判例データベース
A社休職期間満了解雇事件
- 事件の分類
- 解雇うつ病・自殺
- 事件名
- A社休職期間満了解雇事件
- 事件番号
- 東京地裁-平成25年(ワ)第2363号
- 当事者
- 原告…個人1名、被告…株式会社
- 業種
- 金融業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2014年11月26日
- 判決決定区分
- 一部容認、一部却下
- 事件の概要
- X(原告)は株式会社A(被告)との間に、1999(平成11)年2月1日、期限の定めのない雇用契約(以下、「本件雇用契約」という。)を締結し、同日以降、A日本支店の経理部給与課でチームリーダーとして勤務していたAの女性従業員である。
Xは私傷病(うつ状態)を患い、2010(平成22)年12月14日、Aに対し、「うつ状態」と記載された診断書を提出し、2011(平成23)年10月14日までの間、Yの就業規則所定の傷病休暇を取得し(以下、「本件傷病休暇」という。)、同月15日から2012(平成24)年12月20日までの間、Aの就業規則所定の療養休職とされた(以下、「本件療養休職」という。)。
Xは2012年12月6日、Aに対し、主治医の医師作成の診断書(以下、「本件診断書」という。)、及び情報提供書(以下、「本件情報提供書」という。)を提出した。本件診断書には、「病名 うつ病」「上記による治療中であるが病状が改善したため平成24年12月14日より就労可能と判断する」旨が記載され、本件情報提供書には、「軽度日中の眠気が出現する以外は気分、意欲とも改善している」、「当初は時間外勤務は避ける必要がある。又、質量ともに負担の軽い業務からスタートして徐々にステップアップすることが望ましい」との所見が記載されている。
Xはこれをもって復職を申し出たものの、AはXのうつ状態が従前の業務を通常に遂行できるほど回復するに至ったとは認められないとし、Xの病状がAの就業規則上の「休職期間満了時において休職事由が消滅せず、速やかに復職することが困難であると判断される時」に該当するとの理由から、本件療養休職期間が満了となる2012(平成24)年12月20日、Xに対し、本件雇用契約終了を通知した。なお、Aの就業規則はXの休職中、2012年9月1日に変更され(Aの就業規則の変更を「本件変更」という。)、休職及び復職に関する規定につき、「復職に当たっては、原則として、従前の職に戻るものとする。但し、会社は業務上の都合により、その就業の場所、職務の内容、職業上の地位を変更することがある。」との規定は、「療養休職した者が復職する場合の復職とは従来の業務を健康時と同様に通常業務遂行できる状態の勤務を行うことをさす。リハビリテーションとして短時間勤務等が必要な場合には、原則として休職期間中に行うものとする。」との規定になった。
これを受けてXはAに対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づき、休職期間満了日の翌日以降の月例賃金の支払い及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率6分の割合による遅延損害金の支払いを求め、提訴した。 - 主文
- 1 原告の訴えのうち、被告に対して本判決確定の後の賃金の支払を求める部分を却下する。
2 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 被告は、原告に対し、平成24年12月21日から本判決確定の日まで、毎月20日限り45万3412円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は原告の負担とする。
5 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 復職に関する本件変更は、従来規定されていない「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを、休職した私傷病者の復職の条件として追加するものであり、労働条件の不利益変更に当たることは明らかである。特にXのような精神疾患の場合、一般に再発の可能性が高く、完治も容易なものではないことから、「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを復職の条件とする本件変更は、私傷病患者の復職を著しく困難にし、労働者の被る不利益の程度は大きいものである一方、本件変更の必要性及びその内容の相当性を認めるに足りる事情は見当たらないことから、本件変更には合理性がなく、労働契約法10条を満たしているということはできず、本件変更後の規定はXに適用されない。
私傷病により休職した労働者につき、休職事由が消滅した(治療した)というためには、原則として、休職期間満了時に、休職前の職務について労務の提供が十分にできる程度に回復することを要し、このことは、私傷病により休職した労働者が主張・立証すべきものである。これを本件についてみると、Xの主治医による本件診断書及び本件情報提供書において、Xが2012年12月14日より就労可能である(治療した)と判断する旨の診断をし、本件情報提供書における所見も、Xが就労可能であるとの結論に影響を与えるものでない旨の意見を述べている。同医師の判断は、Xが2012年8月から同年10月まで利用した東京障害者職業センターのリワークプログラムにおいてXを支援したカウンセラーが、Yの人事部マネージャーに対してした、Xが安定してリワークプログラムを利用することができ、集中力などが回復している様子であるという発言などともよく符号しており、その結論において合理性を疑うに足りる点はなく、Xが就労可能であるとする同医師の診断は十分に信用できるものということができる。以上により、本件療養休職期間満了時において、Xの休職事由は消滅したといえるため、本件雇用契約が終了するものではないと認められる。 - 適用法規・条文
- 労働契約法10条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1112号47頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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