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派遣労働者中途解雇控訴事件(派遣)
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 派遣労働者中途解雇控訴事件(派遣)
- 事件番号
- 大阪高裁 − 平成23年(ネ)第1301号
- 当事者
- 控訴人兼被控訴人(第1審原告)個人9名A〜I
被控訴人兼控訴人(第1審被告)ベアリング製造等会社 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2011年09月30日
- 判決決定区分
- 原判決破棄(被告控訴認容・原告控訴棄却)
- 事件の概要
- 第1審被告(被告)はベアリング等の製造・販売等を目的とする株式会社、S社は請負業、労働者派遣事業、有料職業紹介事業等を業とする株式会社であり、第1審原告(原告)らは被告姫路工場でベアリングの製造業務に従事していた者である。
被告は、平成15年12月1日、S社との間で本件出向協定を締結し、その後被告・S社間の契約関係は、平成17年10月1日から業務委託(請負)契約(本件業務委託契約)、平成18年8月21日からは労働者派遣契約(本件派遣契約)に変更された。原告らはS社と雇用契約を締結した後、被告姫路工場で就労していたところ、S社から、被告から本件派遣契約を中途解除する旨の通知を受けたとして、平成21年3月末日をもって中途解雇(雇用契約の本来の終期は同年8月20日)する旨の通知を受けた。
兵庫労働局は、原告ら及び原告らが加入する労働組合の申入れを受け、平成21年3月23日、被告及びS社に対し、労働者派遣法違反(派遣期間制限違反)及び職業安定法違反(労働者供給事業禁止違反)があったとして、是正指導を行った。そこで被告は、本件派遣契約の解除につき、4月23日付けと変更し、S社も原告らの解雇を同日に繰り下げた。更に被告は原告らとの間で、同年4月24日から9月30日までとする期間雇用契約(本件期間雇用契約)を締結したところ、本件期間雇用契約は平成21年9月30日をもって終了した。
原告らは、S社の採用に当たって被告が採用に関与していること、被告と原告らには黙示の労働契約が成立していたこと、本件出向協定は違法な労働者供給に該当することを主張し、その上で原告らは、平成21年2月の派遣切りは労働契約法16条に違反して無効であること、原告らは正社員と一体となって従事していたこと、契約更新の回数は多い者で6回であり、社外労働者の中で「雇止め」された者はいないこと、派遣切り直前の契約期間は、短い者でも1年4ヶ月であり、有期契約としては異例の長期間であること、更新手続きも極めて形式的であり、更新が当然の前提となっていたことからすれば、当然に解雇法理が類推適用されるべきところ、整理解雇の4要件はいずれも満たしていないことなどから本件雇止めは無効であるとして、被告の従業員としての地位の確認を求めるとともに、被告に対し、原告ら各自に対し慰謝料300万円を支払うよう請求した。
第1審では、原告らに地位の確認は認めなかったものの、慰謝料50万円を認めたことから、被告はこれを不服として控訴するとともに、原告らは被告の従業員としての地位の確認を求めて控訴に及んだ。 - 主文
- 1 一審被告の控訴に基づき、原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。
2 上記取消部分に係る一審原告らの請求をいずれも棄却する。
3 一審原告A、同B,同C及び同Dの控訴、一審原告E、同F、同G、同H及び同Iの附帯控訴をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、1、2審を通じ、一審原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 1審原告らと1審被告との間の労働契約の成否について
本件において、原告らと被告との間に黙示の労働契約の成立を認めるに足りる証拠はない。かえって、1)被告は、景気の動向に応じて人員の調整を円滑に行うため、被告自らが労働者を雇用することを避けて、外部企業に所属する社員を姫路工場に受け入れることを目的として、本件出向協定、本件業務委託契約、本件派遣契約を締結し、S社に雇用されている労働者を姫路工場で就労させてきたこと、2)原告らの就労状況は、いずれも被告の事業所の中で被告の正社員とともに被告の指揮命令を受けて被告の業務に従事するというものであったこと、3)原告らは姫路工場で就労するため、S社との間で雇用契約を締結し、S社が定めた賃金や手当の支払を受けていたこと、4)他方、被告は労働局の指導に従って原告らとの間において本件雇用契約を締結するまで、被告が各原告と雇用契約を締結した事実がなかったことが認められ、これらによれば、原告らはS社との雇用契約に基づき就労していたというべきである。
ところで原告らは、S社に正式に採用される前に、被告担当者が面接試験を行うなどして実質的に被告がその採否を決定しているとして、原告らと被告との間においても黙示の雇用契約関係が成立していると認めるべきである旨主張する。確かに、被告及びS社の担当者は、原告らに対し、S社と正式に雇用契約を締結して姫路工場に就労する前に、姫路工場の職場見学をすることを勧め、原告らが姫路工場を訪れた際に、被告従業員Lが原告らと面談し、その際に原告らの職務経験や就労の意思に関する質問もあったことが認められるが、姫路工場で勤務して1日ないし数日で退職する者が少なからずいたこと、加えて原告らは姫路工場を訪問する前にS社に採用されることが内定していたこと、S社を通じた工場見学者について被告から受入れを拒否した事実はないことが認められるから、これらの事実に照らすと、S社が原告らと正式な雇用契約書を作成する前に姫路工場を見学させる目的は、労働者派遣法26条7項にある派遣労働者を特定したり、被告が実質的に原告らの採用不採用を決めたりすることを目的として行われたものとは認められない。
次に原告らは、実質的に被告が原告らの報酬額を決定していると主張する。被告は、S社との間で、同社に支払う対価(業務委託料)につき派遣される労働者一人当たりの時給を基準として決めていたものであることが認められるが、業務委託料の決め方として不合理とはいい難く、S社はこのように決められ支払われた業務委託料の中から原告らに対する賃金額を決め、これを支払っていたものである。
また、原告らは、原告A、同B、同C、同D、同F、同G、同H及び同Iに対し、各種手当金を被告が負担していることから賃金支払関係があり、原告らと被告との間に雇用契約の成立を認めるべきと主張するが、これらの手当についても原告らに対する支払は賃金と併せてS社が行っているのであって、S社と被告との間の交渉により実質的には業務委託料の一要素として付加するかどうかが決められていると認められる。
更に、原告らは、原告A、同G、同H及び同Iについては、S社との雇用契約の当初、本件出向協定に基づき姫路工場で就労していたが、本件出向協定によれば、上記原告らは、S社の命令により、S社在籍のまま休職し、被告に在籍する旨記載されているから、原告らと被告との間にも雇用契約が成立している旨主張する。しかしながら、本件出向協定に基づく原告らとS社及び被告との関係は、実質的には労働者派遣契約であり、当時派遣が許容されていた対象業務に製造業が含まれていなかったため、本件出向協定が締結されたにすぎないと見るべきであるから、本件出向協定上原告らが被告に在籍する旨の記載があることをもって原告らと被告との間に黙示の雇用契約が成立していることの根拠とすることはできない。
以上によれば、原告らと被告との間において、黙示の雇用契約が成立していると認めることはできず、したがって、原告A、同B、同C及び同Dの各雇用契約関係上の地位確認請求はいずれも理由がない。
2 解雇(更新拒絶)の無効、賃金請求権の有無について
当裁判所も、原告らと被告との間に黙示の雇用契約が成立することを前提とする原告らの解雇無効の主張、原告らと被告との本件期間雇用契約を雇止めしたことが違法無効との原告らの主張は理由がないものと判断する。
原告Aら4名の賃金請求はいずれも理由がないと判断する。
3 被告の不法行為について
被告が恣意的に平成21年3月をもって解雇(雇止め)する旨の通知をしたこと、直接雇用下において何の理由もなしに手当の支給を打ち切ったこと、労働局に申告を行った報復として直接雇用を1度も更新することなく雇止めにしたことが違法であるとの原告らの主張はいずれも理由がないと判断する。
原告らは、被告が本件出向協定に基づき労働者を姫路工場に就労させていたことは職業安定法44条に違反するし、その後の本件業務請負契約による偽装請負についても、職業安定法違反と同程度の違法性が認められるなどとして、上記行為につき不法行為が成立する旨主張する。原告らのうち、本件派遣契約が締結される前からS社と契約していた原告A、同G、同H、同D及び同Iは、姫路工場に採用されてから被告の正社員とともに被告の指揮監督を受けて被告の製造等の業務に従事し、その就労実態は被告とS社との間の契約が労働者派遣法に基づく契約に変更になる前後で何らの変化はなかったことが認められる。そして、このような一連の経過及び就業状況によれば、原告らの就労は労働者派遣に当たるというべきである。したがって、被告とS社との間の本件出向協定、本件業務委託契約に基づいてS社の労働者である原告らを姫路工場に受け入れていたことは、労働者派遣に当たるというべきであるから、職業安定法44条に違反するとは認められない。
次に原告らは、本件出向協定がされた平成15年12月当初から本件是正指導がされた平成21年3月23日までの間、被告はS社とともに、偽装出向、偽装請負、労働者派遣と契約形態を巧みに変化させながら、5年超の長きにわたって違法に労働者派遣を受け入れてきたものであり、この労働者派遣受入行為は不法行為に当たる旨主張する。確かに、被告はS社との間で、平成15年12月1日に本件出向協定を締結し、平成17年10月1日に本件業務委託契約を締結し、実質的にはS社から原告らの派遣を受け、平成18年8月20日にはS社との間で本件派遣契約を締結し、当初から起算すると期間制限を超えた労働者派遣を受け、結局、本件是正指導がなされた平成21年3月23日までの5年超の期間にわたり労働者派遣法違反による労働者派遣受入行為を継続していたことが認められる。
しかしながら、労働者派遣法は、行政上の取締法規であって、同法4条の規定する労働者派遣を行うことのできる事業の範囲や同法40条の2が規定する派遣可能期間等についてどのようにするかは、その時々の経済情勢や社会労働政策にかかわる行政上の問題と理解される上、労働者派遣によって保護される利益は、基本的に派遣労働に関する秩序維持であり、それを通じて個々の派遣労働者の労働条件が保護されることがあるとしても、労働者派遣法は、派遣労働者と派遣先企業との労働契約の成立を保障したり、派遣関係下で定められている労働条件を超えて個々の派遣労働者の利益を保護しようとしたりするものではないと解される上、少なくとも労働者派遣法に違反して労働者派遣を受け入れること自体については、労働者派遣法は罰則を定めておらず、また、社会的にみると、労働者派遣は、企業にとって比較的有利な条件で労働力を得ることを可能にする反面、労働者に対して就労の場を提供する機能を果たしていることも軽視できないことからすると、許容業務でないのに派遣労働者を受け入れ、許容期間を超えて派遣労働者を受け入れるという労働者派遣法違反の事実があったからといって、直ちに不法行為上の違法があるとはいい難く、他にこの違法性を肯定するに足りる事情は認められない。
以上によれば、原告らの不法行為による損害賠償請求はいずれも理由がない。 - 適用法規・条文
- 民法709条、715条1項、労働契約法16条
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2128号7頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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神戸地裁姫路支部 - 平成21年(ワ)第555号 | 一部認容・一部棄却 | 2011年02月23日 |
大阪高裁−平成23年(ネ)第1301号 | 原判決破棄(被告控訴認容・原告控訴棄却)第 | 2011年09月30日 |