判例データベース
広島中央保健生協(C生協病院)事件(上告)(マタハラ)
- 事件の分類
- 賃金・昇格妊娠・出産・育児休業・介護休業等
- 事件名
- 広島中央保健生協(C生協病院)事件(上告)(マタハラ)
- 事件番号
- 最高裁 − 平成24年(受)第2231号
- 当事者
- 原告…個人1名、被告…広島中央保健生活協同組合
- 業種
- 医療介護事業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2014年10月23日
- 判決決定区分
- 破棄・差戻し
- 事件の概要
- X(一審原告、二審控訴人)は1994(平成6)年3月21日、医療介護事務等を営む協同組合Y(一審被告、二審被控訴人)に雇用され、副主任の地位に任ぜられていた理学療法士である。2008(平成20)年2月、妊娠に伴い、XがYに対し、労働基準法65条3項に基づいて軽易業務への転換を請求したところ、業務の転換と同時に副主任の地位を免ぜられ、さらにXが育児休業から復帰した後もYはXを副主任の地位につけなかった。
XはYに対し、本件措置は男女雇用機会均等法(以下、「均等法」と略記する)9条3項に反する違法無効なものであると主張し、管理職(副主任)の手当の支払い等を求めて本件を提訴したが、第一審では、いずれの措置も事業主であるYの裁量権の範囲内で行ったものであり、均等法にいう不利益な取扱いをしたものとは認め難いとしてXの請求を棄却した。Xが控訴したところ、本件措置は使用者の広い裁量に委ねられており、Xが本件措置に同意していたこと等から、均等法に違反するということはできず、人事権の濫用に当たらないとして、原審は控訴を棄却した。これを受けてXが上告した。 - 主文
- 1原判決を破棄する。
2本件を広島高等裁判所に差し戻す。 - 判決要旨
- 女性労働者について、妊娠、出産、産前産後の休業その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定められるものを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨を定めた均等法9条3項は、同法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定と解するのが相当であるところ、一般に降格は、労働者に不利な影響をもたらす処遇であり、均等法の目的及び基本的理念並びに9条3項の趣旨等に照らせば、女性労働者について、妊娠中の軽易業務への転換等を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱いに当たると解される。他方、(1)上記の措置により当該労働者が受ける有利又は不利な影響の内容や程度、当該措置に係る事業主による説明の内容、当該労働者の意向等に照らして、当該労働者の自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は(2)事業主が当該労働者に対し降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。
これに対し、本件においては、Xが軽易業務への転換及び本件措置により受けた有利な影響の内容や程度が明らかではない一方で、Xが本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものであるうえ、本件措置による降格は、軽易業務への転換期間経過後も副主任への復帰を予定していないものと言わざるを得ず、Xの意向に反するものであったというべきである。Xは、Yから本件措置による影響につき十分な説明を受けておらず、育児休業終了後の副主任への復帰の可否等につき事前に認識を得る機会を得られないまま、本件措置の時点では副主任を免ぜられることを渋々ながら受け入れたにとどまるものであるから、Xが本件措置による影響について事業主から適切な説明を受けて十分に理解したうえでその諾否を決定したものとはいえず、Xが自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできない(1)。
また、本件についてはYがXに対し降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに業務上の必要性から支障があったか否か等は明らかではなく、また本件措置によりXの業務上の負担の軽減が図られたか否か等も明らかではない一方で、上記の通りXが本件措置により受けた不利な影響は重大なものであるうえ、本件措置による降格は軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものと認められ、Xの意向に反するものであったというべきであるから、本件措置については、Yにおける業務上の必要性の内容や程度、Xにおける業務上の負担の軽減の内容や程度を基礎づける事情の有無などの点が明らかにされない限り、均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることはできず(2)、これらの点について十分に審理し検討せずに、原審摘示の事情のみをもって本件措置が同項の禁止する取扱いに当たらないとした原審の判断には、審理不尽の結果、法令解釈適用を誤った違法がある。 - 適用法規・条文
- 均等法9条3項。
- 収録文献(出典)
- 労働判例1100号5頁、判例タイムズ1410号47頁、判例時報1614号225頁
- その他特記事項
- 原審で争われた、育児休業から復帰後の配置等が均等法9条3項等に違反する措置であるか否かについては、本判決の対象には含まれなかったが、これについては櫻井龍子裁判官より「軽易業務への転換が妊娠中のみの一時的な措置であることは法律上明らかであることからすると、育児休業から復帰後の配置等が降格に該当し不利益な取り扱いというべきか否かの判断に当たっては、妊娠中の軽易業務への転換後の職位等との比較で行うものではなく、軽易業務への転換前の職位等との比較で行うべきである」の補足意見が付された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
広島地裁 − 平成22年(ワ)第2171号 | 棄却 | 2012年02月23日 |
広島高裁 − 平成24年(ネ)第165号 | 棄却 | 2012年07月19日 |
最高裁−平成24年(受)第第2231号 | 破棄・差戻し | 2014年10月23日 |
平成26年(ネ)第342号 | 判決 | 2015年11月17日 |