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C電力会社事件

事件の分類
賃金・昇格
事件名
C電力会社事件
事件番号
広島地裁 − 平成20年(ワ)第825号
当事者
原告…個人1名、被告…電力会社
業種
電気事業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2011年03月17日
判決決定区分
確認を求める訴えを却下、その他請求を棄却
事件の概要
 X(原告)は1981(昭和56)年4月1日より事務系の従業員として、電気事業を営むY社(被告)に雇用され、2006(平成18)年2月からYの営業所に勤務している女性従業員である。

Xは1986(昭和61)年10月1日からYに導入された職能等級制度により主務2級となり、1998(平成10)年より主任3級へと昇進した。その後、1999(平成11)年には職能等級制度見直しに伴い主任2級に移行し、2005(平成17)年に導入されたクラス制度により主任2級クラス〈2〉となり、2008(平成20)年に主任2級クラス〈1〉となった。

 Xは自身より年下の男性従業員が昇進昇格するのを目の当たりにし、職能等級の昇格、職位の昇進において、女性であることを理由に不当な差別的取扱い(以下「男女差別」という)を受け、本来あるべきものより低い職能等級及び職位にされているなどとして、Yに対して不法行為に基づき損害賠償の支払いを求めるとともに、過去の一定の時期から現在までYにおける資格・職能等級制度上の一定の職能等級にあることの確認、さらに過去の一定の時期から現在まで、Yにおける職位である主任の地位にあることの確認を求めて提訴した。
主文
1 訴えのうち、原告が一定の期間主任1級の職能等級にあったことの確認を求める部分、一定の期間管理3級の職能等級にあったことの確認を求める部分、一定の期間主任の職位にあったことの確認を求める部分をいずれも却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 確認の訴えにつき、いかなる職能等級にあるかという労働契約上の地位は、時間的経過とともに常に変動する可能性があり、現在の法律上の地位の不安を直接的に除去することにはならず、過去のどの時点からXが主任1級ないし管理3級の職能等級にあったかを確認したところで、現在ないし将来の原告の職能等級が自動的に決まるものではなく、XとYの間の紛争の直接的かつ抜本的解決にはならない。したがって、過去にある一定の職能等級にあったことの確認を求める部分は、確認の利益を欠く不適法な訴えというべきである。

 職能等級の昇進、職位への登用面において男女差別があったという主張につき、具体的にはXはYが主務2級以上の社員について、女性社員の場合、男性社員を超える在級年数がなければ一段上位の職能等級に昇進させないという差別的取扱いを行っていること(1)、そして性別以外の事由を要件とする措置(一見性中立的な規定、基準、慣行等〔以下、基準等とする〕に基づく措置)であって、他の性の構成員と比較して一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、合理的な理由なく講ずるという「間接差別」(男女雇用機会均等法7条、指針第3)が職能等級においてYにあり、Xがこれによって不当に職能等級の昇進を遅らされている(2)とした。

 (1)につき、Xと同期入社の事務系社員(高卒)について、男性社員と女性社員とで一段上位の職能等級に昇進するまでの在級年数を比較してみても、女性社員の方が男性社員よりも在級年数が短い、あるいは同じ在級年数であった場合が存在することが認められるほか、年度年齢41歳で主任1級になった女性社員がいる一方で、それより後に主任1級となった男性社員が相当数いることなどが認められることから、Yにおいて、「男性社員について一定の勤続年数を経た場合に一段上位の職能等級に昇進させるが、女性社員についてはこれを超える勤続年数がなければ昇進できない」との取扱いが行われているとはいえないこと、また、主任という職位の登用についても、2008(平成20)年4月1日時点で、主任に登用されている女性社員がいる一方で、登用されていない男性社員がいることなどから、Xが主張する男女差別的取扱いがなされているとは認められない。

 (2)につき、Xの主張は一段上位の職能等級に昇進するための基準(上記「基準等」)を満たすことができる者の比率が、男女で相当程度異なるものであるという主張であると解される。しかし、Yにおける人事考課の基準は、業績考課、能力考課、職務適正評価から成っており、例えば能力考課のうち「自信をもって一段上位の等級に推薦できる」といった評価を満たすことの出来る者の比率が、男女で相当程度異なってくるとは考え難く、Yにおいて、「間接差別」があるとは認められない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報2188号14頁
その他特記事項
本件は控訴された。