の期間を満了させ、原告C及び同Dについては、同日をもって学園を定年退職とした。
そこで原告らは、組合に所属する原告らが被告から雇止めされ、或いは定年後に再雇用されなかったことは、希望すれば定年後3年間の嘱託再雇用を保障する旨の同組合と被告との間の同意に反し、または希望する者を3年間嘱託再雇用するという労使慣行に反するとして、被告に対し、労働契約に基づいて嘱託の地位にあることの確認と、未払の賃金の支払いを請求した。 - 主文
- 1 原告B、同C及び同Dの請求のうち、本判決確定日の翌日以降の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める請求部分をいずれも却下する。
2 原告Aの請求並びに同B、同C及び同Dのその余の各請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件合意について
本件合意は、学園の教職員については本件就業規則11条に規定された65歳定年制に関する規定及び本件嘱託条項の規定によって労働条件が定められることを前提としつつ、本件合意当時、学園に在籍していた65歳を超える教職員の処遇に関する特別経過措置を合意したものというべきで、本件合意によって、定年で退職する教職員に対し、3年間は嘱託として再雇用される権利(法的地位)を保障することが合意されたとは認め難い。
もともと組合は定年制の導入を学園に対して主張していたもので、本件就業規則には当初から65歳定年制に関する規定のほか、嘱託再雇用に関する規定が置かれていたことからすると、本件嘱託条項は、定年制を採用することに伴って教職員に生じる不利益を緩和するための代償措置として教職員のために設けられたものというよりは、学園の必要に基づいて設けられたとの意味合いが強いものであったと認められること、本件合意書の文言には、定年嘱託の期間は、就業規則に定めた3年「以内」と規定されており、嘱託として再雇用した場合でも3年に満たない場合があることを当然の前提とするものと考えられること、組合も本件合意書に基づく主張を全くしていないことが窺われるから、希望すれば3年間は嘱託として再雇用される権利を有するという原告らの主張は理由がない。
2 労使慣行について
本件嘱託条項は、教職員が定年退職した場合において「職務の都合により特に必要があると認め、かつ、本人が希望する場合は、嘱託として引き続き雇用する場合がある」と規定しており、原告らがその存在を主張する労使慣行は、本件嘱託条項に実質的に抵触する内容の慣行というべきところ、このような慣行が認められるためには、同種の行為又は事実が長期間反復継続されていること、当事者が明示的にこれによることを排斥していないことのほか、就業規則を制定改廃する権限を有する者が、当該取扱いについて規範意識を有していたことを要するというべきである。
学園の再雇用状況をみると、「レッスン担当教員」14名のうち8名は希望して3年間嘱託として再雇用されたこと、「教職担当職員」6名はいずれも嘱託として再雇用されたこと、「その他の教職員」の中で嘱託再雇用を希望した6名中4名は嘱託として再雇用されていたことが認められる。しかし、「レッスン担当職員」のうち、3年間再雇用されたものは8名だけであること、全員が嘱託として再雇用されていた「教職担当職員」6名についても、その期間は原則として1年間であり、3年間にわたって再雇用されたのは3名だけである。
そうすると、以上のような事実関係だけから、学園において、定年により退職する教職員が希望すれば必ず嘱託として再雇用され、その期間も3年間は保障されるとの取扱いが長期間にわたって反復継続していたものとは直ちに認め難く、また学園はこうした取扱いを明示的に排斥するような態度をとっていたことが認められる上、就業規則を制定改廃する権限を有する者か、あるいは実質上これと同視し得る者(理事会又は理事長)が、定年により退職する教職員が希望すれば必ず3年間は嘱託として再雇用しなければならないとの意識(規範意識)を有していたとも認められないから、この点に関する原告らの請求は理由がないというべきである。
原告らは、学園が、原告らを嘱託として再雇用せず、あるいは再雇用契約を更新しなかった行為は、原告らが組合員であることから差別的取扱いをしたものであって、不当労働行為であると主張するが、原告C及び同Dは平成11年度の定年退職者6名のうちの2名であり、原告A及び同Bは、非常勤を含む6名の嘱託再雇用契約者のうちの2名であって、原告ら4名を除く8名は組合員でないこと、学園は、原告ら以外の退職者及び嘱託再雇用契約者についても、原告らと同様に嘱託として再雇用せず、あるいは嘱託再雇用契約の更新を行っていないことが認められるのであって、原告らに対する学園の取扱いが組合員である原告らを差別的に取り扱った不当労働行為であるとは認められない。
以上のとおりであるから、原告A及び同Bは、平成12年3月31日をもって特別任用契約(嘱託再雇用契約)の期間満了により学園との雇用契約は終了し、また原告C及び同Dは、平成12年3月31日をもって定年退職したことにより、学園との雇用契約は終了したものというべきであり、同年4月1日以降も嘱託としての地位を有することを前提とする原告らの本訴請求はいずれも理由がない。 - 適用法規・条文
- 労働基準法24条
- 収録文献(出典)
- 労働判例823号19頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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